貨幣および将来貨幣に交換請求のできる債権一般のことで、債務者が債務の証票として発行したもの。土地、建物、機械設備などの実物資産に対する用語で、具体的には現金、預金、債券、株式などが含まれている。J・G・ガーリー‐E・S・ショーの分類によると、金融資産は直接金融資産と間接金融資産とに分けられる。直接金融資産は、借り手と貸し手が直接的に資金の貸借を行う直接金融方式の際に、借り手が発行する債務証券で、社債、株式、手形などがこれに含まれる。間接金融資産は、借り手と貸し手の間に銀行や金融仲介機関が介在して資金の貸借が行われる間接金融方式の際に、銀行や金融仲介機関が資金調達のために発行する債務証券で、銀行預金、信託証書、金融債などがこれに含まれる。この間接金融方式の場合、介在する金融機関の数が増大するにつれ発行される金融資産の数も増大するが、この現象は金融資産の階層化とよばれている。一般に、金融資産蓄積率は、(1)借り手の外部資金依存度(借り手が投資資金をどのくらい他の経済主体からまかなうか)、(2)外部資金のうち間接金融方式の占める割合、(3)間接金融の迂回(うかい)の程度(階層化の程度)、(4)投資の大きさを規定する実物資産の蓄積率、に依存しており、(1)~(4)の程度が高いほど金融資産の蓄積率は高くなるのである。
金融資産はこのほか、安全資産と危険資産というように、安全性を基準として分類することもできる。たとえば、預金は安全資産であるが、これに対して債券や株式などの有価証券は、発行者の倒産などによって債務不履行となる危険があるうえ、流通市場で売却するとき、買い入れた価格より下落している危険(市場リスク)を伴うので、より危険な資産といえる。反面、危険資産は価格上昇による資本利得(キャピタル・ゲイン)を得る可能性も高いから、収益性は大きい。さらに、安全性と市場性(市場での換金に要する費用が小さく時間が短いこと)の高い金融資産は流動性が高いといえる。
資本主義制度のもとでの経済発展は、企業部門の投資活動に基づく資本蓄積により実現されるが、それに伴う投資資金の調達活動を通じて金融資産の蓄積をもたらす。第二次世界大戦後の経済発展に伴う金融資産の蓄積は、欧米先進国の国債発行残高の蓄積と相まって、さまざまな経済上の影響をもたらした。そのなかでもとくに金融資産の蓄積が金融政策の有効性を阻害するのではないのかという見解が数多く提出された。たとえばイギリスにおいて1959年に発表された「ラドクリフ報告」Radcliffe Reportは、金融資産の蓄積は、経済内の一般的流動性の増大を通じて金融政策の有効性を減殺するゆえ、金融政策の対象は貨幣量のみでなく、一般流動性あるいは利子率体系全体にまで広めるべきであると結論した。また、ガーリー‐ショーも、金融資産の一つであるにすぎない貨幣のみを規制するという伝統的金融政策は、その他の金融資産がもっている貸付資金創出能力により、その効果が損なわれる可能性が大きいゆえ、間接金融資産の創造機関である銀行以外の金融仲介機関も統制すべきであると主張した。
[外山茂樹]
『吉野直行・藤田康範編『慶應義塾大学経済学部現代金融論講座1 金融資産市場論』(2008・慶應義塾大学出版会)』
資産のうちで土地・建物や機械・設備などの実物資産を除いたものをいい,金融的な負債である金融負債と対比される。現金通貨や預貯金・有価証券はもちろん,保険証書や信託受益証券をも含む。実物資産に裏打ちされている抵当証券や倉庫証券そして企業の実物資産と経済活動に裏づけられている株券などは,実物資産に近い性質をもつ金融資産である。このように実物資産と金融資産の境界は必ずしも截然としたものではなく,目的に応じて使い分けられることが多い。なお,金融資産と呼ばれるからといって,必ずしも利子や収益を生む必要はない。現金や当座預金などの貨幣は利子を生まないが,金融資産の一種として考えられている。たとえば債券や株式が値下がりすると予想される局面で,これらを売却して(あるいは新規購入をさし控えて),貨幣に換えておけば値下がりによる資本損失を回避することができる。これがケインズのいう〈投機的な貨幣需要〉であって,有価証券などと並んで貨幣も,金融資産に含まれているわけである。
各種の金融資産は,その性質に応じていくつかの軸で分類されうる。まず,支払いや債務の決済に用いることができる(これを〈一般的受容性がある〉という)ものは,通貨性金融資産と呼ばれ,現金通貨や当座預金および振替可能な一部の預貯金がこれに属する。これとは別に,市場で金融資産を取引するときに,売値と買値が同じかどうか(可逆性),取引の最低額はいくらか(可分性),市場での売却価格があらかじめどの程度予測できるか(予測可能性)などの区別の基準もある。有価証券は現金化に際して,通例,手数料がかかるので可逆性は制限されており,そのなかでも株式は予測可能性が低く,また,CD(譲渡性預金)は可分性の低い資産ということになろう。一般的受容性・可分性・予測可能性などをあわせて流動性ということもある。
執筆者:日向野 幹也
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…ヘッジとは,完全に予見できないリスクから資産を守るために行う取引を意味する。 家計は,資産のかなり大きな部分を,定期預金などの金利が固定されている金融資産で保有しているのがふつうである。そこで,もし予期しないインフレが起こった場合,元本がインフレにより減価する分だけ,こうした固定金利金融資産の生む実質利子率は低下してしまう。…
※「金融資産」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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