雨に唄えば(読み)あめにうたえば(その他表記)Singin' in the Rain

改訂新版 世界大百科事典 「雨に唄えば」の意味・わかりやすい解説

雨に唄えば (あめにうたえば)
Singin' in the Rain

ジーン・ケリー,スタンリー・ドーネン共同監督・振付によるアメリカのミュージカル映画。1952年製作。トーキーの出現によって変貌する1927年(最初のトーキー映画《ジャズ・シンガー》が公開された年である)のハリウッド舞台に,映画製作の内幕悪声のスターが失脚し,美声の一少女が幸運をつかむ等々)が,〈ジャズ・エージ〉の風俗とともに描かれ,単純な〈ボーイ・ミーツ・ガール〉形式のミュージカル・コメディとはひと味異なるくふうが凝らされている。主演のジーン・ケリーが,恋を得た喜びに,どしゃ降りの夜更け街角でずぶぬれになって歌い踊りまくるナンバー〈雨に唄えば〉は,クレーン撮影を駆使した画面の躍動感とともに,〈MGMミュージカル〉の数々の名場面の中でも白眉とされ,その後いろいろな映画に引用されたり,パロディ化されたりしている(例えば《時計じかけのオレンジ》1971)。〈MGMミュージカル〉を育てた名プロデューサー,アーサー・フリードがみずから作詞した名曲集大成としても知られる。封切当時よりも年とともに評価が高まり,〈映画史上のベスト・テン〉といった催しには必ず選出される名作の1本になっている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「雨に唄えば」の意味・わかりやすい解説

雨に唄えば
あめにうたえば
Singin' in the Rain

アメリカ映画。監督ジーン・ケリーGene Kelly(1912―1996)、スタンリー・ドーネンStanley Donen(1924―2019)。1952年作品。メトロ・ゴールドウィン・メイヤー社(MGM)が牽引(けんいん)したミュージカル映画黄金期の作品で、このジャンルの成熟度がみてとれる秀作。スター俳優ドン(ジーン・ケリー)と彼に好意を寄せるコーラスガールのキャシー(デビー・レイノルズDebbie Reynolds、1932―2016)とのロマンスの物語のなかに、トーキー時代の到来によるミュージカルジャンルの誕生という映画史的プロットが盛り込まれている。物語の筋は圧縮され、ダンスシーンの比率が多く、ダンサーと同じようにカメラも振り付けられたかのように動くことで、ダンスシーン自体が物語を進める推進力となっている。ケリーは土砂降りの雨のなかで、歌いながら街灯の周りを回り、水たまりの水をはねあげ踊る。その躍動感あふれるダンスをクレーンショット(巨大なアームに似たクレーン装置を使って撮影したショット)や、旋回運動などを交えてカメラもまた移動していく。「カメラの動き」を巧みに使うことで、舞台ではなしえない、映画という情報媒体を存分に生かし、ミュージカルという既存のジャンル様式の壁を一枚破った作品。1960年代のブロードウェー・ミュージカルの映画化という、次世代のミュージカル映画スタイルへの布石ともいえる画期的作品。1953年(昭和28)日本公開。

[堤龍一郎 2019年3月20日]

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デジタル大辞泉プラス 「雨に唄えば」の解説

雨に唄えば

①1952年製作のアメリカ映画。原題《Singin' in the Rain》。ジーン・ケリー主演のミュージカル映画の傑作。監督:ジーン・ケリー、スタンリー・ドーネン、共演:デビー・レイノルズ、ドナルド・オコナーほか。
②アメリカのポピュラー・ソング。作詞:アーサー・フリード、作曲:ナシオ・ハーブ・ブラウン。原題《Singin' In The Rain》。①の主題曲。主演のジーン・ケリーが雨の中タップを踊りながら歌う有名なシーンで使用されている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「雨に唄えば」の意味・わかりやすい解説

雨に唄えば
あめにうたえば
Singin'in the Rain

アメリカ映画。ローズ・インコーポレイテッド,MGM1952年制作。監督スタンリー・ドーネン,ジーン・ケリー。脚本 A.グリーン,B.コムデン。サイレントからトーキーに移り変ろうとするハリウッドの映画撮影所を背景として,花形映画スターとコーラスガールとの恋の成就を描いたミュージカル映画の傑作。

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世界大百科事典(旧版)内の雨に唄えばの言及

【ミュージカル映画】より


[ミュージカル映画の誕生]
 1920年代の初めにレコードを通じて全米のアイドルとなっていたアル・ジョルスンAl Jolson(1886‐1950)が,ワーナー・ブラザースの実験的なサウンド短編《エープリル・シャワーズ》(1926)につづく《ジャズ・シンガー》(1927)で《マイ・マミー》や《ブルー・スカイ》を歌ったとき,〈トーキー映画〉と〈ミュージカル映画〉が同時に誕生した。その後,ミュージカル映画はハリウッドの各社で次々につくられたが,そのなかで,MGMのアービング・タルバーグが2人の若いソング・ライター,すなわち作詞家のアーサー・フリード(1894‐1973)と作曲家のナシオ・ハーブ・ブラウン(1896‐1964)のコンビを起用してオリジナル・ナンバーを書かせ,ハリー・ボーモント監督により〈100%オール・トーキング,100%オール・シンギング,100%オール・ダンシング〉といううたい文句で製作してアカデミー作品賞を受賞した《ブロードウェイ・メロディー》(1929)が,初期のミュージカル映画の原型とされる(のち〈MGMミュージカル〉のシンボルの一つにすらなった名曲《雨に唄えば》もこの作品のナンバーの一つであった)。この成功に刺激されて,ワーナー・ブラザースの《ブロードウェイの黄金時代》(1929),ユニバーサルの《キング・オヴ・ジャズ》(1930),フォックスの《フォックス・ムービートン・フォリーズ》(1930),パラマウントの《パラマウント・オン・パレード》(1930)など,〈バックステージもの〉(舞台裏を描いたミュージカル)やレビュー形式のミュージカル映画が数多くつくられ,ひたすら華麗に見せる現実逃避的な内容は大同小異ではあったが,不況下の観客に夢をあたえた。…

※「雨に唄えば」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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