過活動膀胱とは、
過活動膀胱の患者は、日本で約810万人にのぼると推定されています。その頻度は加齢とともに増加し、70歳以上では3割以上の方がこの病気にかかっていると考えられています。
しかし、実際に治療を受けている人は70~80万人と、推測される実数よりかなり少なく、多くの人が誰にも相談できずに諦めたり、我慢したりして悩んでいると思われます。生命的な危険はありませんが、生活の質(Quality of Life:QOL)を著しく低下させる、きわめて一般的で重要な健康問題であるといえます。
排尿筋が過剰に活動することが、過活動膀胱の原因であり、
膀胱には、腎臓で集められた水分と体内の老廃物を尿として保持する機能があり、膀胱が一定の大きさに達すると、尿意を脳に伝えて排尿を行うはたらきがあります。過活動膀胱では、膀胱が大きさに関係なく尿意を発生しやすくなり、頻尿が起こります。
具体的な症状としては、尿意切迫感(急に排尿したくなり、これ以上我慢するともらしてしまいそうになること)、頻尿(1日8回以上排尿すること)と夜間頻尿(睡眠時間中に1回以上排尿に起きること)、切迫性尿失禁(排尿したくなってすぐに我慢できずに失禁してしまうこと)があります。
ただし、同様な症状を来す他の原因が明らかな場合、たとえば下部尿路の炎症、感染症、悪性腫瘍、尿路結石などの場合は、治療方法が異なるため過活動膀胱からは除外します。
症状が進行すると、排尿を意識的にコントロールしにくくなり、切迫した尿意が起こりやすくなるため、トイレに行くのを我慢することができなくなります。そのため、トイレに行く途中でもらしてしまったり、トイレに
診断は、「尿意切迫感を有し、通常これに頻尿および夜間頻尿を伴い、切迫性尿失禁を伴うこともあれば伴わないこともある状態」という自覚症状のみで行われます。
過活動膀胱症例に対する症状の質問票(チェックシート)として、排尿に関係する複数の症状を総合的に評価しやすいように策定されています(表24)。
主な検査としては、腹部超音波検査と膀胱内圧検査があります。膀胱内圧検査は必ずしも必要ではないと考えられています。しかし、尿閉を認める患者では内服薬により症状を増悪させる可能性があるため、残尿量が超音波検査で50ml以上の場合には、膀胱内圧測定などの専門的な検査を受けることが好ましいと考えられます。
薬物療法では、主に抗コリン薬(コハク酸ソリフェナシン〈ベシケア〉・酒石酸トルテロジン〈デトルシトール〉・イミダフェナシン〈ステーブラ・ウリトス〉・塩酸プリピベリン〈バップフォー〉・塩酸オキシブチニン〈ポラキス〉など)を用います。
膀胱を収縮させる信号として神経から「アセチルコリン」という物質が分泌され、膀胱に伝えられます。このアセチルコリンのはたらきを弱めることで、膀胱の収縮を抑えるのが抗コリン薬のはたらきです。
また、α1受容体遮断薬(塩酸タムスロシン〈ハルナール〉・ウラピジル〈エブランチル〉・ナフトピジル〈アビショット〉など)という薬も使用されます。α1受容体遮断薬は、前立腺肥大症の治療薬として使用される薬ですが、前立腺肥大症で長期間、下部尿道閉塞(尿が出にくい状態)が続くと、過活動膀胱の症状が出やすくなります。前立腺肥大症の患者が過活動膀胱を呈する場合には、抗コリン薬よりα1受容体遮断薬を優先的に使用します。
行動療法には、「生活指導」、「排泄介助」、「膀胱訓練」、「理学療法」が含まれます。生活習慣を改善したり、機能の弱まった膀胱や骨盤底筋を鍛えたりすることによって、尿トラブルの症状を軽減することが期待されます。
症状を自覚していても、周囲の人、かかりつけ医に恥ずかしくて相談できない人はたくさんいると推測されています。表にある自覚症状のチェックシートで確認し、過活動膀胱の症状に当てはまる方は、かかりつけ医もしくは泌尿器科の先生に相談するのがよいでしょう。
眞野 訓
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
排尿筋が過剰に活動することによって蓄尿障害をきたす膀胱機能の疾患。尿意切迫感があり、頻尿および夜間頻尿を伴うことが多く、切迫性尿失禁を伴うこともある。略称OAB。尿意切迫感とは、不意にがまんできないような尿意が起こること。また、日中に8回以上の排尿が頻尿とされる。夜間頻尿は就寝中に1回(50歳以上では2回)以上起きて排尿する場合で、下部尿路障害によるものと、夜間多尿や膀胱容量の減少によるものがある。また切迫性尿失禁はいわゆる尿漏れのことで、尿意切迫感に加えて、便所までがまんできずに尿が漏れてしまうことがある。
原因は、脳梗塞(こうそく)などの脳血管障害、脊髄(せきずい)損傷による神経回路の障害、ほかにパーキンソン病や認知症など神経疾患によるものがある。また加齢に加えて、女性では出産により骨盤底筋群が弱くなること、男性では前立腺(せん)肥大症によって起こることもある。
治療は薬物療法が主で、抗コリン薬がもっとも多く使われるが、口渇や便秘、排尿困難などの副作用(抗コリン作用)に注意が必要である。なお、こうした副作用の少ない薬物の開発も進んでいる。ほかに、水分制限などの生活指導や、排尿間隔を延長させる膀胱訓練、骨盤底筋群を鍛える骨盤底筋体操などの行動療法を行う。電気や磁気によって、骨盤底筋群を刺激して収縮力を改善したり、膀胱や尿道などの神経機能を高めたりする電気刺激治療法もある。
[編集部]
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