電子部品工業(読み)でんしぶひんこうぎょう

改訂新版 世界大百科事典 「電子部品工業」の意味・わかりやすい解説

電子部品工業 (でんしぶひんこうぎょう)

テレビやオーディオ等の家庭電気製品やコンピューター,事務機器,通信機器等に組み込まれて使用される部品類を製造・販売する産業。電子部品はふつう,一般部品と能動部品に分けられる。一般電子部品はさらに,抵抗器,コンデンサーコイルトランスフィルター,振動子等の受動部品,スイッチ,リレーコネクター,接続用端子板等の機構部品,印刷配線板(プリント基板),マイクロホン,スピーカー,ピックアップ,磁気ヘッド磁気テープ等の機能部品に細分類される。能動部品には,電子管,半導体素子集積回路IC),液晶素子等がある。

 日本の電子部品工業の歴史をみると,昭和20年代にはラジオ,また,昭和30年代にはテレビの普及が急速に進展したことによって,産業としての基盤が確立された。昭和30年代に入り,一時的に生産過剰に陥り,過当競争状態になったが,1964年の東京オリンピックをきっかけとして,カラーテレビの普及が進み,再び急成長を遂げた。その後,73年,79年と2次にわたる石油危機によって電子部品工業も不況の時期を迎えたが,80年以降VTRやOA(オフィス・オートメーション)関連機器の生産拡大にともなって再び活況になった。現在では世界の供給基地になっている。

 電子部品工業における事業所数,従業者数をみると,電子管,半導体素子,集積回路製造などの能動部品産業は比較的規模が大きく(大手セットメーカーの兼業が多い),それ以外の一般部品産業は小規模の企業が多い。ただし近年アルプス電気ミツミ電機等大手メーカーによる寡占化が進んでいる。

 日本の電子部品工業の生産規模は,95年で9兆2230億円にのぼり,電気機械工業全体の生産額28兆4660億円の32%強を占めている(通産省《機械統計年報》による)。生産面で特徴的なことは,年々能動部品の全体に占める比率が高まってきていることである。これは,VTR,コンピューター,OA関連機器など半導体素子や集積回路を多用する機器の需要が旺盛で,能動部品の生産が平均以上に増加してきたためといえる。

 電子部品の用途別出荷構成比から主たる需要分野を挙げると,一般部品の民生用ではVTR,オーディオ,テレビの3製品向けが多かったが,最近の傾向としては,オーディオ,テレビの比率が低下し,それに代わってVTR向けが増加してきている。一方,産業用では,OA機器,情報処理関連機器,端末機器,通信機器向けが多い。一般部品の用途別では民生用に比べて産業用の比重が90年代に入って高まってきている。能動部品の需要分野を集積回路の用途別出荷構成比でみると,コンピューター,通信等の情報関連機器向けが能動部品全体の50%強を占め,AV機器が約30%でこれに続く。

 電子部品の輸出は1975年以降急激な伸びを示し,輸出額は75年の3979億円から82年の1兆7519億円へと,7年間で4.4倍に拡大している(95年の輸出は4兆円を超え,うち半導体素子・集積回路が2兆8140億円を占める)。地域別の輸出先では,アジア,次いで北アメリカが主要な輸出相手地域となっている。アジア向けが多いのは,日本の電子機器メーカーが現地に生産工場を多くもっているためである。

 電子部品工業の特質についてみると,第1には,電子部品そのものは最終需要製品でなく,多くは電子機器メーカー等に納入されて使用されるため,最終製品の需要動向が電子部品の需要に直接的な影響をもつ点である。第2には,集積回路等の能動部品の生産はかなりの程度自由化が進められたが,一般電子部品の分野では依然として労働集約的生産が行われている。また,このことは,一般電子部品産業の大半が中小企業で占められていることにも結びついている。第3には,輸出比率が高いことからもわかるとおり,国際競争力が強いことである。とくに集積回路の分野では,日本の半導体産業が,高い生産技術力をベースにアメリカ市場のマーケットで強い力を発揮してきたために,貿易摩擦の問題にまで発展し,その結果86年第1次日米半導体協定,91年第2次日米半導体協定が締結され,アメリカ製半導体の日本市場でのシェア拡大達成に政府が関与した(1996年失効)。

 近年に至って電子部品工業をとりまく環境にも変化がみられはじめている。その第1は,OAということばに代表されるコンピューター,通信機器,事務機器など情報関連市場が急速な拡大をみせており,電子部品工業もこうした流れに対する対応を迫られている。第2には,電機産業以外の分野や電機産業でも従来エレクトロニクスとは無縁であった分野で電子部品の需要が急増していることである。こうした状況のなかで電子部品工業は,少量多品種生産,短納期生産,製品開発,技術開発等に対する積極的取組みに迫られている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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