鉱山儀礼(読み)こうざんぎれい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「鉱山儀礼」の意味・わかりやすい解説

鉱山儀礼
こうざんぎれい

採鉱精錬関係の職人団に伝承されてきた儀礼。金掘り(金銀銅鉛の採掘)と「たたら」(製鉄、精錬)の職人仲間には山神信仰にかかわる特異な祭祀(さいし)慣行があり、また仲間交渉に即しても種々の儀礼的慣行があった。まず「一人前」の鉱夫として仲間に加えられるには「取立て」などという儀礼があり、特定の親方をたてて「親子の杯(さかずき)」を交わしたすえ仲間に披露された。いわゆる「山中大会」ではこうして数人の合同「取立式」が行われるのが恒例で、ついで盛大な酒宴に移った。また他の鉱山に出向する際にも、こうした関係による「仲間入り」の儀礼があり、そのため古くは「金掘由来記」などという職の「由来書」の所持が重視されもした。定住本拠をもたぬ鉱山職人にはこうした身元保証の仕組みが別にあって、その「仲間入り」には特殊の儀礼がおのずから生じたのである。鉱山職人は山神信仰に厚く、どの鉱山でも山神を祀(まつ)り、その祭祀はにぎやかに行われてきた。町場居住の鍛冶(かじ)職などでも、11月8日の鞴祭(ふいごまつり)や2月の稲荷祭(いなりまつり)は丁重に行われてきた。とくに製鉄に従う「たたら」の仲間は、「山内(さんない)」という特殊な集落生活を山中に営み、その守護神としての「金屋子神(かなやごがみ)」の信仰は厚いものがあり、特異の祭祀伝承をもってもいた。金屋子神は女神で、ムラゲ(製鉄の技術長)とオナリ巫女(みこ))を伴って降臨して、製鉄(たたら)の業を創始したということであり、その祭祀がいわば「山内」統合の中心ともなっていたのである。山神に「目ひとつの神」という伝承があるのも、「たたら」作業の厳しさに関連するという説もあるが、ともかく鉱山職人、とくに「たたら」の製鉄職人団と山神信仰との関係は深く、いろいろ特異な儀礼が久しく伝存されてきた。しかし、近代の鉱業生産組織はまったく一変して、こうした古い鉱山職人団の諸儀礼もほとんど旧時の記憶だけにとどまるようである。

[竹内利美]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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