吉井勇(読み)ヨシイイサム

デジタル大辞泉 「吉井勇」の意味・読み・例文・類語

よしい‐いさむ〔よしゐ‐〕【吉井勇】

[1886~1960]歌人・劇作家。東京の生まれ。「明星」「スバル」によって相聞歌などを発表、また、芸人の世界を描いた独自の市井しせい劇で知られる。歌集「酒ほがひ」「祇園歌集」「人間経」、戯曲「午後三時」「俳諧亭句楽の死」など。

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共同通信ニュース用語解説 「吉井勇」の解説

吉井勇

吉井勇よしい・いさむ 大正・昭和期を代表する歌人。1886年東京生まれ。耽美たんびな作風で知られ、歌集「酒ほがひ」「祇園歌集」などで人気を集めた。高知での隠せいを経て1938年に京都に移り住み、45年2月に富山に疎開。食料不足や度重なる空襲警報を経験し、同8月には富山大空襲を目撃、日記に「地獄変相図を見るが如し」と残した。戦争を巡る短歌も多く作ったが、戦後の歌集には収録されず、多くを語らなかった。伯爵家に生まれ、祖父は薩摩藩士として明治維新に貢献し、後に枢密顧問官などを歴任した吉井友実よしい・ともざね

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精選版 日本国語大辞典 「吉井勇」の意味・読み・例文・類語

よしい‐いさむ【吉井勇】

  1. 歌人、劇作家。東京出身。早稲田大学中退。北原白秋らと「スバル」の編集に従事耽美派の歌人として活躍したほか、戯曲・小説などにも筆を執った。著「酒ほがひ」「祇園歌集」「午後三時」など。明治一九~昭和三五年(一八八六‐一九六〇

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「吉井勇」の意味・わかりやすい解説

吉井勇
よしいいさむ
(1886―1960)

歌人、劇作家、小説家。明治19年10月8日、東京市芝区高輪(たかなわ)町に生まれる。早稲田(わせだ)大学中退。祖父友実(ともみ)は薩摩(さつま)(鹿児島県)の人で、西郷隆盛(さいごうたかもり)、大久保利通(としみち)らと国事に奔走し、明治になって伯爵を受爵する。勇は15歳で作歌を開始し、20歳で新詩社に入社。雑誌『明星』に投稿するが、22歳のおり、北原白秋、木下杢太郎(もくたろう)、長田幹彦らとともに新詩社を退社。翌1908年(明治41)石井柏亭(はくてい)、森田恒友(つねとも)らと「パンの会」を結成、耽美(たんび)派の拠点となった。またその翌年、森鴎外(おうがい)監修のもとに石川啄木(たくぼく)、平野万里(ばんり)とともに『スバル』を創刊。勇の文学的出発である。第一歌集『酒(さか)ほがひ』(1910)によって文壇的地歩を固める。以後小説、戯曲などを精力的に発表。歌風は、酒と情癡(じょうち)の世界を歌い、耽美頽唐(たいとう)の傾向が強い。そうした文学の隆盛に対して、16年(大正5)「遊蕩(ゆうとう)文学撲滅(ぼくめつ)論」(赤木桁平(こうへい))が発表され、多大の痛手を被った。さらに、33年(昭和8)妻徳子の不行状が指弾されるに至り、社会的地位が問われ爵位を失い、失意のうちに歌行脚(あんぎゃ)を重ね、土佐の猪野野(いのの)に隠棲(いんせい)した。その苦境所産として歌集『人間経』(1934)、随筆集『わびずみの記』(1936)があり、文学的転機を迎える。その後の歌風は、耽美頽唐は影を潜め、枯淡で人間的な滋味あふれる境地を展開する。

 ほかに、歌集『恋人』(1913)、『仇情(あだなさけ)』(1916)、『祇園双紙(ぎおんそうし)』(1917)、『悪の華(はな)』(1927)、『玄冬』(1944)、『流離抄』(1946)などがあり、小説に『墨水十二夜』(1925~26)、『市井夜講』(1947)などがある。戯曲に『狂芸人』(1914)、『髑髏尼(どくろに)』(1913)、『小しんと焉馬(えんば)』(1920)、『俳諧(はいかい)亭句楽の死』(1914)などがある。48年(昭和23)芸術院会員。昭和35年11月19日没。

[水城春房]

 過ぎし日の華奢(くわさ)も夢かとおもふとき艶隠者(やさいんじゃ)めく寂しさの湧(わ)く

『『吉井勇全集』全9巻(1977~79・番町書房)』『木俣修著『吉井勇研究』(1978・番町書房)』

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20世紀日本人名事典 「吉井勇」の解説

吉井 勇
ヨシイ イサム

明治〜昭和期の歌人,劇作家,小説家



生年
明治19(1886)年10月8日

没年
昭和35(1960)年11月19日

出生地
東京市芝区高輪南町(現・東京都港区)

学歴〔年〕
早稲田大学政経科中退

経歴
父は海軍軍人の吉井幸蔵、祖父は維新の元勲として知られる吉井友実で、伯爵家の二男として生まれる。大学を中退して明治38年新詩社に入り、「明星」に短歌を発表したがのち脱退、耽美派の拠点となったパンの会を北原白秋らと結成。また42年には石川啄木らと「スバル」を創刊したあと、第一歌集「酒ほがひ」、戯曲集「午後三時」を出版、明治末年にはスバル派詩人、劇作家として知られる。大正初期には「昨日まで」「祇園歌集」「東京紅燈集」「みれん」「祇園双紙」などの歌集を次々と出し、情痴の世界、京都祇園の風情、人生の哀歓を歌い上げ、「いのち短し恋せよ少女」の詞で知られる「ゴンドラの唄」の作詞なども手がけた。その後も短編・長編小説、随筆から「伊勢物語」等の現代語訳など多方面にわたる活動を続けた。昭和30年古希を祝って京都・白川のほとりに歌碑が建てられ、没後は“かにかくに祭”が営まれる。他の代表歌集に「鸚鵡石」「人間経」「天彦」「形影抄」があるほか、「吉井勇全集」(全8巻・補巻1 番町書房)が刊行されている。平成9年書簡や日記、原稿など約4450点が京都府に寄付された。また、同年7月寄贈品の中から谷崎潤一郎の未発表随筆が発見された。15年一時居住した高知県香北町に香北町立吉井勇記念館が開館した。

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改訂新版 世界大百科事典 「吉井勇」の意味・わかりやすい解説

吉井勇 (よしいいさむ)
生没年:1886-1960(明治19-昭和35)

歌人,作家。東京生れ。伯爵吉井幸蔵の次男。早大政経科中退。中学卒業後の1905年新詩社に入り,《明星》に短歌を発表,注目された。1909年《スバル》創刊後は同人として活躍,戯曲にも手を染めた。第1歌集《酒(さか)ほがひ》(1910)は,青春の情熱を奔放に歌いあげて高い世評を得,戯曲集《午後三時》(1911)とあいまって耽美派の作風を展開した。以降紅灯の巷の情趣を享楽的に歌った《祇園歌集》(1915),市井の寄席芸人の哀歓を写した戯曲集《俳諧亭句楽》(1916)など,吉井勇調というべき独自の作品集を刊行し続けた。26年家督相続。歌集《人間経》(1934)は現実の苦悶から生まれ,歌風の転機となった。爵位返上,妻との離別,土佐隠棲などの変動期を経て,38年に2人目の妻とともに京都に移り,新生活が開けた。戦後,歌会始選者や芸術院会員となり,60年に肺癌で没するまで文筆を廃さず,各地の旅行も楽しんでいる。晩年の代表作に小説集《蝦蟆鉄拐(がまてつかい)》(1952),歌集《形影抄》(1956)などがある。〈夏はきぬ相模(さがみ)の海の南風(なんぷう)にわが瞳燃ゆわがこころ燃ゆ〉(《酒ほがひ》)。
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百科事典マイペディア 「吉井勇」の意味・わかりやすい解説

吉井勇【よしいいさむ】

歌人,劇作家。東京生れ。早稲田大学中退。新詩社に加わり《明星》《スバル》誌上で活躍,歌集《酒(さか)ほがひ》を出して頽唐(たいとう)派の歌人として知られた。《祇園歌集》《東京紅灯集》《人間経》などの歌集のほか,戯曲《河内屋与兵衛》《俳諧亭句楽の死》,小説集《蝦蟆鉄拐(がまてっかい)》などがある。
→関連項目中山晋平パンの会三田派

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「吉井勇」の意味・わかりやすい解説

吉井勇
よしいいさむ

[生]1886.10.8. 東京
[没]1960.11.19. 京都
歌人,劇作家。 1905年早稲田大学に入学したがまもなく中退。 05年与謝野鉄幹の東京新詩社に参加,恋愛相聞の歌を『明星』に寄せて注目されていたが,07年末,北原白秋とともに脱退して文芸雑誌『スバル (昴)』を創刊 (1909) 。 10年歌集『酒ほがひ』を刊行,絶望のなかの放埒と情痴をうたって歌壇的地位を確立,『昨日まで』 (13) では歓楽のあとの悲しみをうたい,次第に沈潜の境地に向い,『人間経』 (34) で人生の諦観をしみじみとうたった。劇作では『午後三時』 (09) ,『河内屋与兵衛』 (11) ,『俳諧亭句楽の死』 (14) などに独自の市井的世界を展開した。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「吉井勇」の解説

吉井勇 よしい-いさむ

1886-1960 明治-昭和時代の歌人,劇作家,小説家。
明治19年10月8日生まれ。吉井幸蔵の次男。新詩社にはいり,「明星」に短歌を発表。明治41年パンの会を結成。翌年「スバル」の創刊に参加。耽美派(たんびは)の中心として活躍したが,のち人間の悲哀をみつめる作風に転じた。芸術院会員。昭和35年11月19日死去。74歳。東京出身。早大中退。歌集に「酒(さか)ほがひ」,戯曲集に「午後三時」,小説に「狂へる恋」など。
【格言など】かにかくに祇園はこひし寝るときも枕の下を水のながるる(「酒ほがひ」)

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367日誕生日大事典 「吉井勇」の解説

吉井 勇 (よしい いさむ)

生年月日:1886年10月8日
明治時代-昭和時代の歌人;劇作家;小説家
1960年没

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