日本大百科全書(ニッポニカ) 「自動誤字訂正方式」の意味・わかりやすい解説
自動誤字訂正方式
じどうごじていせいほうしき
automatic error correcting system
フェージング(電波の受信状態が時間とともに急速に変化する現象)や電気雑音の影響を受ける通信回線で、印刷電信を行うときに発生する誤字を受信側において検出して訂正するシステムのこと。この技術はデータ通信にも応用されるが、データはデジタル信号であっても文字ではないので、ここでは印刷電信の自動誤字訂正方式についてのみ記述する。
短波国際通信において使用される狭帯域直接印刷電信では、電波のフェージング現象によって発生する誤字や脱字を防止するために2種類の自動誤字訂正方式を使用している。FEC(forward error correction)とよばれる方式と、ARQ(automated request of repetition)とよばれる方式である。
印刷電信には国際電信アルファベットNo.2(international alphabet No.2)という符号を使用するが、この符号は各1単位がマークかスペースの5単位で構成されているので5単位符号ともよばれている。たとえばマークをY、スペースをBで表したとき、文字Aを表す符号はBBYYYのように定められている。
[石島 巖]
FEC方式
FEC方式は、符号を一定の時間差をつけて二度ずつ送信し、二つの符号の受信結果を照合して正誤を判断する。具体的には5単位のYとBで構成される電信符号の1単位(以下1ビットという)の伝送時間長を10ミリ秒(ms)とし、各ビットの間に10ミリ秒の間隔を置くことによって1符号を100ミリ秒で送信する。先頭文字の第1ビットの始まり(立ち上がり)から210ミリ秒のところに先頭文字の繰り返し分の第1ビットを挿入する。こうすると繰り返しの符号を構成するビットはすべて先に送信した符号の間隔部分に挿入される。
この方法では正しいと判定された受信符号は確かに正しいが、一致しなかった受信符号は前後のいずれが正しいのか、両方とも誤りであるのか判定ができない。したがって、一致しなかった文字は不明として印字をしない。
[石島 巖]
ARQ方式
不明の文字をなくす方法がARQ方式である。ARQ方式では、受信側で検出した誤受信の部分を受信側の送信設備を使って自動的に送信側に問い合わせ、不明部分の再送を要求する。正しく受信されたと確認された文字だけを印刷するので誤受信が皆無となる。
受信側において受信の正誤を判断できるように、送信する符号にその構成がつねに4個のBと3個のYとを含むものとなるように2個のパリティビットparity bit(データの誤りを検出するために付加されるビット)を追加する。これを4B3Y符号ともいう。たとえば前述の国際電信アルファベットNo.2では文字Aを符号BBYYYのように5単位で表したが、ARQではBBBYYYBのように7単位化するのである。送信の際には、これを3文字(21ビット)ずつ送信する。正常ならば、これを受信すれば12個のBと9個のYが受信されることになる。もし11個のBと10個のYというようにその比が違って受信されたならば、受信した3文字のなかにかならず誤文字があることになる。
受信側では誤文字が検出されない間は制御信号1(BYBYYBB)と制御信号2(YBYBYBB)を3文字受信するごとに交互に送信し続け、送信側においては制御信号1と2が交互に受信されている間は3文字ずつ送信を続ける。受信側で誤文字が検出されると受信側から同じ制御信号が繰り返して送信される。同じ制御信号の繰り返しを送信側が確認したならば、送信側は誤受信とされた3文字から再送信する。制御信号自体も4B3Y符号になっているので、逆方向にも自動誤字訂正機能をもたせている。
このARQ方式では、伝送効率をよくする目的で3文字ずつ伝送するが、このことが弱点となってもいる。かりに各ビットが12B9Yの比率で受信されたとしても、それが一つのビットエラーを打ち消すような別のビットエラーで補完された結果である場合には誤りは発見されない。それでも、このARQ方式はきわめて信頼のおけるシステムであって、信号がわずかに聞こえる状態であれば、強いフェージングがあってもこれを克服できる性能を有している。
[石島 巖]
活用
FEC方式は、多数局に同じ内容の文書を印刷電信で送信する場合(同報通信)での、誤字を極力減少させるためのシステムとして、まことに優れた方式である。
ARQ方式は、衛星中継マイクロ波デジタル伝送にもほとんど同じ手法が応用され有効に活用されている。
[石島 巖]