電子線リソグラフィー(読み)でんしせんりそぐらふぃー(英語表記)electron beam lithography

日本大百科全書(ニッポニカ) 「電子線リソグラフィー」の意味・わかりやすい解説

電子線リソグラフィー
でんしせんりそぐらふぃー
electron beam lithography

半導体集積回路の製造過程における電子線を使った回路パターンの形成方法のことをいう。電子回路は年々小型化が進んでいるが、現在のように集積回路として微細化された理由は、1枚のシリコンウェハー(円板)の表面に非常に多くの部品を作り付けるプレーナー技術に負っているといってよい。この技術の基本となっているのは微細な回路パターンを刻むリソグラフィー技術である。これまでは光学レンズを用いて作製したフォトマスクを通して光で感光材料(レジスト)に転写する光リソグラフィー(フォトリソグラフィ)方式が行われてきたが、さらに微細で複雑なパターンを作成する新たな方式が不可欠となってきた。パターンの解像度は、光の場合には光の波長で与えられ0.1マイクロメートルが限界である。電子線の場合には波長は問題にならないほど小さいため(約10万分の1マイクロメートル)、レンズや偏向系の収差で決まり、0.1マイクロメートル以下の解像度をもつ。このため1970年代中ごろから電子線リソグラフィーを行うための電子線描画装置が開発され、半導体の製造に利用されている。

 電子線描画装置の本体は走査型電子顕微鏡に非常によく似ており、に示したように、電子銃、電子レンズ、偏向系、試料台などからなっている。タングステン、六ホウ化ランタンなどの陰極から放射された電子線を数万ボルトに加速して電子レンズで収束し、偏向系で走査して、微細パターンをレジストに露光する。パターンを描く方式には幾種類もあるが、大別するとテレビジョンのように全視野を微小スポットで走査し、パターンに応じて電子線を点滅するラスター走査方式と、円形や長方形スポットでパターンの露光部分を塗りつぶすベクター走査方式に分かれる。

 この装置は、現在は主として原寸大、あるいは10倍に拡大されたフォトマスクをつくるのに用いられている。フォトマスクパターンはさらに光でシリコンウェハー上に塗布したレジストに転写されるが、電子線描画装置で直接ウェハー上のレジストに描画することもできる。この直接描画方式は、マスクが不要であり、回路パターンを制御しやすいので、今後少量多品種生産用として利用されるものと思われる。

外村 彰]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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