文芸雑誌。1915年(大正4)4月より10月まで7冊発行。『地上巡礼』の発展的継承誌。編集北原白秋、発行所は白秋の弟鉄雄の経営する阿蘭陀(おらんだ)書房。森鴎外(おうがい)、上田敏(びん)を顧問とする。誌名のARSはラテン語で芸術を意味する。創刊号の編集後記に「理想的の真摯(しんし)な大芸術雑誌たらむ」とあるように、白秋自らの芸術観を香り高く、ぜいたくに打ち出した雑誌。白秋、吉井勇、萩原朔太郎(はぎわらさくたろう)、室生犀星(むろうさいせい)、大手拓次(おおてたくじ)らの詩歌、高村光太郎、堀口大学らの翻訳のほか、鴎外の3編の現代小説も注目される。なお白秋門下の巡礼詩社の人たちの作品もあわせ掲載されている。
[大屋幸世]
…独自の価値を創造しようとする人間固有の活動の一つを総称する語。このような意の日本語としては明治20年前後に翻訳語として始まり,今日では完全に定着したが,この語にあたる西欧語はアート,アールart(英語,フランス語),クンストKunst(ドイツ語),アルテarte(イタリア語,スペイン語),さかのぼってはアルスars(ラテン語),テクネーtechnē(ギリシア語)である。それゆえ芸術の意味を考えるには,芸の正字〈芸〉や〈術〉の語義を中国および日本の文化史に追いもとめる以上に,西洋における芸術観の展開を重んじることになる。…
…この時代には,感覚的価値としての美の定義が試みられ,自然美と芸術美が峻別されて両者のうち後者が人間精神の所産として優位にあるものとしてたたえられ(G.W.F.ヘーゲル),美の表現以外のものを目的としない純粋な芸術いわゆる〈芸術のための芸術l’art pour l’art〉(V.クーザンが命名)こそ真の芸術であるとされた。ここでいう芸術という概念も実はこのころ発生したのであり,語としては中世以来のアルスars(ラテン語),アール,アートart(フランス語,英語),アルテarte(イタリア語),クンストKunst(ドイツ語)がそのまま用いられて,それに新しい意味づけがされたのである。つまり中世以来,この語は〈技術〉〈巧みな仕上げ〉などの意味で用いられてきたが,それに新たに美を表現する術という意味づけがされ(今日でいう芸術),さらにこれを明確にするために〈美しい〉という語を加えて〈美術〉(ボーザールほか)という語が生まれたのである。…
※「ARS」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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