改訂新版 世界大百科事典 「技術開発」の意味・わかりやすい解説
技術開発 (ぎじゅつかいはつ)
技術開発とは,人間生活や産業において利用される技術を獲得するための組織的努力を総称する概念である。その過程としては,科学上の法則や現象を基盤として,経済社会のニーズあるいは制約条件を見抜きつつ,新しい効用を生む製品や製法のイメージを明確にし(発明),発明したものに形を与え,経済社会に受け入れられるように実用化していく(応用,開発)過程をとる。
技術開発の意義
技術開発により技術は進歩する。技術進歩が経済に導入されれば,経済の各部門に影響を与える。技術革新は技術進歩が集中的に行われ,急激に生産のみならず消費に至る経済の各局面に大きな変化を発生させたもののことである。技術の進歩により人々は新資源の利用,新商品の出現による産業構造の変化,流通構造,需要構造,生活様態まで影響を受ける。その進歩が大きく,各方面に与える影響が広いほど,設備投資,産業基盤投資を伴うので,国民所得中の総投資の比率が高まり,経済成長率を押し上げ雇用の機会を増大させる。世界経済の成長が急成長から低成長になった現在,こうした意味から世界的に技術開発に寄せる期待が大きくなっている。とくにエネルギー資源に乏しい日本は〈技術立国〉を目指すためにも,技術開発を積極的に行うことが必要とされている。
日本の技術開発体制
日本の技術開発を行う部門としてはおおまかには,大学,国立試験研究機関,民間企業があげられる。日本の技術開発のうち基礎研究は大学が主導的役割を果たしている。国立試験研究機関は,(1)国家目的の遂行に必要な試験研究(エネルギー技術開発等),(2)技術法令の施行に伴って必要とされる試験研究(工業標準の制定,各種の安全基準制定に必要な試験研究等),(3)国家が直接行う事業に必要な試験研究(公立事業のための試験研究等),(4)産業の技術向上に必要であることがわかっていても,資金的,リスク負担面から民間企業では開発が促進されない試験研究(次世代技術開発,大型プロジェクトの開発等)を行っている。一方,日本の技術開発の主体は民間企業で,研究開発投資の約7割が民間企業によるものである。他の先進国が約5割から6割であることと比べても,民間企業の研究開発の比率の高さが日本の特色である。また政府も民間の技術開発の振興,技術レベルの向上のために重要技術研究開発費補助金等の補助制度,大型の産業技術を官民共同で研究開発する大型プロジェクト制度,増加試験費の税額控除,日本開発銀行の技術振興融資制度等の金融,税制の助成制度等を講じて環境の整備を図っている。
日本の技術水準
第2次大戦後,日本は欧米諸国の技術を導入することにより生産技術の向上を図ったが,その技術水準は1970年代に急上昇し,欧米先進国に追いつき,分野によっては追い越しつつある。現在では日本の技術開発費は金額では約6兆円,研究者数では約34万人に達しており,どちらにおいても自由世界でアメリカについで第2位となっている(1981)。その結果,電子,自動車,家電製品の生産等の分野で国際的レベルに達している。しかし生産技術以外の分野,とくに基礎的技術および航空,宇宙,バイオテクノロジー,コンピューター・ソフト等の先端技術分野では欧米先進国の水準に達するため,今後も努力が必要とされている。
今後の技術開発の方向
日本の技術開発は実用化研究が多く,基礎研究はあまり力が入れられていない。日本の産業技術の水準向上の源泉は,導入技術をベースとして,ユーザーの厳しい品質要求にこたえ,激しい技術開発競争のなかで,導入技術の改良,改善に努力し,その成果を確実に製品化したことである。したがって製品の基礎的・基本的な技術,アイデア,概念等は,外国に依存している。しかし今後技術先進国として世界の中で役割を果たすためには,みずから基礎研究,独創的・創造的技術開発を行うことが重要との指摘もある。そのためには創造的人材育成,国の科学技術予算など技術開発投資の拡大,大学を含めた基礎研究機能の強化等環境の整備が必要である。また82年に開催されたベルサイユ・サミットで確認されたように,世界経済の再活性化および成長を図るためには,科学技術の発展を活用することが重要であり,このための各国の努力とともに国際的協力を促進する必要があるとの観点から科学技術の国際協力が具体的に進められており,今後ともこのなかで日本が積極的な役割を果たすことが期待されている。
→科学技術政策
執筆者:並木 徹
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報