サルファ剤(読み)さるふぁざい(英語表記)sulfa drugs

日本大百科全書(ニッポニカ) 「サルファ剤」の意味・わかりやすい解説

サルファ剤
さるふぁざい
sulfa drugs

スルファ剤ともいい、化学構造上、基本的にスルフォン基をもつ抗菌剤をいう。当初、スルフォンアミド基をもつ抗菌剤の研究から発展し、降圧利尿剤、経口血糖降下剤(抗糖尿病剤)としてのサルファ剤も開発されるに至った。1935年にドイツのバイエル社の前身である染料会社IG社のドーマクが、プロントジル・ルブルムという赤い色素を溶血性連鎖球菌を感染させたハツカネズミに与えると感染が阻止されることを発表した。そしてこのプロントジル・ルブルムが化膿(かのう)性グラム陽性感染症に有効なことがわかり臨床に応用されたが、これがサルファ剤の初めである。その後、プロントジル・ルブルムの作用は、生体内で代謝されて生ずるスルファニルアミドであることがわかり、スルファニルアミドの合成によりこれが証明されるとともに、このものが治療に用いられるようになった。スルファニルアミドはスルファミンともよばれ、これの化学構造のなかのアミノ基-NH2水素Hを異項環にかえることによって有効な薬剤が開発された。

 アミノ基の水素をかえてもあまり有効な薬剤は出ないことがわかった。この化学構造上、スルフォンアミド基-SO2NH2が必須(ひっす)であると考えられ、スルファミン剤と称されたが、アミノ基のないジアミノジフェニルスルホンNH2-C6H4-SO2-C6H4-NH2がハンセン病治療薬としての作用を有することがわかり、サルファ剤(スルファ剤)というようになった。

 昭和の初めから昭和20年まではスルファミン剤の時代で、スルファミンからスルファチアゾールスルファピリジン、そしてスルファジアジンと進歩してきた。初めは化膿性球菌にしか効かなかったのが、スルファピリジンに至り肺炎にも効くこととなり、スルファジアジンではグラム陰性菌にも有効となった。一方、スルファグアニジン、サクシニルスルファチアゾールなど、消化管から吸収されず腸内病原細菌に有効なものも現れた。第二次世界大戦後はサルファ剤の開発がもっとも活発な時期で、同時に抗生物質の開発が進むにつれ、サルファ剤では持続性型サルファ剤の時代となったが、そのときすでに抗生物質では、より有効で副作用の少ないものが続々と出現していた。そのためサルファ剤は斜陽化したが、抗生物質の副作用としてショック耐性菌が現れ、一時はサルファ剤がふたたび復活するかにみえた。しかし、β-ラクタム系抗生物質、アミノ糖系抗生物質の華々しい開発合戦の陰に隠れ、現在では持続性型サルファ剤の数種が使用されるにすぎなくなってきている。

 サルファ剤の作用機序は、細菌の発育素(ビタミン)であるパラアミノ安息香酸(PABA)と化学構造が似ており、代謝拮抗(きっこう)をおこすことによる。サルファ剤は水に溶けにくい難溶性型(スルファジアジン)、易溶性型(スルファイソキサゾール)、持続性型(スルファメトキサゾールほか)、難吸収型(スルファグアニジンなど)、嫌気性型(ホモスルファミン)とハンセン病治療薬であるサルファ剤に分類されるが、現在使用されているのは次のとおりである。スルファメトキサゾール、スルフイソキサゾール(点眼液)、スルファジメトキシン、スルファモノメトキシン、スルフイソミジン、スルファフェナゾール、スルファメトピラジン、スルファメチゾール(尿路感染症)、サラゾスルファピリジン(潰瘍(かいよう)性大腸炎)があり、特殊な用途のほかは、最近、配合剤としてスルファメトキサゾールとトリメトプリムの合剤がグラム陰性菌感染症にとくに有効として繁用されているにすぎない。ハンセン病治療薬としてはグルコスルホンナトリウム、ジアフェニールスルホン、チアゾスルホンがあるが、一般には市販されていない。

 このように化学療法剤の一つの大きな柱であったサルファ剤は抗生物質の輝かしい発展のため、また合成化学療法剤であるナリジクス酸から始まるピリドンカルボン酸誘導体の開発の陰に隠れて、特殊な用途をもっているもののみがわずかに残っているのが現状である。研究の方向は降圧利尿剤、経口血糖降下剤といった新しい薬効をもったものへ移っている。

[幸保文治]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「サルファ剤」の意味・わかりやすい解説

サルファ剤
サルファざい
sulfa drugs

化学療法剤。基本構造がパラアミノベンゼンスルホンアミドで,医薬品として用いられる化合物の総称。 1932年,ドイツの G.ドマークが開発したプロントジルに始る。一般にブドウ球菌,レンサ球菌,肺炎球菌,髄膜炎菌,淋菌,大腸菌,赤痢菌,サルモネラ菌などに抗菌性を示す。 1960年代前半までは日本でも多く使われたが,ペニシリンをはじめ,テトラサイクリン,クロラムフェニコールなどの抗生物質が臨床的に用いられるようになってきたため,現在では主として尿路感染症などに使用範囲が限られてきた。

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