小型で取扱いがやさしく,値段も維持費もそう高くない,手軽な飛行機の総称。とくに厳密な定義はないが,各国の民間航空機の耐空性規準(航空機の安全規準)では,最大離陸重量が5700kg以下の小型の飛行機を輸送機などとは別の規準で扱っているので,これを軽飛行機とすることが多い。こうした飛行機には1人乗り,数十馬力の単発機から,十数人乗りの双発機まで含まれ,なかにはジェット機もあるが,もっとも多いのは2~6人乗り,100~300馬力程度の単発プロペラ機である。軽飛行機は戦闘機や輸送機などの本格的な飛行機に比べ,軽重量でエンジンの出力も低いほか,概して重量のわりに翼面積が大きく翼面荷重が低い。このため離着陸が低い速度でできるので操縦も容易で小さい飛行場でも発着できる。
ライト兄弟の初飛行から第1次世界大戦までは,作られる飛行機のほとんどが軽飛行機的なものだった。しかし同大戦で飛行機が急速に進歩して戦闘機,爆撃機などの機種が生まれ,戦後には定期航空に輸送機が飛び始めると,こうした軍や航空会社用の本格的な飛行機とは別に,個人やグループのための手軽な飛行機が求められるようになった。当初こうした目的に使われたのは,第1次大戦中に多量に作られた練習機の残りであったが,やがて1920年代にはイギリスのデ・ハビランド・モスなど,自家用,クラブ用を主目的に軽飛行機が開発生産され始めた。なかでも成功したのは30年代のアメリカのテーラー・カブで,パイパー社が生産を引き継いでから発展し,40年には年産3000機に達した。これらの第2次大戦前の軽飛行機は,木製や鋼管骨組みに羽布張りがふつうだったが,戦後はアメリカのビーチ社,セスナ社などが軽合金の全金属軽飛行機の量産を始めた。こうした単発の軽飛行機に加えて,やや大きい双発の軽飛行機も1930年代から作られていたが,50年代から企業のビジネス機として盛んに使われ始め,60年代にはビジネスジェット機の生産も開始された。
現在,軽飛行機は世界各国で自家用,レジャーやスポーツ,練習,近距離の輸送,連絡やビジネス,農業や漁業,撮影や測量,資源探査,宣伝や報道,警備や救難,医療や救急など幅広く使われ,ゼネラルアビエーション(民間航空で輸送事業以外の一般航空活動)の主要機種となっている。また軍事面でも練習や連絡などに使われている。なお,日本では第2次大戦後の航空再開以来,セスナ社の軽飛行機が多く輸入されたため,セスナの名が軽飛行機の代名詞のごとく用いられたこともある。
執筆者:久世 紳二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
とくに厳密な定義はないが、小型で軽量の飛行機のこと。FAI(国際航空連盟)のスポーツ規定によると、陸上機、水上機を問わず、エンジンのシリンダー容積9リットル以下の飛行機をさしている。しかし、近ごろではタービンエンジンが普及してきたため、この分類は適切とはいえず、エンジン出力が1台当り600馬力以下といった基準もある。一般的にはアメリカや日本で施行されている耐空性基準(航空機の安全性を確保するための技術上の設計基準)のN(普通)類、U(実用)類、A(曲技)類に属する最大離陸重量が5700キログラム以下で、定員10名以下の旅客輸送を目的としない単発または双発(まれには三発)の小型飛行機をいう。ビジネス用、自家用、スポーツ(曲技飛行、スピードレース)用、農業(農薬・種子散布)用、宣伝・広報用、救難用、測量・写真撮影用、エアタクシー用など、それぞれ機体の特性に応じて広範囲の用途に使用されている。またアマチュアが趣味でつくった自作機なども含まれる。エンジンと翼を備えた飛行機であるから、飛行船、気球などの空気より軽い軽航空機とはまったく異なる。本格的な旅客輸送を目的としてつくられる場合は、前記の条件を満たしていてもN類とは扱わず、安全性がより強く求められるT(輸送)類として扱われ、軽輸送機の範疇(はんちゅう)に入れることになっている。
最近の軽飛行機のほとんどはアメリカ製で、全金属製のセミ・モノコック(半張殻(はんはりがら))構造のため耐候性が強く、エンジンの信頼度がきわめて高いうえ、操縦が容易なことから地上の自家用車なみに取り扱うことが可能で、スポーツ性と実用性とを兼ね備えており、世界的な普及ぶりをみせている。ことにアメリカでは民間機総数約13万4000機の90%以上を軽飛行機が占めているといわれる。室内装備は高級乗用車より豪華なものがあり、大型旅客機なみの航法・電子機器を備えたものも少なくない。またエンジン性能の向上および室内与圧装置の取り付けなどによって飛行範囲は拡大し、すこしぐらいの悪天候でも快適・安全に目的地に到達できる。これに対してヨーロッパ系の軽飛行機は、飛行に対する必要最小限の装備のみを施し、機体構造も一見旧式なものも少なくなく、実用性よりも飛行そのものを楽しむスポーツ性を重視するなど、それぞれ国の事情に応じた機体がつくられている。
[落合一夫]
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