Bartter症候群とGitelman症候群

  • Bartter症候群とGitelman症候群(遠位尿細管疾患)

内科学 第10版の解説

(2)Bartter症候群とGitelman症候群
概念
 Bartter症候群は1962年にBartterらよってはじめて提唱された疾患である.本症候群では,レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の亢進,低カリウム血症,代謝性アルカローシスが認められるにもかかわらず,高血圧,浮腫がないのが特徴である.また,アンジオテンシンⅡ投与に対する昇圧反応は著しく低下し,病理学的には傍糸球体装置の過形成が認められる.本症候群では,Henleの太い上行脚におけるNaCl再吸収が低下しており,過剰のNaイオン,Clイオンが遠位尿細管に到達する.集合管ではNa再吸収とともにK分泌が促進されて低カリウム血症,代謝性アルカローシスをきたす.一方Gitelman症候群は,腎接合尿細管におけるNa・K・Mgの再吸収障害により低カリウム血症,低マグネシウム血症,代謝性アルカローシスを呈する先天性尿細管機能異常症である.また利尿薬のサイアザイドを慢性的に使用した状態に本症の病態が類似する(いわゆる偽性Bartter症候群).
病態生理
 Bartter症候群には,臨床病型(新生児型,古典型)と原因遺伝子による分類(Ⅰ~Ⅴ型)による2つの分類法が存在する.Bartter症候群I型は,Henleの太い上行脚(TAL)に存在するNa-K-2Cl共輸送体(NKCC2;SLC12A1),Ⅱ型はTALの管腔側に存在するATP感受性Kチャネル(ROMK;KCNJ1),Ⅲ型はTALの血管側に存在するClチャネル(ClC-Kb),Ⅳ型はClC-Kbのβサブユニット(Barttin)の不活性型変異のホモ接合体が原因で発症するため,常染色体劣性遺伝形式をとる.Ⅴ型は,Ca感知受容体(CaSR)のヘテロ受容体の活性型変異が原因であり,常染色体優性遺伝形式をとる.Henleの太い上行脚と遠位曲尿細管におけるチャネルと輸送体を図示(図11-9-2)する. Gitelman症候群もBartter症候群と類似するが,遠位尿細管の管腔側に存在するNa-Cl共輸送体(TSC)の不活性型変異のホモ接合体が原因であり,常染色体劣性遺伝形式をとる.臨床的には,Bartter症候群に比べて尿中Ca排泄量が少ないなどの特徴がある.
 糸球体で濾過された原尿は高濃度のNa,Clと低濃度のKを含む.近位尿細管では等張性に水と電解質が再吸収されるため,遠位尿細管にはNa,Clが高濃度,Kが低濃度のまま到達する.TALでは,NKCC2によりNa,K,Clが再吸収される.Bartter症候群Ⅰ型では,NKCC2の不活性型変異により,TALにおけるNa再吸収が抑制される結果,尿浸透圧が上昇する.このため,集合管のアルドステロン依存性上皮性Naチャネル(ENaC)が活性化しNa再吸収とKの分泌が亢進する.Ⅱ型では,TAL管腔側に存在するK分泌チャネルのROMKの不活性型変異によってKの尿細管腔への供給が低下し,NKCC2の作用が抑制されることによって生じる.Ⅲ型は,TALの血管側に存在するClチャネルのClC-Kbの不活性型変異によってClを血管内に取り込むことができないため,管腔側でのNa,Clの再吸収が抑制されることにより生じる.Ⅳ型は,ClC-KbのβサブユニットであるBarttin蛋白の不活性型変異により生じる.V型は,TAL血管側のCaSRの活性型変異によって生じる.CaSRの機能亢進によりROMK活性が低下し,引き続いてNKCC2が抑制され症状が生じると考えられている. Gitelman症候群は,低マグネシウム血症,低カリウム血症高レニン血症でありながら正常血圧の3症例が報告され,1996年に遠位曲尿細管の管腔側膜に特異的に発現しているNa-Cl共輸送体(NCC)(またはサイアザイド感受性共輸送体(TSC))の遺伝子異常によって発症することが明らかになった.Bartter症候群と共通した所見は,低カリウム血症,代謝性アルカローシス,高レニン血症,高アルドステロン血症,高血圧や浮腫を伴わないことである.本症候群に最も特徴的な所見は,尿中Ca排泄の減少である.低マグネシウム血症はほぼ全例に認められ,程度もBartter症候群より重篤である.
臨床症状
 表11-9-2にBartter症候群とGitelman症候群のおもな症状と鑑別点をあげた.両者に共通しているのはNaCl喪失傾向(血圧低め),二次性のレニン-アルドステロン亢進症,低カリウム血症性アルカローシスである.臨床症状はBartter症候群で強く,発育障害を伴い,腎石灰化があり,尿濃縮力の低下もある.臨床病型は発症時期により新生児と古典型に分類される.一般に,Ⅰ型,Ⅱ型およびⅣ型は新生児型Bartter症候群に属し,羊水過多,胎児発育不全で発症し,出生後は多飲,多尿,成長障害,高カルシウム尿症を認める.腎石灰化も生じ,末期腎不全に進行する例も存在する.血清Mg濃度は正常のことが多い.一般にⅢ型およびⅤ型は古典型Bartter症候群に分類される,古典型Bartter症候群は2歳以降,ときには成人後はじめて偶発的に診断され,新生児型とGitelman症候群の中間程度の重症度を呈する.低カリウム血症を生じるが,多飲,多尿や成長障害が軽度である.腎石灰化の頻度も低く,腎不全に至ることはまれである.Bartter症候群Ⅴ型は,CaSRの活性型変異によって副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)の分泌不全,作用不全(副甲状腺機能低下症)が生じる.したがって,遺伝性の副甲状腺機能低下症のなかにはCaSRの活性型変異によるものが含まれ,Bartter症候群Ⅴ型を合併することがある.PTHの作用不全により遠位尿細管などにおけるCa再吸収が低下し,尿中Ca排泄量が大量になるため腎石灰化,腎不全の進行が速い.Gitelman症候群では,低マグネシウム血症はほぼ全例に認められる.成人例で正常に発育した症例をみた場合はGitelman症候群を疑うべきである.
診断
 診断の糸口は低カリウム血症であることが多い.そして代謝性アルカローシス,レニン-アルドステロン亢進,低~正常血圧で診断はつく.低カリウム血症が腎からのK喪失によることを確かめる必要がある.またいわゆる偽性Bartter症候群を否定する必要がある.これはフロセミド,サイアザイドなどの利尿薬の長期連用により,Bartter症候群と同じ臨床症状を示すものを指す.フロセミドなどの尿中排泄を証明することが最終診断となる.表11-9-2に従えば,Bartter症候群とGitelman症候群の鑑別は可能と思われるが,確定診断は遺伝子変異を見つけることによる.Gitelman症候群もBartter症候群に類似の病態であるが,低カルシウム尿症と低マグネシウム血症を呈するのが特徴である.Bartter症候群では,尿中Ca濃度は正常~高値かつ低マグネシウム血症を認めない点が鑑別に重要である.
治療
 新生児・乳児期に脱水,電解質異常で発見された場合は,まず適切な輸液を行う.カリウム製剤の経口のみで血清K値を正常化できる例は少数であり,抗アルドステロン薬(スピロノラクトン)の投与を行う.TALにおけるCOX-2の阻害によってNKCC2,ROMKの作用の抑制が改善するため,非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)や選択的COX-2阻害薬も使用される.特に,選択的COX-2阻害薬は腎臓に特異性が高く,その使用を推奨する報告がある.NaおよびClの尿中排泄が増加しているので,高食塩食を摂取させる.Bartter症候群Ⅴ型は副甲状腺機能低下症を合併し,低カルシウム血症の治療として活性化ビタミンD3製剤の投与が必要となることがある.対症療法を行う.カリウム製剤によるKの補充,アルドステロン受容体阻害薬(スピロノラクトン),プロスタグランジン合成酵素阻害薬を投与し,Kを主体に電解質の正常化をはかる.またGitelman症候群ではMg補充も症状軽快に有効である. 予後は,Ⅰ型・Ⅱ型・Ⅳ型(新生児型)の長期生存例では,腎石灰化,低カリウム血症による尿細管障害などにより末期腎不全に至る例が多く,成長障害も伴いやすいⅢ型は,腎石灰化および末期腎不全へ移行する頻度は低く,比較的軽症として推移する.Ⅴ型は,ほかの型のBartter症候群に比べて腎石灰化から腎機能低下および腎不全への移行が速い傾向があり,活性化ビタミンD3製剤の早期使用および投与量の細かな管理を要する.[寺田典生]
■文献
Barratt J, Harris K, et al: Tubular disease. In: Oxford Desk Reference Nephrology, pp199-224, Oxford University Press, New York, 2009.
Bonnardeaux A, Bichet DG: Inherited disorders of the renal tubules. In: The Kidney, 8th ed (Brenner BM ed), pp1390-1427, Saunders, Philadelphia, 2008.
Plmer BF, Dubose TD: Disorders of potassium metabolism. In: Renal and Electrolyte Disorders. 7th ed (Schrier RW ed), pp137-165, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 2010.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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