飲食業(読み)いんしょくぎょう

改訂新版 世界大百科事典 「飲食業」の意味・わかりやすい解説

飲食業 (いんしょくぎょう)

飲食は,自宅におけるものを除くと,第1に学校,病院,企業等の集団給食施設,第2に独立した店舗,ホテル,小売業等に付帯した店舗による食堂の二つに大別される施設によって提供される。後者は,さらに食事を主とする場合と,酒,コーヒーなど飲物を主とする場合とに大別される。飲食業とはこれらを供給する産業であるが,家庭での食事に対するものとして近年外食産業という言葉も定着した。飲食業の歴史については〈飲食店〉〈料理店〉の項を参照されたい。日本の飲食業の規模は,商店数47万店,従業者数245万人,年間販売額13兆1330億円となっている(商業統計表,1992)。この金額は自動車工業の約1/3,鉄鋼業とほぼ等しく,従業者数で比較すると製造業全体の約1/4に当たる規模である。それを担うのはきわめて零細な多数の企業群であるが,1970年代以降は外資との合弁企業をはじめとして大手企業傘下のチェーン店もふえている。74%は個人商店であり,また従業者規模別にみると1~4人規模の企業が72%を占め,50人以上の大規模店は0.8%にすぎない。これは,飲食需要の大半が消費する地域において個別散在的に発生するというサービス需要に特有の性質があるからである。また,その市場規模は急速な成長をしているわけではないが,所得水準の上昇とともに国民総生産の伸びとほぼ同様かやや高い程度で,順調に成長している。

 飲食需要は増勢にあるが,小規模零細企業から成り立っているため,(1)材料費と人件費の比率がコストの80%を占める,(2)品質,サービスが不安定である,という問題がある。こうした状況下で1969年飲食業が自由化100%業種に指定され,以後アメリカ中心とするファーストフードfastfoodsの外国資本が日本に続々と進出してきた。すなわち,70年3月ケンタッキーフライドチキン日本万国博覧会(大阪)に実験店を出し,71年4月にはミスタードーナツ,同年7月には日本マクドナルドが三越銀座店に,それぞれ1号店を出し,以後チェーン展開によって急速に増加した。ファミリー・レストランは,やや遅れて1970年代後半に急成長した。なお,ファーストフードが最も発達しているアメリカにおいても,大資本が単独のカフェテラススタンドをつぎつぎと組織したのは比較的新しい。マクドナルド社の創立は1955年,ケンタッキー・フライド・チキンが普及しはじめたのは65年ころからである。これらの企業群は,いかにして手ごろな価格の飲食物を良質なサービスで供給するかという点において,次のような経営革新をはかることによって成長している。

 第1は,適切な価格設定を実現するための仕入れ,生産,販売方式である。価格設定は原価の積上げから行うのではなく,消費者の支払能力を勘定に入れてから行うため,原価を抑制することが最大にして重要な課題となり,(1)仕入れはすべて本部で一括購入,(2)セントラルキチン(集中調理工場),あるいは本部による食品メーカーへの食材特別仕様の発注などによる集中管理体制による調理方式,(3)パートタイマーの大量活用,(4)店舗のチェーン化による増加,などによってコスト削減をはかっている。すなわち,仕入れを本部で一括すれば,店舗のチェーン化が進むとともに購入量が増え仕入れロットがまとまるにつれて,仕入価格が下がる。セントラルキチンとは,従来各店舗にあった厨房(ちゆうぼう)部門を切り離し,これを1ヵ所で集中調理し,加工済みの冷凍食品として店舗へ供給するもので,(1)材料の一括購入,(2)各店の調理人削減による人件費の削減,(3)1ヵ所生産による製造原価管理の容易化,(4)店の厨房面積の縮小化,調理時間の短縮化,などの効果がある。

 第2は,サービスのマニュアル化,画一化である。サービスをマニュアル化する効果は,サービスの質を均質にできる点と,サービス要員をパートタイマーに置き換えることにより,人件費が削減できることである。飲食業では,時間,曜日,季節などによって客に変動が生じる。このような経営上のマイナスを,繁閑に応じたパートタイマーの増減により対応する。外食産業にとってパートタイマーは必須の労働力である。

 なお,こうした欧米風ファーストフードの急激な浸透の一方,和風ファーストフードへの需要も多い。札幌ラーメン,すし,牛丼などのチェーンは早くも1960年代後半には登場している。ただし,これらを含め和風ファーストフードが本格的に成長しチェーン展開を大々的に行うようになるのは,外資が上陸し,その経営ノウ・ハウが普及してからである。元禄寿司などアメリカに逆上陸したところもある。70年ころからファーストフードの登場という大きな変化を経験した日本の飲食業であるが,近年は,会社等に昼食などを配達する業者,あるいは日変りのおかずを各家庭に届ける業者なども,大都市を中心に登場,しだいに普及しつつある。またテークアウトtakeout(持帰り料理)の店も急増した。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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