遺伝と環境の相互作用により発症する疾患

内科学 第10版 の解説

遺伝と環境の相互作用により発症する疾患(遺伝子疾患)

(1)多因子遺伝病の病因遺伝子
 上述してきたような疾患遺伝子概念はもともとMendel遺伝病に対して提唱されたものであり,多因子遺伝(非Mendel遺伝)病に対してそのまま適用することはできない.そこで,疾患遺伝子は概念的に大きく2種類に分けて説明される.1つはMendel遺伝病の病因遺伝子や多因子遺伝病でも大きな効果をもつ主働遺伝子 (major gene)の場合であり, その遺伝子が発症にとって(十分でなくとも)必要なものである.もう1つは多因子遺伝病の大部分の病因遺伝子の場合であり,発症にとって必要でも十分でもないが,それを有することでリスクが高くなると考えられるものである.これは,後述する易罹患性診断において,SNPなどの意義を検討する際に重要な概念である.
 遺伝的効果がマイルドな多因子遺伝病のゲノムスキャンにおいては,網羅性の高い多型性マーカー・セット(50万~100万種類のSNPマーカーなど)を用いて大規模なサンプルを調べる必要がある.そのためのアプローチとして,ゲノムワイド関連解析(genome-wide association study:GWAS)が2005年頃から本格的に実施されるようになった.それまでのゲノムスキャンの主流は罹患家系を対象としたゲノムワイド連鎖解析(同胞対解析を含む)であったが,GWASは非血縁者を対象に実施できるため,サンプル数を拡大して検出力を大幅に高めることが可能となった(詳細は加藤(2011)参照).その結果,糖尿病や高血圧,心筋梗塞などの多因子遺伝病の新規感受性遺伝子座が過去数年間に次々と同定された.2011年半ば時点で,GWASにより同定された遺伝子座は約1450カ所にのぼる.こうした比較的高頻度(5%以上)のSNPによるGWASでは,一部の例外はあるものの, 個々には20~50%程度(オッズ比1.2~1.5)のリスク上昇効果を示す遺伝子が相当数(数十カ所以上)存在し,それらが疾患感受性の一部をなしていることが判明した.同時に,疾患感受性の全体構造の解明には大きなハードルが存在することも明らかとなってきた.すなわち比較的高頻度の感受性変異だけでは,多因子遺伝病の遺伝率(heritability:集団における表現形質のばらつきが個体間の遺伝要因で決定されている割合)の多くの部分を説明することができず,“何が見逃されているのか”(missing heritability)という命題が探究されている.このmissing heritabilityの要因の1つは,低頻度だが大きな遺伝的効果をもつ感受性変異(群)であろうと推定されており,それを検出すべく,低頻度SNPをも含めたGWASや全ゲノム塩基配列再決定が進められつつある(Strachanら,2011).
(2)個別化医療
 個別化医療(ないしテーラーメイド医療)とは,個々の罹患者の疾患の状態を正確にとらえて副作用のない真に有効な治療を提供することを意味する.狭義にみれば,特定の治療薬が効くかどうか,副作用が起こりやすいかどうかという点に注目することになるが,広義にみれば,成因を含めた疾患の状態に関する詳細な情報を収集し個々の患者に最適な治療法を提供することにかかわってくる.糖尿病や高血圧などの多因子遺伝病は,便宜的に定められた臨床的基準に基づいて診断される‘症候群’であり,実際のところは,成因を異にする疾患の集まりかもしれない.したがって「どの治療法が最も有効であるか」という科学的選択を行う際にも,個々人の遺伝素因,生活習慣などの非遺伝要因に関する情報が不可欠となる.[加藤規弘]

文献加藤規弘:ゲノムワイド関連解析(GWAS).動脈硬化予防,10(3),98-99,2011.
Strachan T, Read AP: Chapter 15 複雑な疾患の遺伝的マッピングと同定.ヒトの分子遺伝学第4版(村松正實,木南 凌,他監訳),pp537-569,メディカルサイエンスインターナショナル,東京,2011.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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