条件づけ(読み)じょうけんづけ(英語表記)conditioning

翻訳|conditioning

日本大百科全書(ニッポニカ) 「条件づけ」の意味・わかりやすい解説

条件づけ
じょうけんづけ
conditioning

行動研究の実験操作。ロシアの生理学者パブロフ条件反射conditioned reflexの研究に端を発したものであるが、パブロフの実験が分泌系を主にした反射を用いたのに対し、運動系の反応を含めて広く心理学の実験で用いられている。心理学の条件づけで扱う反応は、条件反射に限らない生活体の諸行動であり、したがって条件反応conditioned responseという。

 条件づけはパブロフの条件反射を模型とした「古典(的)条件づけ」classical conditioningアメリカの心理学者ソーンダイクらの報酬訓練や回避訓練で形成される反応を扱う「道具(的)条件づけ」instrumental conditioningに大別される。また、同じくアメリカの心理学者のスキナーは反応をレスポンデントrespondent(応答的)とオペラントoperant(自発的・作動的)とに分けたが、レスポンデントは、それを誘発する刺激一定で、反応の結果に関係なく生じる生得的反応であり、オペラントは一定の誘発する刺激はなく、生活体の側から自発的に作動する反応であって、反応の結果に依存して制御される習得的反応である。これらの反応の条件づけは、それぞれS型‐レスポンデント条件づけ、R型‐オペラント条件づけとよばれ、古典条件づけと道具条件づけと、ほぼ対応する意味をもっている。近来は、古典条件づけとオペラント条件づけとに分類することが多い。

小川 隆]

古典(的)条件づけ

パブロフがイヌを用いて行った古典条件づけでは、無条件刺激(たとえば食物)unconditioned stimulusと、条件刺激(たとえば音)conditioned stimulusとの対呈示を反復し、本来、無条件刺激に対する無条件反射(唾液(だえき)分泌)unconditioned reflexと同様の反応が条件刺激によって誘発される(条件反射conditioned reflex)。唾液分泌という反応が無条件刺激のかわりに条件刺激によって誘発されたという意味で、刺激置換が生じたともいわれたが、条件刺激に対する条件反射の量は無条件刺激に対する無条件反射の量より少なく、また、無条件反射としての唾液分泌はそしゃく、嚥下(えんげ)と直接関連するが、条件反射としてのそれは関連しないことから、条件反射は無条件反射の完全な模写ではなく、部分的成分反応fractional component response、あるいは期待反応anticipatory responseであるという見方もある。

 条件刺激と無条件刺激との時隔を種々に変化すると、条件づけの経過が異なる。条件刺激が無条件刺激に先だって呈示される先行性条件づけforward conditioningでは条件刺激がわずかに無条件刺激より先行する同時条件づけsimultaneous conditioningが有効で、条件刺激にかなり遅れて無条件刺激が呈示される延滞条件づけdelayed conditioning、条件刺激と無条件刺激とがまったく重ねられないで、条件刺激の終止後、時間を隔てて無条件刺激が呈示される痕跡(こんせき)条件づけtrace conditioningは有効でない。条件刺激が無条件刺激に後行する逆行性条件づけbackward conditioningは困難で、結果が不確かである。

 条件づけが形成されたのち、無条件刺激を伴わないで条件刺激だけを反復呈示すると条件反射はしだいに消失する(実験的消去experimental extinction)。しかし、消去後、しばらくして条件刺激を呈示するとふたたび条件反射が出現する(自発的回復spontaneous recovery)。条件反射は興奮制止との両過程に制御されることが予想され、制止過程は時間経過に従って弱められるとみられている。条件づけの途次、条件刺激以外の刺激を導入すると条件反射が弱められるし(外制止external inhibition)、消去時、条件刺激以外の刺激を呈示すると消失しかけた条件反射が再現することがある(脱制止disinhibition)。

 ある条件刺激(たとえば1000振動の音)に対して条件反射を形成すると、それと同一次元の刺激(たとえば800振動の音)に対しても条件反射が生じる(刺激般化stimulus generalization)。一方の刺激を条件づけ、他方を消去すると消去刺激には般化は及ばない(分化条件づけdifferential conditioning)。

 条件刺激(音)に対する条件反射が形成されたのち、別の条件刺激(光)に対して次々に条件反射を形成することができる(高次条件づけhigher order conditioning)。二つの中性刺激(光と音)を反復対呈示したのち、一方の刺激を条件刺激として条件反射を形成すると、他方の刺激に対してただちに条件反射が誘発される(感性前条件づけsensory pre-conditioning)。

[小川 隆]

オペラント(自発的‐作動的)条件づけ

オペラント条件づけは古典条件づけの原理に従って操作され、これと類似した条件づけ、消去の諸様相が認められる。しかし、古典条件づけでは反応(条件反射)と独立に刺激(条件刺激・無条件刺激)が操作されるが、オペラント条件づけでは反応(条件反応)の出現が前提であり、反応の積極的・消極的結果(強化reinforcement)に対する反応の選択形成・維持が重視される。したがって反応数・時間経過によってどのように強化されるかのプログラム(強化スケジュールschedules of reinforcement)が実験されている。反応ごとに強化する連続強化continuous reinforcementに対して、反応生起に間歇(かんけつ)的に強化する間歇強化intermittent reinforcementが区別される。間歇強化は時間に関して一定な定間隔fixed interval強化と、不規則な変間隔variable interval強化、一定の反応数ごとの定率fixed ratio強化、不定の反応数に対する変率variable ratio強化に大別される。これらはさらに、修飾・複合され多数のスケジュールが組まれるが、これらによって条件反応はそれぞれ特徴的な条件づけ、消去の反応経過を定常的に示している。一定の刺激の下で条件反応が形成される際、この刺激は弁別刺激というが、弁別刺激について刺激般化が認められ、条件反応が制御される(刺激性制御stimulus control)。また、弁別刺激が二次的に強化の役目をもつことがあり、これを条件性強化conditional reinforcementという。

[小川 隆]

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改訂新版 世界大百科事典 「条件づけ」の意味・わかりやすい解説

条件づけ (じょうけんづけ)
conditioning

学習の最も基本的で典型的な型,およびそれを形成する手続・過程。個体にとって意味のない刺激に対し反応を除去していく消極的過程の慣れに対し,大部分の学習は新しい反応を獲得する積極的過程で,積極的学習positive learningという。また,この型の学習では2種の刺激の組合せ(連合)が重要であり,連合学習associative learningという。この学習のモデルとして,I.P.パブロフの条件反射を原型とする古典的条件づけと,E.L.ソーンダイクの道具的条件づけがある。これらはともに二つの過程の連合が重要で,古典的条件づけでは2種の刺激の連合が,道具的条件づけでは動物の反応とそれを基準とした強化刺激の連合が重要となる。

レスポンデント(応答的)条件づけrespondent conditioningまたは第Ⅰ型条件づけtype Ⅰ conditioningともいわれる。パブロフはイヌに唾液の分泌量を計測できるような手術(唾液瘻(ろう)の手術)を行い,唾液分泌を反応として,次の刺激を加えた。まず,唾液分泌には関係のない刺激(たとえばベル音)をイヌに与える。これによる唾液分泌は起こらない。次いで,ベル音のあと食餌を少し与えるという操作を繰り返し行う。食餌は唾液分泌を必ず起こすから,これを無条件刺激unconditioned stimulus(略称US)という。ベル音と食餌とを組み合わせると,やがてベル音のみで唾液分泌が起こるようになる。この唾液分泌を条件反射といい,またベル音は条件刺激conditioned stimulus(略称CS)という。このとき,ベル音と食餌の組合せを繰り返す操作を強化reinforcementという。同様に,光刺激を条件刺激とし,足の電撃刺激を無条件刺激として,光に対する足の屈曲反射を条件反射として起こすこともできる。これは防御条件反射とよばれ,基本的な条件反射の一つである。古典的条件づけでは,条件刺激と無条件刺激の対呈示は動物の反応(行動)生起とは無関係であり,この点が道具的条件づけとの最も大きな相違である。したがって,筋肉を麻酔して行動ができなくても,条件づけはできる。

オペラント(操作的)条件づけoperant conditioningまたは第Ⅱ型条件づけtype Ⅱ conditioningともいわれる。道具的条件づけにおいては,行動は動物本来の自発的行動の枠組みで偶発的に行わせ,その行動を報酬や罰によって強化する。強化の結果,ある反応はしばしば起こるようになり,他の反応は脱落するか消失してしまう。このように,古典的条件づけと道具的条件づけでは強化の方法に相違があり,古典的条件づけでは,動物の反応の結果のいかんにかかわらず,強化は実験者が決定するのに対し,道具的条件づけでは,動物の反応の結果のフィードバックにより強化の方向が決定される。このとき,動物の反応(行動)は強化を得るための道具としての役割を担うことになるので,この種の学習は道具的条件づけとよばれる。たとえば,ベルの音で前足を上げなければ皮膚に電気ショックを与えることとし,前足を上げれば電気ショックを与えないということを繰り返すと,罰を回避する回数がしだいに多くなり,最後には確実に罰を回避するようになる。この条件づけの程度は,条件刺激(ベル)に対して前足を上げるという反応の起こる確率で表すことができる。このような条件づけを回避条件づけavoidance conditioningまたは回避学習avoidance learningという。

 このほか道具的条件づけにはいろいろのものがある。すなわち二つの室の間を移動できるようにした部屋の床に電気格子を張り,それに通電して電気ショックを与えるようにし,これによって他の室へ逃避することを学習づける逃避学習escape learningがある。また,罰の代りに報酬を与えられるものとして,レバー押し学習lever press learningがある。レバーを押せば食餌が与えられる装置(スキナー箱Skinner box)によって,レバー押しを学習する場合や,迷路学習maze learningのように,迷路のなかで正しい道を通ったときに餌が与えられるようなものもある。弁別学習discrimination learningは,二つまたはそれ以上の刺激を同時に呈示し,正しい刺激を選んで反応すれば報酬を与えるように刺激の弁別をさせるものである。また問題箱学習problem box learningはソーンダイクの考案になるもので,掛金をもつ扉のある箱に動物を入れ,外に出るためには掛金をはずさなければならないように仕掛けておく。うまく外に出れば報酬を与え,箱にとどまれば罰を受けるような学習である。以上の道具的条件づけのうち,迷路学習,問題箱学習,弁別学習は動物が試行錯誤的な反応を繰り返すうちに偶然正解に到達し,報酬を受けるので,試行錯誤学習trial and error learningといわれる。
学習 →条件反射
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「条件づけ」の意味・わかりやすい解説

条件づけ
じょうけんづけ
conditioning

古典的条件づけ道具的条件づけに分けられ,古典的条件づけでは,条件刺激と無条件刺激を反復して対提示することによって,最初はほとんどなんら反応を引起さなかった条件刺激に対して条件反射が引起されるようになる過程のこと。道具的条件づけでは環境に対して働きかけを行なっているうちに,ある特定の反応をすると強化されるので,その結果その反応の生起確率が増大するようになる過程のこと。

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