音響機器工業(読み)おんきょうききこうぎょう

改訂新版 世界大百科事典 「音響機器工業」の意味・わかりやすい解説

音響機器工業 (おんきょうききこうぎょう)

ラジオ,テープレコーダー,ステレオ(ステレオ・セットおよびコンポーネント),およびその周辺機器など音や声を録音・再生する製品(テレビやビデオテープレコーダーは音も出るが,映像中心なので音響機器には入れない)を製造する産業で,家庭電器産業の一端を担っている。音響機器(オーディオ機器ともいう)生産額は家電製品総生産額の2割弱を占めている(1980年代初)。

 日本における音響機器産業の歴史は明治時代末期に始まる。1890年にE.ベルリーナによって考案された円盤式蓄音器は,1902年にアメリカで商品化され,翌03年から日本にも輸入されるようになった。そして06年には横浜の蓄音器輸入商F.W.ホーンによって日本初の音響機器製造会社である日米蓄音器製造会社が設立され,09年から国産蓄音器の製造が始められた。同年にはホーンによって日本コロムビア前身である日本蓄音器商会も設立されている。大正時代に入ると,蓄音器製造会社の新設合併が相次ぎ,音響機器工業の産業としての形態が整った。しかし当初は,蓄音器やレコードが非常に高価であったため,その普及は一部の上流階級に限られていた。

 その後蓄音器はかなり大衆化したが,音響機器工業といわれるように本格的な軌道に乗ったのは1955年以降である。第2次大戦直後,ラジオ放送が大衆の数少ない楽しみの一つであり,ラジオが終戦後急速に普及するにつれて,人々の音楽鑑賞に対する欲求も急激に高まった。こうした背景のもとでステレオが商品化され,その後の高度成長の波に乗って音響機器の生産が台数,金額ともに著しく増加しはじめたのである。60年代半ばまでは日本コロムビア,日本ビクターといった伝統を誇るメーカーや松下電器産業,東京芝浦電気(現,東芝)などの総合家電メーカーが業界をリードしていた。つづく60年代後半から70年代前半には,回路技術で先発大企業に差をつけたトリオ(現,ケンウッド),山水電気パイオニア,あるいは赤井電機ティアック(この2社はおもにテープデッキ)といったオーディオ(音響)機器専業メーカーが先発の大企業を抑えてそのシェアを拡大した。このように戦後の日本の音響機器工業は大企業が先行し,後発の中小専業メーカーが追いかけリードする,といった他の家電産業にはみられない特異なパターンで成長を続けた。ところが70年代後半から,このパターンも変化しはじめた。音響機器のエレクトロニクス化の進展に伴って,ICやLSIといった半導体技術で圧倒的な力を有する総合家電メーカーが再び業界をリードしだしたのである。そして80年代初めでは,音響機器工業において日本製品が世界需要の6割程度を供給するに至った。日本製品は質的な面でも世界のトップに位置しており,アメリカ,イギリス,ドイツの製品も今は日本製品に押されている。

 1980年代に入って音響機器工業で特筆すべきは,ビデオディスク(VD)およびディジタルオーディオディスク(DAD)の登場である。ビデオディスクには,フィリップス社の光学方式(パイオニアがこの方式で1981年国内販売開始),日本ビクターのVHD方式(日本ビクターの販売開始は1982年),RCA社のCED方式の3方式があるが,今後の普及動向,シェア争いは予断を許さない。また,DADの先頭を切ったコンパクトディスク(CD)は従来のアナログ式に比べ,SN比がよく,ディスクの磨耗がない,場所をとらない等のメリットが多いため,急成長が見込まれている。
オーディオ
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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