本来の黒パンは、ライムギ粉に野生酵母を働かせて、ライムギのおいしさを酸味で生かして発酵させたライムギパンであるが、日本では、糖蜜(とうみつ)やカラメルで着色したパン、またはふすま(麬)を加えたものなども含めて、色の黒いパンの総称である。イギリスのライ・ブレッド、ドイツのシュワルツブロート、フランスのパン・ドゥ・セーグル、イタリアのパーネ・ディ・セガーレが本格的な黒パンで、ライムギの種類の違いにより、また発酵法によって生成する有機酸が異なるため、酸味とその強さにそれぞれ特徴がある。一般にライムギパンは本生地の一部を残しておいて種とする老麺(ろうめん)法が用いられる。ライムギが加熱の温度と時間に敏感なのを利用して、焼き方も、型焼き、自由焼きのほかに隣接(くっつけ)焼きがあり、焼き込み時間も6~30時間かけることにより外皮、香味が調整される。またライムギはグリアジンとグルテリンの含量が少なく、コムギのグルテンのような強い粘弾性をもたないので、ライムギパンは気孔率が小さく、口あたりも可塑的な食感をもつ。この膨らみをよくするには小麦粉を加えるが、ドイツではこれを混合パンとよび、ライムギ粉が50%以上のものをライ混合パン、小麦粉が50%以上のものを小麦混合パンと規定している。ライムギは産地によっては飼料にも用いられているが、パンに用いられるものはコムギより製粉歩留りが高く、栄養的にはビタミン、ミネラル、ファイバーなどの補給源としてよい。小麦白パンと違って焼きたてはおいしくなく、また消化も悪いので、「ダウアーブロート」(長もちするパン)としての特徴をもっている。ドイツのプンパーニッケルは世界によく知られた有名なライムギパンであり、フランスのメティーユパンはライムギと上質のコムギを混合したおいしいパンである。
[阿久津正蔵]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…ここでは発酵パンを中心にみていくことにする。 発酵パンはそこに使用される穀粉によって,小麦パン(白パン)とライ麦パン(黒パン),および両者の粉を混ぜた混合パンに分けうる。フランスのバゲット,ドイツ圏のゼンメル,米英の食パンといったものが,白パンの代表的なものである。…
…ライムギ粉はやや黒みをおび,パンをつくるとき乳酸発酵で酸性になると粘りを生じる性質がある。この性質を利用してつくられたライムギ粉のパンはいわゆる黒パンで,酸味と独特の風味をもつ。最近では,これを主食とする東欧諸国でも,小麦粉を25~50%混ぜることが多い。…
※「黒パン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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