順法闘争(読み)じゅんぽうとうそう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「順法闘争」の意味・わかりやすい解説

順法闘争
じゅんぽうとうそう

遵法闘争とも書き、労働基準法、労働安全衛生法などの法令労働協約就業規則あるいは労働契約が日常的には使用者によって守られていないという実態のもとで、逆にこれらの諸規範を厳格に守ることを目的あるいは要求実現の手段として利用する労働者の集団行動をいう。順法闘争の具体的方法は多様であるが、代表的なものとしては、(1)列車の安全運転に関する規程を厳格に守って列車を遅延させ、運行を混乱させる安全運転闘争、(2)労働基準法第36条に規定する残業協定の締結または更新を拒否したり、残業協定が存在するにもかかわらず残業を拒否する残業拒否闘争、(3)就業規則などで定められている始業終業の時刻を厳格に守る定時出退勤闘争、(4)法律上保障されている年次有給休暇労働組合の構成員の一部もしくは全員が組合指令に基づいて利用する休暇(賜暇(しか))闘争(全員が利用する場合を一斉休暇〈賜暇〉闘争という)などがある。

 順法闘争は、日常的に休暇もとれず、安全が無視され、無償のサービス残業などが強いられているという状態に対する労働者の批判ないし抗議の意思表示という意味ももっている。また、順法闘争は、正面きってストライキをするだけの力量が労働組合にない場合にも利用されるが、とくに重要なのは公務員や特定独立行政法人職員などの官公労働者の場合である。官公労働者は、法律で争議行為を禁止されているので、この禁止に抵触することなく争議行為と同一の効果をもたらす実力行使手段として順法闘争を生み出し、利用してきた。しかし、これは、官公労働者の争議行為の禁止法制を打破するための権利闘争初期についていえることであり、現在ではそのような運動自体が低調である。

 ところで、順法闘争は形式的には諸規範に従った行動であるが、現実にはストライキや怠業などと同様の効果をもち、社会的には争議行為である。そこで、とくに官公労働者の場合、順法闘争が禁止されている争議行為にあたり違法となるかが問題となる。この判断のポイントは、法律的な意味で争議行為といえるための要件である「業務の正常な運営を阻害する」(労働関係調整法7条)という場合の正常性とは何かである。いかに非正常な業務の運営状態が慣行化していても、当該業務が違法であることに変わりはないから、それを阻止しても違法とはいえない。そうでないと、違法な業務運営を法律が保障することになるからである。

[吉田美喜夫]

『東京大学労働法研究会編『争議行為・官公労』(1983・有斐閣)』

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