魚病(読み)ギョビョウ

デジタル大辞泉 「魚病」の意味・読み・例文・類語

ぎょ‐びょう〔‐ビヤウ〕【魚病】

魚介類のかかる病気。多く、養殖魚の病気についていう。「魚病学」

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改訂新版 世界大百科事典 「魚病」の意味・わかりやすい解説

魚病 (ぎょびょう)

魚の病気のことであるが,水産動物の疾病を包括的に表す言葉として広く使われる。魚病の研究は養殖業の発展と密接な関連をもっている。それは養殖業が盛んになると,その一方でいろいろな理由で病害が増大するからである。養殖種苗として卵や稚仔が売り買いされると,それまで存在しなかった疾病が他所から入ってきたり,ある所で発生した病気がたちまち全国に広がったりする。また,限られた施設でできるだけ大量生産しようとするため,養殖技術が進歩すればするほど飼育密度が高くなり,いったん病気が発生すると飼育密度の低いときとは比べものにならないほど激しく流行し,大きな被害を生ずる。さらに,食べ残りの餌や排泄物の量も多くなり,これらは細菌や原虫などの病原体の繁殖の場となるばかりでなく,水質を悪化させ,魚介類の健康を害し,病気にかかりやすい体質を作る。日本は世界中で最も養殖業の盛んな国の一つであり,魚病の種類も多く,被害も大きい。

 魚病を原因によって分類すると,寄生性疾病と非寄生性疾病の二つに大別される。寄生性疾病はウイルス,細菌,カビ,寄生虫などの寄生生物に原因する疾病であり,伝染・まんえんしやすいため水産動物の疾病として重要なものが多い。非寄生性疾病は寄生生物以外の原因による疾病で,食べた餌の栄養素の過不足や変質などに原因のある食餌性疾病,生息環境の温度や光や水質などに原因のある環境性疾病,その他,に分類される。

 水産動物は水中という人間の近づきにくい環境に生息しているため,疾病の予防や治療が技術的に困難であったり,採算が合わないほど費用のかかることが少なくない。そこで卵や稚魚の移動の制限,養魚池や器材の消毒,餌料の品質管理などが何よりも重要となる。細菌病などの感染症の予防や治療には,サルファ剤,ニトロフラン剤,抗生物質,合成抗菌剤などが使われるが,これらの化学療法剤のほか,駆虫剤,栄養剤,代謝改善剤,麻酔剤などを含め,水産動物の疾病の予防や治療のために製造することが承認されている医薬品を水産用医薬品という。またブリ,マダイ,コイ,ウナギニジマス,アユの六つの,食用として養殖されている魚種に投薬する場合は,1981年4月1日から発効した使用規準に従わなければならない。この規準は,定められた医薬品を与えることのできる魚種,その魚種に与えることのできる医薬品の1日当りの量の上限,食用として出荷する前の投薬禁止期間の三つを定めたもので,これに違反した者は法律により罰せられる。また魚病に対するワクチンはビブリオ病などいくつかの疾病で,試験的には有効であることが明らかにされている。(コラム参照)

魚病のコラム・用語解説

【おもな魚病】

[ウイルス病]
IPN(伝染性膵臓壊死(えし)症)
病因=レオウイルス属あるいはその近縁ウイルス。病魚=カワマス,ニジマス,ギンザケアマゴなどの稚魚。主症状=糸状の糞を垂れ下げたり,腹部が膨れたりして,狂い泳ぎして死ぬ。
IHN(伝染性造血器壊死症)
病因=Rhabdovirus属。病魚=ニジマス,ヒメマス,ベニザケ,シロザケ,アマゴなどの稚魚。主症状=半透明の粘液便を肛門に垂れ下げ,腹部の膨隆,眼球の突出,体色黒化,出血などを示し,静かに死ぬ。
[細菌病]
ビブリオ病
病因=Vibrio anguillarum。病魚=ウナギ,サケ・マス類,アユ,ブリ,タイなど。主症状=流行期は一定しないが,飼育密度が高く水換りが悪いような時や所に発生しやすく,しばしば大量斃死(へいし)を引き起こす。食欲を失い,ひれや体表に発赤,出血,びらんなどを生ずる。腹膜,筋肉,肝臓などに点状出血が認められ,消化管が強く発赤する。
せっそう病
病因=Aeromonas salmonicida。病魚=サケ・マス類。主症状=春や秋の水温が昇降する季節に発生しやすい。一般に幼稚魚の場合は体表やひれの基部の発赤やわずかな出血が認められる間に急性に大量に死亡する。成魚の場合は体表に特徴的な膨隆患部が1~数個形成される。
ひれ赤病
病因=Aeromonas hydrophila。病魚=ウナギ。主症状=越冬を終えて餌をとり始める3~4月ころや,天候不順で水温変化の激しい梅雨期に発生しやすく,被害も大きい。ひれや皮膚,とくに腹部の発赤,肛門の発赤拡張が起こり,内部では消化管に激しい炎症がみられる。
パラコロ病
病因=Edwardsiella tarda。病魚=ウナギ。主症状=腎臓あるいは肝臓が激しく侵され,中に膿がたまる。患部が破れて膿がこぼれ出ると周囲の筋肉や皮膚を侵し,外部からは体表の発赤あるいは潰瘍として観察される。
類結節症
病因=Pasteurella piscicida。病魚=ブリ。主症状=梅雨期,水温が20℃以上になってから降雨があり,海水が薄められたときに発病しやすく,稚魚に大被害を与える。症状の進行は速やかで,まず食欲を失い,まもなく死亡するが,外観的には症状らしいものがほとんどみられない。解剖すると腎臓,脾臓にほぼ例外なく白点が観察される。
カラムナリス病
病因=Flexibacter columnaris。病魚=ほとんどの淡水魚。主症状=養殖池ばかりでなく自然環境でも大きな被害をみることがある。群を離れ水面近くをふらついており,背やひれや口吻などに灰白色の患部が認められる。患部の周辺は発赤し,ひれやえらでは先端部から欠けていく。
連鎖球菌症
病因=Stereptococcus属。病魚=ブリ,アユ,ニジマス,ティラピアなど。主症状=高水温の真夏に最も被害が大きいが,年間を通して発生する。眼球の突出と鰓蓋(さいがい)の内側の激しい発赤ないし出血が特徴。
細菌性腎臓病
病因=Renibacterium salmoninarum。病魚=サケ・マス類。主症状=4~6月の水温上昇期に発生しやすく,幼魚では死亡率がひじょうに高い。病魚は眼球が突出し,腹部が膨満し,極度の貧血に陥る。また,腎臓にクリーム状の液体を含む大小の白いはれものが形成される。流行期が長いうえ,よい治療法がないため,いったん発生すると被害が大きい。日本には1973年まで存在しなかったが,その後各地で散発的に発生している。
[カビ病]
ミズカビ病
病因=Saprolegnia属,Achlya属,Aphanomyces属および近縁属。病魚=サケ・マス類,ウナギなど。主症状=皮膚やえらに寄生。サケ・マス類の孵化(ふか)場では卵のミズカビ病が問題である。病原は水中に常在し,無傷で健康な魚には感染せず,すり傷や内外のなんらかの原因によって異常の生じた皮膚に遊走子(胞子)が付着して発芽すると,そこを中心に患部が広がる。水中に多数の菌糸を出すので,患部は白く綿をかぶったようにみえる。
イクチオフォヌス症
病因=Ichthyophonus hoferi。病魚=一般魚。主症状=内臓や筋肉に寄生。養殖ニジマスでは体色が黒くなり,腎臓,肝臓,生殖巣などがはれ,そこに白点状の病巣がみられる。病巣はほとんど全身に形成され,腹水がたまったり,貧血になることもある。緩やかな経過をたどりながら大きな被害を生ずる。
[寄生虫病]
〔鞭毛虫病〕
ウーディニウム症
病因=Amyloodinium ocellatum。病魚=海水魚一般。主症状=えらや皮膚に寄生する。寄生部位は炎症を起こす。重症の場合は出血や呼吸上皮の崩壊などが起こり,魚は急死する。
ヘキサミタ症
病因=Hexamita salmonis。病魚=サケ・マス類の稚魚。主症状=腸,幽門垂,胆嚢などに寄生する。病魚はやせて体色が黒ずみ,池底に静止しているものが多い。死ぬときに狂い泳ぎし,けいれんを示すものもある。
コスチア症(白雲病)
病因=Costia necatrix。病魚=サケ・マス類およびコイ,キンギョなどの淡水魚。主症状=えらや皮膚に寄生し,その刺激により粘液を異常に分泌する。
〔繊毛虫症〕
淡水白点病
病因=Ichthyophirius multifiliis。病魚=淡水魚一般。主症状=えらや皮膚に寄生する。寄生部位は0.5~1mmの白い丸い点として認められる。重症魚は体色が黒化し,異常な泳ぎ方をする。体を地物に擦りつけ,皮膚はさらに傷つく。えらでは粘液が過剰に分泌され,呼吸障害を起こす。
海水白点病
病因=Cryptocaryon irritans。病魚=海水魚一般。主症状=淡水白点病に同じ。
キロドネラ症
病因=Chilodonella cyprini。病魚=サケ・マス類,コイなどの淡水魚。主症状=えらや皮膚に寄生する。粘液の分泌過多や炎症がみられ,激しい場合は出血や組織崩壊が起こる。
トリコディナ症
病因=Urceolariidae科の種々の繊毛虫。病魚=淡水魚一般。主症状=えらや皮膚に寄生する。なかには膀胱や鼻腔などの内腔に寄生する種類もある。寄生部は粘液の分泌過多や上皮の肥厚が起こるが,それほど顕著でない。しかし,魚は活気を失い,衰弱する。
〔粘液胞子虫症〕
腎腫大症
病因=Mitraspora cyprini。病魚=キンギョ。主症状=寄生を受けた腎臓が著しく腫大するために外見的に腹部が膨らむ。多くの場合,片側だけが突出し,体が曲がる。体の平衡を失い,静止すると横転してしまう。
ミクソボルス症
病因=Myxobolus koi。病魚=コイ,キンギョ。主症状=えらの組織内に大小多数のシスト(嚢子)が形成され,えらは鬱血(うつけつ)し,暗赤色となり,ところどころに出血をみる。
旋回病
病因=Myxosoma cerebralis。病魚=サケ・マス類。主症状=日本には存在しないが,冷凍ニジマスをアメリカに輸出する場合には本病病原虫をもたないことを証明しなければならない。頭骨や脊椎骨に寄生する。病魚は尾部が黒化し,自分の尾を追うような旋回運動を続け,栄養不良となって衰弱し,やがて死亡する。
筋肉クドア症
病因=Kudoa amamiensis。病魚=ブリ。主症状=筋肉内に無数のシストが形成されるため商品としての価値を失う。本症の存在により奄美大島以南ではハマチ養殖ができない。
〔微胞子虫症〕
ベコ病
病因=Pleistophole anguillarum。病魚=ウナギ。主症状=体幹部に寄生する。筋肉組織を融解するため,体幹に凹凸ができ,商品価値を失う。
グルゲア症
病因=Glugea plecoglossi。病魚=アユ。主症状=主として8月以降大型魚に発生する。体の各所に1~3mmの白色球状のシストが多数形成される。成長が阻害され,また食品としての価値が著しく阻害される。
〔単生目吸虫症〕
ダクチロギルス症,シュードダクチロギルス症,ギロダクチルス症
病因=ダクチロギルス症Dactylogilus属,シュードダクチロギルス症Pseudodactylogilus属,ギロダクチルス症Gyrodactylus属。病魚=コイ,ウナギ,アユ,ニジマスなどの淡水魚。主症状=後吸盤の中心鉤(こう)をえらや皮膚の上皮組織内に差し込んで寄生する。寄生部位は炎症を起こし,粘液の分泌過多,出血が生ずる。寄生部位や害度は寄生種によって異なる。
ベネデニア症
病因=Benedenia seriolae(ハダムシ)。主症状=皮膚に寄生する。魚は網地などに体を擦りつけるため,皮膚がますます傷つき細菌感染を受けやすくなる。
アキシネ症
病因=Heteroaxine heterocerca(エラムシ)。病魚=ブリ。主症状=体後部の多数の把握器でえらに懸垂する。えらは粘液を多量に分泌し,出血も起こる。吸血するため,魚は貧血に陥り,体色が黒化し,やせて衰弱する。
ビバギナ症
病因=Bivagina tai。病魚=マダイ,チダイ。主症状=アキシネ症に同じ。
デクリドフォラ症
病因=Heterobothrium tetrodonis。病魚=トラフグ。主症状=虫が小さいうちは鰓葉に寄生するが,大きくなると鰓腔の肉質部に移り,体後部の把握器で固着する。また,虫が産卵すると鰓蓋孔から紐状の卵塊をひくようになる。
〔二生目吸虫症〕
クリノストマム症
病因=Clinostomum complanatum。病魚=キンギョ。主症状=メタセルカリア期の幼生が若年魚の皮膚の結合組織内に薄い被膜に包まれて多数寄生する。
黒点病
病因=Metagonimus yokogawai(横川吸虫)。病魚=アユなどの淡水魚。主症状=メタセルカリア期の幼生が皮膚に寄生する。寄生部位の周囲に起こる黒色色素胞の増生によって体表に多数の小黒点が現れる。
吸虫性白内障
病因=Diplostomum spathaceumなど。病魚=ニジマスなどの淡水魚。主症状=メタセルカリア期の幼生が目のレンズに寄生して眼球を白濁させる。
〔条虫症〕
杯頭条虫症
病因=Proteocephalus plecoglossi。病魚=アユ。主症状=消化管内に寄生する。多数寄生すると成長が悪くなるおそれはあるが,実害はほとんどない。
嚢虫症
病因=Callotetrarhynchus nipponica。病魚=ブリ。主症状=充尾虫期の幼生である嚢虫が体腔内に寄生する。寄生数が多いと成長が阻害され,やせて死ぬものも出る。嚢虫の前段階の幼生はカタクチイワシの腹腔内に寄生している。
吸頭条虫症
病因=Brothriocephalus opsariichthydis。病魚=コイ。主症状=成虫が腸内に寄生する。魚体への影響はほとんどない。
〔線虫症〕
コイ糸状虫症
病因=Philometroides cyprini。病魚=コイ。主症状=うろこの下の皮内に体長十数cmの赤色の虫がとぐろを巻いて寄生している。魚の成長には影響はないが,外観を悪くする。
ブリ糸状虫症
病因=Philometroides seriolae。病魚=ブリ。主症状=筋肉内や皮下に体長10cmに及ぶ橙赤色の虫がとぐろを巻いたり,長く伸びたりして寄生している。虫の回りの肉質を融解して腔所を形成するため,商品価値を著しくそこなう。
うきぶくろ線虫症
病因=Anguillicola globicepsまたはA.crossa。病魚=ウナギ。主症状=うきぶくろ内に寄生する。虫の大きさはさまざまであるが,5~6cmに及ぶ。多数の虫が寄生すると,うきぶくろが拡張し,外見的にも腹部が異様に膨らむ。魚は摂餌しなくなり,衰弱する。
[食餌性疾病]
必須アミノ酸欠乏症
(1)病因=トリプトファン欠乏。病魚=ニジマス。主症状=脊椎彎曲(わんきよく)症を引き起こす。(2)病因=バリン,リシン欠乏。病魚=ウナギ。主症状=この欠乏餌料を与えると,比較的早期(3週間目ころ)から死亡しはじめる。
炭水化物過剰症
病因=炭水化物の摂取過剰。病魚=ウナギ,マダイなど。主症状=肝臓の肥大をもたらす。
必須脂肪酸欠乏症
病因=必須脂肪酸の欠乏。(1)病魚=ニジマス。主症状=尾びれが欠損する。(2)病魚=マダイ稚魚。主症状=パン酵母を餌として培養されたワムシはω3系脂肪酸に乏しく,これで飼育されると脊椎彎曲症やうきぶくろの閉塞が生じる。
酸化脂肪中毒症
病因=酸化脂肪による中毒。(1)病魚=ニジマス。主症状=肝臓障害や貧血を引き起こす。(2)病魚=コイ。主症状=背こけ病の一因。
ビタミン欠乏症
(1)病因=ビタミンAの欠乏。病魚=コイ。主症状=鰓蓋の反曲をもたらす。(2)病因=ビタミンCの欠乏。病魚=ニジマス稚魚。主症状=脊椎彎曲をもたらす。(3)病因=ビタミンEの欠乏。病魚=コイ。主症状=背こけ病の一因。(4)病因=ビタミンB1の欠乏。病魚=一般魚。主症状=餌としてカタクチイワシだけを長期間投与すると,これに含まれているビタミンB1破壊酵素によって成長が低下し,死亡率が高まる。
無機質欠乏症
(1)病因=カルシウムとリンの比率のアンバランス。病魚=コイ稚魚。主症状=頭蓋骨変形をもたらす。(2)病因=亜鉛の欠乏。病魚=ニジマス。主症状=皮膚の炎症や白内障をもたらす。(3)病因=鉄の欠乏。病魚=一般魚。主症状=貧血をもたらす。
[環境性疾病]
日焼け
病因=紫外線。病魚=サケ・マス類などの稚魚。主症状=屋内の孵化水槽から屋外の池に直接移すと,紫外線による皮膚障害が起こることがある。
ガス病
(1)酸素ガス病 病因=水中の溶存酸素の過剰。病魚=一般魚。主症状=ひれ,皮膚,眼球などに気泡が生じ,血管が気泡で栓塞されることにより死亡する。(2)窒素ガス病 病因=窒素の過剰。病魚=一般魚。主症状=酸素ガス病と同じだが,窒素ガス病の方が害度が高い。
アンモニア中毒
病因=飼育水中のアンモニア濃度の上昇。病魚=一般魚。主症状=過密養殖のためなどで起こり,中枢神経が侵される。
亜硝酸中毒
病因=飼育水中の亜硝酸濃度の上昇。病魚=一般魚。主症状=ヘモグロビンがメト化して酸素運搬機能を失う。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「魚病」の意味・わかりやすい解説

魚病
ぎょびょう

魚類の病気。ウイルス、細菌、カビ、原生動物、吸虫、条虫、線虫、鉤頭虫(こうとうちゅう)、甲殻類などの感染や寄生によるほか、生息環境の悪化、栄養の過不足などにより発病する。

 ウイルス病は、ウイルスを構成している核酸のRNA(リボ核酸)とDNA(デオキシリボ核酸)により2大別され、RNAによるものではニジマスの伝染性造血器壊死(えし)症(IHN)、カワマス、ニジマスの伝染性膵臓(すいぞう)壊死症(IPN)、DNAによるものではニジマス、ヒメマス稚魚のヘルペスウイルス病などがあり、これらに感染した病魚の治療は甚だ困難である。細菌性の病気には、滑走細菌類によるコイ、フナ、ドジョウ、ウナギ、サケ・マス類のカラムナリス病、グラム陰性好気性細菌によるコイ、キンギョの白雲(はくうん)症、グラム陰性通性嫌気性細菌によるウナギ、アユ、サケ・マス類、タイ類、ブリのビブリオ病、コイ、フナ、キンギョの穴あき病、フナ、キンギョの立鱗(りつりん)病、グラム陽性細菌によるアユ、ブリの連鎖球菌症などがある。細菌性の病気は薬剤による予防・治療が可能である。カビによる病気には、コイ、フナ、キンギョ、アユ、サケ・マス類のわたかぶり病、アユ、サケ・マス類、ブリのイクチオフォヌス病、コイのデルモシスチジウム病などがある。わたかぶり病については薬剤による予防・治療が可能である。原生動物による病気は、感染動物の種類により大別される。繊毛虫による病気にはコイ、キンギョ、ウナギ、サケ・マス類など淡水魚の白点病、ブリなど海水魚の白点病、コイ、サケ・マス類のキロドネラ症、コイ、キンギョ、フナ、ウナギ、サケ・マス類、フグのトリコディナ症、コイのエピスティリス症などがある。繊毛虫による病気は薬剤による予防・治療が可能である。粘液胞子虫による病気はキンギョのミトラスポラ症などで、治療は困難である。微胞子虫による病気はアユ、ニジマスのグルギア症、ウナギのベコ病などで、グルギア症の治療は薬剤により可能である。吸虫類の寄生によるコイ、フナ、ナマズ、ドジョウ、ウグイ、アユ、シラウオの黒点病、線虫類の寄生によるコイのコイ糸状虫症、甲殻類の寄生による淡水魚のイカリムシ症、チョウ症(ウオジラミ症)、チョウモドキ症などの治療には、長期間の処置が必要となる。コイの背こけ病は栄養不良による糖尿病に相当する。

 魚類の病気の診断・治療には専門家の指導を必要とする。魚病発生後の処置はむずかしいことが多いので、環境管理や適切な給餌(きゅうじ)によって魚病の予防を心がけることがたいせつである。また、新たに魚を飼育する際は十分に防疫を施す必要がある。

[広瀬一美]

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