ビデオ信号すなわち映像と音の信号をディスク(円板)状の媒体に記録したもの。これをプレーヤーにかけてディスプレー装置に接続すると映像と音を再生することができる。この装置全体をさす場合もある。
DVDもビデオ信号の記録に使われ、その意味ではビデオディスクの仲間に入れることができる。事実DVDの初期にはビデオディスクとして扱われたが、DVDはビデオ信号の記録だけでなく、さまざまなデータの記録に使われ、コンピュータの周辺機器としての性格が強くなったため、現在は別扱いされることが多い。ここでは、現在の扱いに準じてDVDは別項目とし、DVDが出現する以前の、アナログ技術を使ったディスクをビデオディスクとして取り扱う。
ビデオディスク以外にビデオ信号を記録する方法として、ビデオテープレコーダーがある。ビデオテープレコーダーは録画・再生の両機能をもち、テープを反復再利用したり編集したりすることができる利点があるが、すばやく任意の場所を選んで再生することが苦手であること、繰り返して使用するとテープが劣化する可能性があることなどの欠点がある。これらの欠点は、ディスク状媒体を用い非接触式の再生方法を使うことで解決される。このためさまざまな方法が開発され、提案された結果、ビデオディスクが誕生した。
[吉川昭吉郎]
ビデオディスクの開発は1960年代から開始された。1970年に西ドイツのテレフンケン、イギリスのデッカ、および両社の合弁会社テルデックの3社が共同で開発した白黒の機械方式が発表され、1971年にはカラー映像再生用が開発された。これを契機として多くの電気メーカーが開発に乗り出し、1972年にはアメリカのRCA社が溝つき静電容量方式CED(capacitance electronic disc)を発表した。続いて同年オランダのフィリップス社とアメリカのMCA社が、それぞれレーザーを使用した光学式のビデオシステムを発表し、1974年にはこの2社が技術提携して一本化したシステムとなった。また、同年にはフランスのトムソンCSF社もレーザーを使用したビデオディスクの開発を行った。1978年(昭和53)には日本ビクターが溝なし静電容量方式のVHD(video high density disc)を発表した。このように多数の方式が提案されたが、多くは淘汰(とうた)され現在に残って実用されているのは、レーザーを用いた非接触の光学式である。
[吉川昭吉郎]
1970年テルデック社によって提案されたもので、直径21センチメートル、厚さ0.12ミリメートルのポリ塩化ビニル(PVC)製の薄いディスクを用い、機械式カッターを使って映像と音の信号を凹凸の溝形信号トラックとして記録する。再生は接触針によってディスク表面の凹凸をたどり、針に連結された圧電素子によって凹凸の情報を電気信号に変換して出力する。再生時間は10分程度である。実用として普及することなく終わった。
[吉川昭吉郎]
1972年アメリカのRCA社で開発されたCEDとよばれる方式である。ディスクは直径30.5センチメートル、厚さ1.93ミリメートルで、材料としてカーボンを混ぜて導電性をもたせたPVCを用いる。映像と音はディスク表面に刻まれる凹凸の信号トラックとして記録される。テルデック式と違うのは再生方法である。再生ヘッドはスタイラスと名づけられた平らな底面をもつ電極で、この電極面と溝の凹凸との間の間隔変化に応じて静電容量が変化することを利用して電気信号を得るようになっている。スタイラスは溝に導かれてディスク上をたどる。この方式も普及することなく終わった。
[吉川昭吉郎]
1972年オランダのフィリップス社とアメリカのMCA社によって提案されたもので、日本のパイオニア社も早い時期から加わった。国際規格の正式名称はレーザービジョン(Laser Vision)であるが、商品名のLDの名称が一般的に使われた。用いられるディスクは、外径30.2センチメートル、厚さ2.5ミリメートルである。基板となるアクリル円板の上にアルミニウムの光学反射膜をつけ、その上を保護層で覆ってある。映像と音の情報は基板表面に形成される凹凸の形の信号トラックとして記録される。凹凸部分の幅は0.4マイクロメートル(1マイクロメートルは1000分の1ミリメートル)、深さは0.1マイクロメートルと、きわめて細かいので、この記録にはテルデック式のように機械方式を使うことができず、IC(集積回路)やLSI(大規模集積回路)の製造で使われるホトリソグラフィー技術が使われる。基板表面に凹凸の形で信号を記録したあと、その上にアルミニウムを真空蒸着することで、基板の凹凸と同じ凹凸をもった反射面が形成される。そのあとで、この反射面を保護する目的で上にアクリル層をかぶせる。再生の場合は、再生ヘッドに設けられた光源のレーザー光をレンズによって小さなスポットに集光し、これを反射面に当ててこれからの反射光を同じ再生ヘッドに設けられたホトダイオードで検出する。反射面の凹凸によって、焦点深度が変わり、反射光の強さが変わることを利用するものである。ディスクには再生ヘッドを誘導する案内溝がないので、信号トラックを脱線することなしに正確に追尾させるため、光の自動制御(サーボ)が必要になる。記録はディスクの中心部からスタートする。
ディスクの回転方法にはCAV(constant angular velocity)とCLV(constant linear velocity)の2通りがある。CAVは一定角速度方式で、再生ヘッドがディスクの中心部近くにあっても周辺部近くにいっても、回転の速さが変わらない方法である。この方法では、再生ヘッドと信号トラックの相対的な速さは、中心部近くで遅く、周辺部にいくにしたがって速くなる。これに対して、CLVは一定線速度方式で、再生ヘッドの位置にかかわりなく、再生ヘッドと信号トラックの相対的な速さが一定になるようにしたものである。この場合は、再生ヘッドがディスクの中心部に近いときはディスクの回転速度は速く、再生ヘッドがディスクの周辺部にいくにつれて回転速度は遅くなるように制御される。CLVのほうが記録時間を長くとることができるので、特別の場合を除いてCLVが使われる。映像の記録にはアナログ方式の周波数変調(FM)が使われ、音の記録はアナログおよびデジタル両方式が使われる。
光学式の特徴として、
(1)非接触で信号を再生するため、再生ヘッドやディスクの摩耗とこれに伴う劣化がない。また、ディスク表面のほこりや傷などの影響を受けにくい
(2)ディスクに入っている情報を、入っている場所にかかわりなしに、すばやくみつけて再生することができる(ランダムアクセス性)
(3)スローモーションや静止画など種々の特殊再生ができる
などがあげられる。光学式LDはDVDが実用化されるまで、ビデオディスクの主流として広く普及した。光学式には、このほかにフランスのトムソンCSF社が開発した透過形ディスクがあるが、実用には至らなかった。
[吉川昭吉郎]
1978年日本ビクター社によって開発され、VHD方式として商品化された。CED方式と同様に導電性ディスクを用いる静電容量方式であるが、案内溝をもたず自動制御によって信号トラックを追尾する点は、光学式に似ている。案内溝がない分、その面積を信号トラックとして利用して高密度記録ができるということから、ハイデンシティという名称が与えられた。ディスクは直径26センチメートル、厚さ1.8ミリメートルで、特別のケースに収められており、ケースごとプレーヤーに入れると、ディスクだけが収納されてケースが返却され、使用者はディスクにまったく手を触れることなく再生ができるという、ディスク保護対策がとられていた。VHD方式の特徴として、
(1)スローモーションやクイックモーションの動作ができる
(2)希望の情報をすばやくランダムアクセスすることができる
(3)立体映像の記録と再生機能をもっている
などがあげられた。
[吉川昭吉郎]
実際に商品化されたビデオディスクは、LDとVHDの2方式で、この2方式が市場でシェアを争った。初めはVHD方式を採用、または採用する意志をもつメーカーが多く、10社を超えた。これに対してLD方式を採用したのは開発に当たったパイオニア社1社のみで、VHD方式が圧倒的に優位に思われた。しかし、その後ソニーがLD陣営に加わり、オランダ・フィリップス社がビデオディスクとして光学式を採用すると宣言して、LDとVHDとの優位性は逆転する。そして、パイオニアが、CD・LDコンパチブルプレーヤーを商品化するに至ってシェア争いは決着を迎え、LDの時代になる。LDは映画、音楽、ドキュメンタリーなどさまざまな分野にわたって多くのコンテンツを世に出し、さらにハイビジョン映像とマルチチャンネル音声を記録した高品位LDも少数タイトルながら市販されるなど、隆盛を誇った。LDを使うレーザーカラオケは家庭用だけでなく業務用にも広く使われた。このように、一時期ビデオシステムの中心的メディアとして発展・普及したLDであるが、その後、デジタル技術を基盤とするDVDの実用化、通信カラオケの出現などによって交替を余儀なくされ、日本におけるLDの生産は2001年(平成13)をもってほぼ終了した。
[吉川昭吉郎]
『映像情報メディア学会編『ディジタルメディア規格ガイドブック』(1999・オーム社)』▽『石川泰幸編著『図解DVD規格』(2000・ダブリュネット)』▽『『DVDテクニック事典』(2001・工学社)』
VDともいう。プラスチック円盤(ディスク)上に,1本の連続した渦巻状の記録トラックの形でテレビジョン信号を記録し,これを原盤として大量の複製盤を作り,これで映像情報を安価に提供する装置あるいはシステムをいう。記録はディスク表面の微小なくぼみ(ピット)の形で行われる。これまで,レーザー記録,電子ビーム記録,機械切削記録の3記録方式が,また,信号の読出し方式としてレーザー再生,静電容量再生,圧電変換再生の3再生方式が開発されているが,現在レーザー再生による光ディスクと静電容量再生によるVHDディスクの2方式が商品化されている。
図1に各方式の記録ピットの形状寸法をオーディオレコードと比較して示した。各方式とも映像信号をFM記録する点はビデオテープレコーダーと同じであるが,音声信号2チャンネルをFM変調してFM映像信号に多重し,別にオーディオトラックをもうけていない点に特徴がある。図2にVHD方式の記録信号の処理のプロセスを示した。
ディスクの製造工程を図3にこれもオーディオレコードと比較して示した。両方式ともレーザー記録からスタートし原盤を作るまでの工程は同じであるが,ディスクの大量複製工程に再生方式からくる構造上の違いがみられる。
レーザー再生方式の再生原理を図4に示した。光ディスクのピットは図のように凸状となっており,ディスク表面はアルミ反射膜でカバーされている。レンズによって収束された読出しレーザービームがピットに当たっていない場合は全反射されて,全ビームがレンズの開口内に戻り,この戻りビームは,入射光と反射光を区別するビームスプリッターを通して光検出器に到達する。これに対して,ピットのある場合には入射ビームが回析され,戻りビームの大部分はレンズの開口面からはずれ光検出器に到達しない。このように光ディスクではピットの有無を反射ビームの変化としてとらえ光検出器で電気信号に変換している。
VHDディスクでは,表面平たんな導電性のディスクに凹状のピットが形成されている。図5はこの方式の再生原理を示している。ダイヤモンド針の片端に薄膜電極を付したピックアップにより記録トラックをなぞると,導電性ディスクと薄膜電極間の静電容量がごくわずか(10⁻4pFのオーダー)変化する。この静電容量を回路の一部としてUHF帯の共振回路を作り,容量変化により共振周波数が変化することを利用してピットの有無を検出している。
ビデオディスクはビデオテープレコーダーに比較して,その構造上から見たい部分をすばやくさがすのにすぐれているので教育用やビデオゲーム,カラオケなどのソフトにその特徴を発揮している。以上のほか,書替え可能なビデオディスクの研究も進められている。
執筆者:横山 克哉
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出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ASCII.jpデジタル用語辞典ASCII.jpデジタル用語辞典について 情報
…日本製品は質的な面でも世界のトップに位置しており,アメリカ,イギリス,ドイツの製品も今は日本製品に押されている。 1980年代に入って音響機器工業で特筆すべきは,ビデオディスク(VD)およびディジタルオーディオディスク(DAD)の登場である。ビデオディスクには,フィリップス社の光学方式(パイオニアがこの方式で1981年国内販売開始),日本ビクターのVHD方式(日本ビクターの販売開始は1982年),RCA社のCED方式の3方式があるが,今後の普及動向,シェア争いは予断を許さない。…
※「ビデオディスク」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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