単に金屋神とも,また金鋳神(かないがみ)ともいう。たたら師,鉄穴師(かんなじ),鍛冶,鋳物師(いもじ)などの間で祭られている火の神・製鉄の神。〈金屋〉とはおおむね中世から近世の初めころにかけて使われていた,採鉱冶金の徒を意味する言葉で,その金屋が持ち歩いていたためにこの名がある。近世になり,職業の分岐に伴って,鉱山では主として山の神を守護神とするようになり,この金屋子神の方は主として砂鉄製錬のたたらおよびそれに直接つながるもののみの神となった。そのため現在では中国山地の,かつてのたたら地帯に最も多く残っている。神社として祭られているものもあり,島根県安来市の金屋子神社はその本社であると伝えている。この神は女が嫌いで,血の穢れ,産の穢れを極端に忌むが,死の穢れの方は全く忌まないし,ときには死の穢れがかえって鉄をよくわかすようにするという伝承もある。
執筆者:石塚 尊俊
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
鍛冶(かじ)職、鋳物(いもの)師、冶金(やきん)業者、炭焼きなどが祀(まつ)る神。中国山地にはたたら(冶金に用いる大型ふいご)が多く存在した関係で、この神を祀った所が多い。その中心は島根県安来(やすぎ)市広瀬町西比田(にしひだ)の金屋子神社で、神官阿部氏は絶大な法力を伝えた家だという。「金屋子神祭文」(『鉄山叢書(てつざんそうしょ)』所収)によると、初め高天原(たかまがはら)から播磨千種(はりまちぐさ)に降臨、のち白鷺(しらさぎ)に乗って出雲(いずも)比田山中に移り、7か所にふいごを立て製鉄を教えたという。また『金屋子神縁起抄』によれば、山の神と海竜王の姫との間に生まれた金山姫命(かなやまひめのみこと)が、金山彦神と結ばれて生まれたのが金屋子神だという。金屋子神は女神で犬や赤不浄(血の穢(けがれ))は忌むが、黒不浄(死の穢)を忌まないという伝承が伴う。
[萩原龍夫]
…事実彼らと農民とのあいだには少なからぬ習慣の違いがあり,信仰の違いもあった。農民が田の神をまつるのに対して,彼らは火の神,鉄の神である〈金屋子神(かなやごがみ)〉をまつるが,この神は清浄をもっぱらとし,血の穢(けが)れを極端に嫌う一方,死の穢れはいとわぬという奇妙な伝承があった。そうしたことから一般農民は鍛冶を一面では気味悪がり,他面では頼りにするという気持ちをもった。…
…だが丁場(ちようば)と呼ばれる石切場で石材採掘をする山石屋のあいだでは山の神をまつる風習があり,11月7日に丁場にぼた餅,神酒を供えてまつり一日仕事を休む。 冶金,鋳金,鍛鉄の業,すなわち鑪師(たたらし)や鋳物師(いもじ),鍛冶屋の神としてその信仰のもっともいちじるしいのは荒神,稲荷神,金屋子神(かなやごがみ)である。荒神は竈荒神,三宝荒神の名があるように一般には竈の神,火の神として信仰され,なかには別種の荒神として地神,地主神あるいは山の神として信仰される場合もあるが,鍛冶屋など火を使う職業の徒がこれを信仰することは,火の神としてまつられる荒神の性格からきたものであり,それには修験者や陰陽師などの関与もあった。…
…たたら作業は送風と火の色の判断が重要で,砂鉄採取である鉄穴流し(かんながし)を農民が行うほかは,すべてたたら師が行った。たたら師は守護神として金屋子神(かなやごがみ)をまつったが,この神はたたら技術の祖神ともされ,村下に技術を伝授したとか,たたら師の先祖をいっしょに連れて降臨したと伝えられている。たたら作業は危険で一瞬の判断ミスも許されない作業だけに,女や血の穢(けが)れはきびしく忌まれた。…
※「金屋子神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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