化学辞典 第2版 「電気毛管現象」の解説
電気毛管現象
デンキモウカンゲンショウ
electrocapillary
理想分極性電極系と非分極性の照合電極(たとえば,カロメル電極)とを組み合わせて構成した電池の温度,圧力,および組成を一定に保ち,端子間電圧(すなわち,基準電極に対して測った分極性電極の電極電位)をかえて分極性電極の界面張力を測定すると,界面張力はある電圧で極大値を示し,その両側ではほぼ放物線的に減少する.この放物線状の界面張力-電極電位曲線を電気毛管曲線という.分極性電極が水銀や金属アマルガムのように液体の場合には,電気毛管曲線はF.A. Lippman(リップマン)の毛管電位計や滴下電極を用いる滴重法を用いて正確に測定することができる.また,固体の分極性電極の場合には,接触角の測定などにより求めることができるが,液体電極の場合に比べてその精度は非常に悪いといわれている.電気毛管曲線にギブズの吸着等温式を適用すれば,界面張力γと電極の表面電荷密度 σ M あるいは溶液側の表面電荷密度 σ S との間に,次のリップマン式とよばれる関係が成り立つ.
ここで,Eは分極性電極の電位であり,添字μは系に含まれるすべての物質の化学ポテンシャルが一定であることを示す.したがって,界面張力が極大値を示す電位では,
(∂γ/∂E)μ = 0
となり,表面電荷密度 σ M(σ S)は0に等しいことがわかる.この条件に対応する電極電位を電気毛管極大あるいはゼロ電荷点といい,普通,Eecm と書かれる.電極電位が電気毛管極大より正の領域(E > Eecm)では σ M > 0,負の領域(E < Eecm)では σ M < 0となり,それぞれ,電極相側が正または負に荷電していることがわかる.電極-溶液界面にイオンあるいは分子が特異的に(静電的力以外の力により)吸着される場合には界面張力は低下する.一般に,アニオンは正に荷電した電極に特異吸着されるが,カチオンは特異吸着性が非常に小さい.したがって,アルカリ金属塩の場合には,電気毛管曲線はE > Eecm の領域では電解質の種類により大きな差が認められるが,E < Eecm の領域ではほとんど一致している.また,中性の界面活性な分子は Eecm の近傍の電位で電極面に吸着され,電気毛管曲線は放物線のつぶれたような曲線となる.電気毛管曲線の詳細な解析は,電極-溶液界面の性質,とくに電極-溶液界面に生成する電気二重層の構造についての重要な知見を与える.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報