出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
糞便(ふんべん)の水分量および排便回数の減少をいうが、客観的に定義することはむずかしい。すなわち、健常人の1日糞便量は平均150グラムであるが個人差が大きく、同一人でも食事内容や量によって変動し、排便回数も普通1日1回であるが正常範囲は広く、一般には1週間に3回以上ともいわれる。したがって、臨床的には〔1〕量および回数が非常に少ない場合、〔2〕非常に硬くて排便が困難な場合、〔3〕排便後に残留感がある場合、などを便秘として治療対象とする。一般に便秘を自覚している人は多いが、受診するのはごく一部の人であり、器質的疾患の一症状である場合は別として、本人にまったく苦痛がなく日常生活に支障さえなければ、とくに処置の必要はない。
便秘は、器質的便秘と機能的便秘に大別される。器質的便秘は大腸の器質的障害による糞便の通過障害で、腸管の腫瘍(しゅよう)、炎症、癒着、あるいは腸管外の腫瘍による圧迫などが原因となり、急性の場合は腸閉塞(へいそく)となる。また、大腸の形態異常によって便秘をおこす疾患にはヒルシュスプルング病(先天性巨大結腸症)やS状結腸過長症などがある。機能的便秘には、けいれん性便秘と単純性便秘があり、単純性便秘は弛緩(しかん)性便秘と直腸性便秘に分けられる。
[吉田 豊]
副交感神経の過緊張によるけいれん性収縮のため結腸が機能的狭窄(きょうさく)をおこすもので、過敏性大腸症候群や精神的緊張によるものなどがある。下痢と便秘を交互に繰り返す場合が多い。S状結腸が弁の働きをして腸内容物の直腸への進入を阻止するため、直腸内に糞便が貯留せず、水分が過吸収されて兎糞(とふん)状の硬便となる。排便量が少なく、残留感を訴えることが多い。
[吉田 豊]
大腸の運動と緊張の低下により腸内容の通過が遅れ、水分が過吸収されて便秘をおこすもので、直腸性便秘を合併していることも多く、慢性便秘の大部分が含まれる。老人をはじめ、薬物、内分泌疾患、結腸過長症、繊維の少ない食事などによるものがあり、太くて硬い便が排出される。
[吉田 豊]
直腸へ便が進入しても便意がおこらず、排便反射もないため排便が困難となっているもので、排便困難症ともよばれる。痔(じ)など直腸肛門(こうもん)疾患のために排便痛があったり、多忙のため便意があってもこれを抑制することを繰り返しているような場合にみられるが、下剤や浣腸(かんちょう)の乱用、神経疾患、朝食抜きの食習慣なども排便反射を減弱させる。また、妊娠、肥満、慢性呼吸器疾患、長期臥床(がしょう)などによる腹圧の減弱も原因となる。硬い便を分割して排便するようになる。
[吉田 豊]
器質的便秘の場合は原疾患の治療を行うが、機能的便秘に対しては原則的に生活指導と食事療法を行うべきで、薬物療法を併用することも多い。しかし、薬物療法は生活指導や食事療法でもよい結果が得られない場合に行うほか、正常な排便反射が復活するまでの期間に緩下剤を用いるが、漫然と下剤や浣腸を長期間連用することは厳に慎むべきである。単純性便秘に対しては、便意があればすぐに排便を試みる習慣をつけることが重要で、朝食後は便意がもっともおこりやすく、朝には食事および排便のための時間的余裕をつくるようにする。腹筋の弱い者には適当な運動も必要である。食事は規則正しくとり、腸を刺激して排便運動を促進させる催便性食物、たとえば繊維の多い野菜や果物、黒パン、麦飯、おから、てんぷら、牛乳などを摂取する。けいれん性便秘の薬物療法としては、副交感神経遮断剤、マイナートランキライザー、自律神経調整剤などを投与する。心理的ストレスのみられる場合は環境調整が必要であり、浣腸は長期間便秘が続いた場合に用いる。直腸内の宿便(しゅくべん)を指頭でかき出す摘便が必要なこともある。
[吉田 豊]
便秘には、排便回数が少ない(3日に1回未満、週2回未満)、便が硬い、いきまないと出ない、残便感がある、便意を感じない、便が少ないなど多様な訴えが含まれます。その頻度は全人口の2~12%くらいと考えられ、一般に年齢とともに増加し、また男性よりも女性に多くみられます。
ほとんどの便秘は、腸のはたらきに原因があります(
大腸の便を送り出す力が弱いと、便の回数や量が少ないタイプの便秘になります(
直腸のはたらきに原因があると、便意を感じないとか、いきんでも便が出にくいタイプの便秘になります(
また、大腸の緊張やけいれんにより、便がとどこおりやすいために起こる便秘もあります(けいれん性便秘)。
腸のはたらきに影響を与えるものとしては、食事、生活習慣、運動、ストレスなどがあります。
食事として摂取する食物繊維の量が少ないと、便が小さく硬くなり、大腸を通過しにくくなります。トイレをがまんする習慣は便意を感じにくくさせ、寝たきりなどで体を動かさなくなると腸の
大腸がんやクローン病といった、大腸が狭くなる病気で起きる便秘症状は、
便秘症状の現れる時期はさまざまです。一般には、高齢になるにしたがって増える傾向にありますが、若い女性の便秘は思春期のころに始まることも少なくありません。
旅行や生活の変化に伴う数日間だけの一過性の便秘(単純便秘)と、症状が1~3カ月以上続く慢性便秘があります。
それまで規則的であった排便が便秘に変化した場合や、便に血が混ざるとか、腹痛を伴うような場合は、前述の器質的便秘が疑われるので、早めに検査を受ける必要があります。
器質的便秘が疑われる場合は、まず大腸の検査を行います。これには注腸X線検査と大腸内視鏡検査があり、ポリープやがん、炎症性腸疾患などを診断します。
機能的な慢性便秘を詳しく調べる検査として、X線マーカーを服用して大腸の通過時間を調べる検査や、バリウムによる
食事・生活指導、運動、
緩下剤は、腸への刺激がなく、水分を保持して便を軟らかくする酸化マグネシウムなどの塩類下剤を主体として使用します。センナ系、漢方などの速効性の刺激性下剤は、できるだけ常用しないように心がけます。刺激性下剤を常用すると、次第に腸が下剤の刺激に慣れて効果が鈍くなり、ますます便秘が悪化することがあるためです。
便秘(症)は、一般に排便回数が週に3回以下と少なく、排便困難を伴った場合とされます。排便困難とは便が硬いために排便時に痛みを伴い、便に血液がついてしまうようなことをいいます。
便が硬いこと、残便感、便成分で下着を汚すこと(オムツがとれている子どもで)も症状のひとつです。
習慣性(機能性)便秘がほとんどですが、そのほかにはミルク不足などの食事性や症候性、薬剤性があります。症候性(器質的疾患に伴うもの)のなかには、ヒルシュスプルング病や消化管
この項では主に習慣性便秘について説明します。以下はその発生に至る経過です。
大腸の便が肛門近くまで到達すると、その部分の腸が拡張して神経を刺激し、これにより便意が発生し、排便を促します。しかし、何らかの理由(遊びに夢中、学校でトイレに行きたくないなど)で便意を我慢すると、拡張した腸から伝わる神経の刺激に鈍感になり便意が起きにくくなります。また、水分が吸収されて便が硬くなり、排便すると痛くなるため排便を避けるようになります。
この状態が続くと、たまった便によって直腸が広げられてしまい、便が到達してもほとんど便意が生じにくくなります。この悪循環によって習慣性便秘は起こります。
症状は便回数の低下、硬い便のほかに、残便感、
腹痛のために救急外来を受診する子どもの多くは便秘によるものです。
問診による病歴の聴き取りと腹部の診察が重要です。浣腸によって排便を促し、便の性状を確認します。腹痛(急性、慢性いずれもあり)を訴えている場合では、腹部X線検査が必要になることもあります。尿路感染症の合併が疑われたら、血液検査や尿検査を行います。
難治例で精密検査や入院治療が必要な場合や、症候性便秘の可能性がある場合は、専門医への紹介が必要です。その場合、ヒルシュスプルング病などとの区別のため、消化管造影や直腸内圧検査、直腸粘膜生検などを行うこともあります。
治療の基本は悪循環を断ち切り、排便のリズムを取りもどすことです。まず、下剤や浣腸で直腸にたまった便を十分に排便させ、その後も便がたまらないようにします。十分な量の便軟化薬を使用します。
ヒトは起床し活動しはじめると、腸運動も活発になります。また、冷たい水分(たとえばオレンジジュース)も腸運動を促進させるので、起床後に冷たいジュースを飲ませて10分後、あるいは朝食後などの決まった時間に、トイレに行かせるように習慣づけるのも効果的です。便器に座ることにより腹圧が生じやすくなり、排便を促進します。
大きい子はトイレに10~15分を限度として座らせます。幼児は暗いトイレを嫌がるので、明るい場所でおまるを使うほうがよいでしょう。
これを2~3カ月続けると規則的な排便ができるようになってきます。食事療法も重要です。野菜や海藻、穀類、コンニャクなどで食物繊維を多く摂取するようにしてください。
排便習慣の確立は、とても時間のかかることです。かかりつけ医の定期的な診察を受けて、あせらずに生活習慣を改善していきましょう。
春名 英典
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
大腸内に糞便が長く停滞する状態をいう。日常的には長い日数(2日または3日以上)便通がないとか,硬く乾燥した便が排出するとか,排便が不十分で残便感を感ずるなどのときの表現として用いられている。便秘は機能性便秘と器質性便秘とに分けられる。前者は自律神経,消化管ホルモン等の影響で,結腸の有効な運動が低下し内容物の輸送が十分に行われないために起こるものをいい,後者は腫瘍(癌等)や炎症,それに伴う癒着などの器質的な病変によって通過が障害されて起こるものをいう。
機能性便秘は,さらに弛緩性便秘と痙攣(けいれん)性便秘とに分けることができる。弛緩性便秘は,大腸が弛緩して腸内容の輸送が十分に行われず,大腸内に腸内容物が長時間停滞しかつ水分の吸収が行われるために,糞便が硬くなり排便困難になるものである。腸管内のアウエルバハ神経叢の興奮性の低下,筋力の減弱,腹圧の不十分さなどが原因としてあげられており,老人ややせた人,座業に従事する人,きわめて消化のよい食事をとる人などにみられる。横行,下行結腸に糞塊を触れることが多く,直腸内宿便の存在がこの型の便秘の特徴とされている。大腸の蠕動(ぜんどう)を抑制するモルヒネ,抗コリン剤,向精神剤などの薬剤の服用も大腸の弛緩をひき起こし,この種の便秘をもたらす。また長期臥床,甲状腺機能低下,強皮症,妊娠等にも便秘がしばしばみられる。
痙攣性便秘は自律神経の不安定にもとづく下部結腸の異常緊張状態により起こるもので,腹部膨満,腹痛等の腹部症状が多く,便が小さく,細く兎糞状を呈することがある。初めは硬いが終りのほうは軟便を呈することもある。便意があってもうまく排便しがたく残便感がみられることが多い。消化性潰瘍,胆石症,胆囊炎,慢性膵炎などの疾患が合併している人に多い。下痢と便秘を繰り返す過敏性腸症候群もこの型の便秘である。付随する症状として,二次的に腹部膨満感,吐き気,放屁,腹鳴といった通過障害に起因する症状がみられる。また便秘をひき起こしやすい患者がもつ自律神経不安定症状としての肩こり,めまい,疲労感なども合併していることが多い。持続性の慢性の便秘を一般に習慣性便秘と呼んでいる。
器質性便秘としては大腸癌によるものなどがあるが,急に原因不明の便秘が起こってきたときには大腸癌などを疑って検査を受ける必要がある。先天的には巨大結腸症や大腸過長症があり強い便秘をもたらす。
便秘の治療としては繊維性食品(いも,野菜,果物),良質の脂肪を多くとり,水分摂取を多くするとよい。早朝の冷水,牛乳も胃-大腸反射を促して排便を起こさせる。毎日時間を決め,便意がなくても便所に行き排便を試みることがたいせつである。腹筋を強くする体操,マッサージなど体力をつけることも役立つ。下剤にはグリセリンなどの潤滑剤,硫酸マグネシウムなど腸管内水分の吸収を妨げ便の軟化を図る塩類下剤,吸水膨張して腸運動を促進する膨張剤,ヒマシ油などの腸粘膜を刺激する刺激剤など,いろいろの薬剤がある。薬を服用し規則正しい便通が得られたら,しだいに減量し間欠的投与に切りかえて下剤から離脱するように努めるとよい。ストレスを避け,食事療法,運動等の理学療法で規則正しい排便に導くことが望ましい。強度の糞詰りには高圧浣腸,指を使用しての摘便が行われている。
執筆者:福富 久之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…便秘による症状の軽減,腸内容物の排除,腸内のガスの除去などの目的で,肛門から直腸内に薬液,または大量の水分を圧力を加えて注入することをいう。便秘による症状には,便秘の程度にもよるが,食欲不振,腹部膨満,悪心,嘔吐,腹痛,頭痛,発熱,倦怠感などがある。…
…この水分吸収能が低下すると,水分の含量の多い便が排出されることになり,下痢となる。また便が長く大腸に停滞する(便秘)と,水分が過剰に吸収されて固い便となる。水の吸収は受動的に行われており,水の吸収をもたらすのは電解質の動きである。…
…軽い下痢でも長時間続くと著しい低カリウム血症をきたす。下痢の反対は便秘である。頑固な便秘や急に便通の様子の変わった場合には,病的原因の有無を精査する必要がある。…
※「便秘」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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