改訂新版 世界大百科事典 「カタクチイワシ」の意味・わかりやすい解説
カタクチイワシ (片口鰮(鰯))
Japanese anchovy
Engraulis japonica
ニシン目カタクチイワシ科の海産魚。上あごだけしかないように見えることからこの名がある。セグロイワシの別名のように,背が青黒く,腹部は銀白色である。体はやや円筒状で,上あごは眼の後方にまで開く。近年の飼育技術の進歩につれて,各地の水族館でも展示が行われ,キラキラとうろこを輝かせ,群れをなして身を翻す光景を見ることも可能になった。海の牧草の名で呼ばれるように一生を通して多くの魚の餌となり,海の食物連鎖の中で重要な位置を占めている。
日本のカタクチイワシは,九州西岸,日向灘から瀬戸内海,三重から房総半島,日本海の4系群が存在する。それぞれに産卵場を形成し,いずれも主として大陸棚上で,それより沖合でも200m等深線から16km以内である。一年中産卵が行われているが,春と秋に多い。産卵は夕方から夜半にかけて水深10m付近で行われる。卵は海産魚としては珍しく,楕円体で長径1.0~1.5mm,短径0.5~0.7mmである。水温20℃で約30時間で孵化(ふか)する。稚魚はシラスと呼ばれ,成魚と同様に重要な漁獲対象物である。プランクトンを食べるが,一生を通じ橈脚(じようきやく)類(コペポーダ)が主体で,その卵,幼生,成体を成長に応じて摂餌する。全長18cmに達する。日本の大衆魚として,目刺し,ごまめ,煮干しなどにされ新鮮なものは刺身にしても美味だが,鮮度が落ちやすい。食用のほかに飼料,カツオ釣りの生餌として利用される。
執筆者:松下 克己
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報