【Ⅰ】真空中に放射された自由電子のビームをいい,陰極線とほとんど同義に用いられる.普通には,熱電子放出により得られる.電子線のエネルギーは加速電圧V(ボルト)で表されることが多い.波長λは,nm の単位で,
λ =
で与えられる.電子線を利用する装置にはブラウン管オシログラフ,電子回折,電子顕微鏡などがある.【Ⅱ】高エネルギー放射線としての電子線は1~10 MeV のエネルギーのものがもっともよく用いられる.物質中での透過力はX線に比べてはるかに小さく,線エネルギー付与(LET)は大きいが,物質に対する放射線化学的作用はX線やγ線と本質的には同じである.密度1 g cm-3 の物質中への進入度は MeV で表したエネルギーのほぼ1/2の cm で,たとえばエネルギーが1 MeV で物質が水の場合,約5 mm である.電子加速装置としてはバンデグラフ加速器,線形加速器など数種類がある.パルス化した電子線はパルス放射線分解用放射線に用いる.
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電子ビームともいう。一定の方向に進む電子の細い流れ。ほぼ一定の運動エネルギーをもつものを指すことが多い。最初は陰極線として1859年にJ.プリュッカーによって発見されたもので,その契機は,真空放電で陽イオンが陰極に衝突したとき二次電子が出て,それが加速されてガラスの内壁に衝突し,陰極線ルミネセンスを生じたことである。陰極線が電磁場で曲げられることが観測された結果,負電荷をもつ微粒子の流れであることが97年にJ.J.トムソンにより明らかにされ,これによって電子の存在が知られた。このような経緯から,現在でも真空放電などで生ずる電子線を陰極線と呼ぶ場合がある。また,放射性元素から出る放射線のうち,β線も電子線にほかならない。電子線を得るもっとも一般的な方法は,熱電子を真空中で加速するものである。利用としてはレーダーやテレビなどのブラウン管への画像や文字の表示,電子顕微鏡,物質の加工(電子ビーム加工)などがあり,さらに波動性をもつことからその回折現象(電子線回折)を利用した物質内や表面における原子配列やその乱れなど,原子分子レベルの構造の研究に広く役だっている。
執筆者:細谷 資明
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