高齢者はわが国の含み資産(読み)こうれいしゃはわがくにのふくみしさん

知恵蔵 の解説

高齢者はわが国の含み資産

高齢人口急増は、マクロ経済的には成長パフォーマンスを悪化させ、公的年金や医療などの社会保障制度でも膨大な財政支出を必要とする。家族レベルでも要介護の高齢者が増加し、マンパワーの確保が深刻な間題となることは避けて通れない。このような意味で、現在の日本では、高齢者を社会の“負債"と見なしている傾向がある。 ところが、これからの高齢者は、高学歴化社会や情報化社会の進行により、知的資産が多くなる。また、マクロ経済は弱体化するが、高齢者の所有する金融資産実物資産年金資産などの富の量がかつての高齢者よりも断然多い。これら3タイプの資産の合計を60〜90歳までの高齢者についてミクロデータから推計してみると、1999年時点で1637兆円となっていた。 日本大学が99年より隔年ごとに実施してきている縦断調査『健康と生活に関する調査』をベースに高齢者を健康状態別に推計してみると、65歳以上の高齢者で健康な人の割合は2000年からの25年間で86%から81%に減少するものの、高齢者全体の数が急増するので健康な高齢者の絶対数は増える。 多くの健康な高齢者が、増加する金融実物・年金資産を賢く海外投資などで増やすことができるならば、日本の資産を今後も相当に増やすことが可能となる。すなわち、高齢者の一人ひとりが、今後、国際化・情報化時代をどのように生き、各人の所有する資産をいかに賢く運用するかが、21世紀の日本にとって極めて重要である。現在は団塊世代の定年到達に伴う退職金を対象にした金融機関の熾烈な戦いマスコミを賑わせているが、団塊の世代に続く高齢者の間でも、貯蓄率(フロー)は低下するものの、資産(ストック)は増加を続ける可能性が極めて高く、ポスト団塊世代の高齢社会で果たす役割も大きい。

(小川直宏 日本大学教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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