たたら

精選版 日本国語大辞典 「たたら」の意味・読み・例文・類語

たたら

  1. 〘 名詞 〙たださ

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「たたら」の意味・わかりやすい解説

たたら

平安時代、10~11世紀の和歌や物語に、鋳物師がたたらを踏んで鉄を溶融・鋳造することが出てくる。このたたら(踏鞴の文字をあてる)は、木炭を燃料とする鋳鉄溶融用の炉に送風するための足踏み式ふいごである。たたらふいごを用いた炉もたたら(鑪)とよばれた。日本での鉄器の使用は弥生(やよい)時代とともに始まったが、国内での製鉄は6世紀後半から福岡県西部および岡山県吉井川上流山地などで、砂鉄から木炭を燃料兼還元剤とし海綿鉄塊を生産することが始まった。7世紀後半から律令(りつりょう)時代にかけて、地方産鉄の中央政府への貢納が行われたことは、古文献に記載されており、出土木簡で実証された。産鉄地は中国地方山地、能登(のと)半島、鹿島灘(かしまなだ)沿岸、琵琶(びわ)湖北方山地、福岡県西部、熊本県北部、利根(とね)川上流丘陵地などであった。中国地方山地の8~9世紀の製鉄遺跡の炉跡は、平面形が長方形ないし長楕円(だえん)形をなしている。広島県北広島(きたひろしま)町大矢遺跡(10世紀)の製鉄炉跡では、長方形炉跡の下部に、近世のたたら製鉄炉の地下構造に類似した構造、および炉の両側にふいご用台座らしい場所が認められた。これらの炉では、たたらふいごを用いて砂鉄から鋳鉄を生産したものと考えられる。

[原善四郎]

たたら製鉄法

近世から大正年間まで中国地方山地で盛行していたたたら製鉄法は、地上に粘土で築いた長方形の低炉に木炭および砂鉄を互層に装入し、炉の長辺下部に配置した多数の羽口(はぐち)を経てふいごから炉内に送風し、木炭の燃焼熱と還元作用で製鉄する方法である。操業の進行とともに炉材自体が砂鉄と反応して鉱滓(からみ)を生成する。ほぼ4日間で炉壁内面が侵食されて操業を継続できなくなる。この期間を一代(ひとよ)と称した。操業法には赤目(あこめ)砂鉄を用いて銑(づく)を生産する銑押(づくおし)法、および真砂(まさ)砂鉄から鉧(けら)を生産する鉧押(けらおし)法の2種があった。銑押法は古くからあり、鉧押法は14世紀から始まったという。赤目砂鉄は安山岩などのケイ酸分の低い母岩中の砂鉄(磁鉄鉱チタン鉄鉱、赤鉄鉱からなる)であり、真砂砂鉄は花崗(かこう)岩など高ケイ酸質母岩からの砂鉄である。銑とは炭素量が3%以上の鉄、すなわち鋳鉄(融点1150℃)のことである。銑押法では、生成する溶融銑を炉体短辺下部に設けた湯地(ゆじ)穴から流出させ、砂床で円盤状に凝固させ、小割りして製品とした。製品は生鉄(なまがね)とよばれ、鋳物原料として出荷された。鉧は炭素量1%前後の鋼(融点1450℃)である。鉧押法では炉底に鉧塊が生成してくる。一代の終期に炉体を崩し、鉧塊を引き出しそのまま冷却するか、あるいは鉄池(かないけ)とよばれる池に投入して急冷する。冷却した鉧塊は銅場(どうば)(銅は鋳鉄製の重錘(じゅうすい))で破砕し、鋼作場(はがねつくりば)で鉱滓や木炭屑(くず)を除き、破面、色沢、展延性によって品質を選別して製品とした。銑を含まない上質部分が造鋼(つくりはがね)とよばれ、日本刀など刃物の刃部の材料となった。造鋼は玉鋼(たまはがね)ともよばれ、リン、硫黄(いおう)などの不純物を含まない点で優れた鋼材であった。上質部分以外の鉧や銑は、大鍛冶(かじ)場において炭素量0.2%以下の包丁鉄に加工した。それにはまず左下(さげ)場の火床において差しふいご(手押し式箱型ふいご)から送風する木炭火床で半溶融状にまで強熱し、炭素分を0.3~1%程度まで酸化、除去して左下鉄をつくり、続いて本場において火床で加熱、脱炭する作業と鍛打して鉱滓を絞り出す作業を繰り返し、厚さ1センチメートル程度の短冊状の包丁鉄を製造した。包丁鉄(明治政府の統計では錬鉄という)は鍛接性がよく、農・工具や釘(くぎ)の材料となった。たたら炉は大約、一代当り砂鉄13トン、木炭15トンを用いて3.5トンの鉄を生産した。鉄の収率は60%程度で、鉱滓への損失が多かった。最盛期(1890年)には中国地方山地に230基ものたたら炉があり、その産鉄量は年間1万7000トンに達した。

 たたら炉は古くは野外に設けられ野だたらとよばれた。17世紀初頭から高殿(たかどの)とよばれる大型建家の中に設けられるようになった。高殿の中央の炉の位置の地下には排水、防湿、断熱の目的で、床釣(とこつり)とよばれる地下構造が設けられた。送風装置はたたらふいごのほかに、時代、地方によって差しふいごも用いられた。17世紀末にたたらふいごを改良した天秤(てんびん)ふいごが発明され、普及した。高殿内には作業長の村下(むらげ)以下の炭坂(すみさか)、炭焚(すみたき)、番子(ばんこ)などの作業員の控所、原料置場が配置された。高殿を中心に元小屋(管理事務所)、米倉、長屋(作業員住宅)、鉄池、金屋子(かなやこ)神社などで製鉄集落が構成され、山内(さんない)とよばれた。山内を経営したのは、木炭供給用の広大な山林を所有する鉄山師であった。

 原料の砂鉄は、砂鉄を含んだ風化岩盤を掘り崩し、水流に沿って直列に設けた多数の沈殿池中で土砂を洗い流し、砂鉄を池底中に残すという一種の比重選鉱法によって採取された。この作業は鉄穴(かんな)流しとよばれ、冬季、農家の副業であった。

[原善四郎]

『俵国一著『古来の砂鉄製錬法』(1933・丸善)』『前田六郎著『和銅・和鉄』(1943・河出書房)』


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百科事典マイペディア 「たたら」の意味・わかりやすい解説

たたら(鑪/踏鞴)【たたら】

日本古来の製鉄法で,日本刀に必要な玉鋼(たまはがね)をつくった。有史以前に発し,良質の山砂鉄のある中国地方で盛んであったが,明治中期以後衰微した。炉は耐火粘土で築造し,大きさは江戸〜明治初期のもので,大体,長さ2.7m,幅0.9m,炉壁の厚さ9〜15cmの方形で,高さは【けら】押(けらおし)(和鋼(わこう)の製造)では0.9〜1.2m,銑押(ずくおし)(和銑の製造)では1.2〜1.5m。砂鉄,木炭を交互に装入し,ふいごで送風,強熱して製鉄する。
→関連項目大板山たたら製鉄遺跡砂鉄鉄鋼道後山和鉄

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「たたら」の意味・わかりやすい解説

たたら

日本古来の砂鉄製錬炉(→砂鉄)。送風装置のふいごも「踏鞴」と書いてたたらと呼び,また製錬炉とふいごを備えた建物全体も「高殿」と書きたたらと呼んだ。たたらを用いる製鉄は弥生時代から行なわれたといわれるが,確認されていない。奈良時代には渡来人らによって播磨国美作国備前国備中国備後国出雲国の山中で行なわれたことが文献にみえる。江戸時代に全盛をきわめたが,幕末に洋式製鉄法が伝わるとともに衰微した。(→たたらぶきたたら師

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デジタル大辞泉プラス 「たたら」の解説

たたら

長野県長野市で生産されるダイコン。表面が鮮やかな赤紫色で、中は白い。肉質はやわらかで、辛みは少ない。18世紀初頭の古文書に、蕎麦の薬味に推奨されたとの記述がある。

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