遵法闘争(読み)ジュンポウトウソウ

デジタル大辞泉 「遵法闘争」の意味・読み・例文・類語

じゅんぽう‐とうそう〔ジユンパフトウサウ〕【遵法闘争】

労働者争議行為の一。法律や規則を文字通りに順守することによって、合法的に業務を渋滞させること。サボタージュストライキと同様の効果がある。主として争議行為の禁止されている公務員などが行う。

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精選版 日本国語大辞典 「遵法闘争」の意味・読み・例文・類語

じゅんぽう‐とうそうジュンパフトウサウ【遵法闘争・順法闘争】

  1. 〘 名詞 〙 法律や規則を完全に守ることによって、作業能率を低下させ使用者損害を与える争議戦術。争議権を持たない公務員や公共企業体職員労働組合に多く用いられる。昭和二一年(一九四六)、国鉄(現JR)労働組合が「安全運転」の闘争を行なったのが最初休暇戦術、定時退庁などもこれに属する。
    1. [初出の実例]「今の言葉で言うなら、順法闘争をやっているのか判断がつかない」(出典:地を潤すもの(1976)〈曾野綾子〉四)

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改訂新版 世界大百科事典 「遵法闘争」の意味・わかりやすい解説

順(遵)法闘争 (じゅんぽうとうそう)

日本では官公部門の労働組合のストライキは法的に禁止されているため,ストライキを実行すれば解雇等の処分が行われる。これを避けつつ,当局の業務運用に打撃を与えることによって労働組合側の交渉力を強めようとして考案されたのが順法闘争で,業務のルールを完全に順守することにより作業能率を落とす方法である。争議戦術としては一種のサボタージュである。鉄道部門においてこの種の戦術が採用されたのは古く,1898年日鉄機関方が賃金引上げや職名改正の要求でストライキを行った(日鉄機関方ストライキ)さい,〈規定に反し無理勉強せざること〉が争議の戦術としてあげられている。

 1948年官公部門のストが禁止され,49年民同派(〈民同運動〉の項参照)が国労の指導部を構成して以降,賃上げの仲裁裁定を完全実施しない政府への抗議闘争の一環として,国労は検査規定の完全実施,作業内規の完全励行,機関車の入出庫時間の厳守などを内容とする順法闘争を指令している。国労の順法闘争は最初民同派の戦術論である〈合法闘争〉が基盤となったといえるが,その後,国労でストライキが実施されるようになると労働組合に打撃が少なく,当局に打撃が大きい効果的な戦術として多用されるようになった。60年代以降になると順法闘争は直接運転部門にも広がり,信号規定やホームの安全監視の完全実施などにより,列車遅延を目的とする戦術となった。とくに国鉄の機関士,運転士を組織する動労は作業現場(列車の運転席)が組合員の裁量下におかれるという運転労働特有の条件を生かして,効果的な順法闘争を行った。しかし順法闘争は首都圏など列車が過密の地域では無ダイヤ状態を生みだし,当局への打撃というより利用者のこうむる被害が大きく,労働組合に対する世論の非難をあびせられるようになった。73年春闘のなかで国労・動労の順法闘争が長期にわたって行われたさい,3月埼玉県上尾駅(上尾事件)で,また4月には首都圏の国電の数十の駅で暴動が発生したのを契機に,国労・動労の争議戦術は順法闘争からストライキに重点を移した。
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百科事典マイペディア 「遵法闘争」の意味・わかりやすい解説

順法闘争【じゅんぽうとうそう】

遵法闘争とも書く。サボタージュの一種で,労働者が法規を遵守することによって業務の正常な運営を阻害し,ストライキと同じ効果をあげようとする争議手段の一つ。特に日本ではストライキ権を剥奪(はくだつ)されている官公労働者によって積極的に用いられてきた。時間外労働拒否,時間外労働協定の締結拒否,定時出退勤,一斉休暇,保安規定協約条項の厳密な遵守等の方法がある。旧国鉄の順法闘争は利用者の強い批判を受けた。ストライキやサボタージュと同視評価するか,本来の正しい順法行為と評価するかはしばしば問題となる。
→関連項目国労

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知恵蔵mini 「遵法闘争」の解説

順法闘争

労働闘争の戦術のひとつ。労働者が法規や社内制度、業務マニュアルを遵守することで、合法的にストライキと同じ効果を狙う。時間外労働の拒否や一斉休暇などの手法がある。主にストライキ権をもたない公務員によって用いられてきたが、21世紀に入っては過酷な労働を強いたり労働者の安全を軽視したりするブラック企業従業員によっても行われている。2018年から翌19年にかけては飲料自動販売機オペレーター企業の従業員たちが、残業代未払いや不当な懲戒処分に対する抗議として時間外労働を行わない順法闘争を展開した結果、関東地方の自動販売機で売り切れが相次いだ。

(2019-2-27)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「遵法闘争」の意味・わかりやすい解説

遵法闘争
じゅんぽうとうそう

業務上の慣行と関連法規の厳密な解釈にギャップがある場合に,業務を法規どおりに実行することでサボタージュやストライキと同様の効果を生む争議戦術。争議行為を禁じられた官公労働者が主として用いる。残業拒否,一斉休暇など労働時間に関わるものと安全運転関係の二種があり,特に 1960年代後半以降の国鉄労働組合 (国労) ,国鉄動力車労働組合 (動労) の闘争では,しばしば列車ダイヤが混乱した。

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世界大百科事典(旧版)内の遵法闘争の言及

【サボタージュ】より

…第2は,ストライキ戦術が違法化され,また労働者がストライキを行使する力のない場合である。たとえば争議権がない日本の国鉄(現JR)労働者は,スロー・ダウンの一種である順法闘争戦術,すなわち闘争期間中だけ安全規則を杓子定規に守り,結果として列車の運行を遅らせダイヤを混乱させる戦術を,しばしば採用した。 日本では怠業が消極的な労働能率の低下にとどまる限りは正当な争議行為であるが,積極的な破壊・妨害行為に出る場合は違法な争議行為となり刑事・民事上の免責を奪われる。…

【争議行為】より

…したがって,使用者との関係上,組合規約違反の争議行為も正当性を失うことがない。
[特殊な類型の争議行為の正当性]
 山猫スト,順法闘争,一斉休暇闘争などの特殊な類型の争議行為があるので,この争議行為の正当性についてふれておく。 山猫ストは,組合の正規の手続を踏まないで一部組合員集団または労働組合の下部組織が行う争議行為である。…

【労働争議】より

…(2)怠業(サボタージュ) 故意に労働の速度や質を低下させる闘争で,法規や使用者の態度によってストライキを行うことが困難な場合にしばしば行われる。日本の国鉄の順法闘争もその一つであったが,最近諸外国にも波及している。安全運転や点検闘争がこれに含まれる。…

※「遵法闘争」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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