鑑別診断を検証する

内科学 第10版の解説

鑑別診断を検証する(患者へのアプローチの基本)

 図1-2-2で「データを集める」と「疾患の筋書きをみつけ出す」の間にループになる形で双方向の矢印が引かれているように,鑑別診断をあげた後にも,個々の鑑別診断について,医療面接・身体診察・検査などを通じて,その診断を支持する情報と否定する情報を集めて検証する作業を繰り返し,早合点を防ぐ.
1)検証作業の要点:
この検証作業の要点を表1-2-9に列挙する.
 その時点で推測される診断の確率(検査前確率)や新たな情報がもつ特性(感度,特異度など)を意識することは,無意味な検査を減らすことにつながる.検査前確率が高い(低い)疾患は,検査が陰性(陽性)だとしても,偽陰性(偽陽性)の可能性が高いことに特に注意する必要がある.感度のよい検査は,それが陰性であった場合に疾患や病態を否定する(rule out)のに有用であり,特異度がすぐれている検査は陽性であった場合に肯定する(rule in)するのに役立つ.
 病因を一元的に説明できる疾患や病態を想定することが妥当なのは,50歳程度までといわれている.特に患者が高齢者の場合には,慢性疾患と急性疾患を組み合わせるなど,多元的に説明することを念頭におく. 病状に緊急性が少ないと判断できた場合は,経過を観察することも,診断に迫るための重要な手段となり得る.経過観察で診断を詰めるには,その意義について患者や家族の理解を得なければならない. どのような検査を追加して行うかを判断するには,それぞれの検査の意義を「検査閾値」と「治療閾値」を意識しながら検討する.検査閾値とは,診断の可能性がその値を下回っていれば追加の検査をせずに診断を否定する境界の値である.治療閾値とは,診断の可能性がその値を上回っていれば追加の検査をせずにその診断を肯定して治療を開始する境界の値である.これらの値には,疾患の検査前確率・経過・重篤性,検査や治療に伴う副作用,治療による便益など,多くの要因が関係する.
2)鑑別診断が思い浮かばないとき:
鑑別診断が思い浮かばない場合や,その妥当性に自信がもてない場合には,非常時に非常口を使うように,そのような状況にあるということを1つの情報としてとらえ(一種のメタ認知といえよう),上記の対応とは異なる方針に切り替える.そのような場合の方針としては,表1-2-4のような標準的な枠組みで症例に関する情報を網羅的に集めて整理し,それを基にあらためて仮説演繹法で(可能であれば症例検討会などで)再検討することが勧められる.[大滝純司]
■文献
Bowen JL: Educational strategies to promote clinical diagnostic reasoning. NEJM, 355: 2217-2225, 2006.
Cole SA, Bird J 著,飯島克巳,佐々木将人訳:メディカルインタビュー−三つの機能モデルによるアプローチ 第2版,メディカル・サイエンス・インターナショナル,東京,2003.
中川米造:過誤可能性.医学の不確実性,pp30-31, 日本評論社,東京,1996.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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