VW排ガス規制不正(読み)ぶいだぶるはいしゅつがすきせいふせい

知恵蔵 「VW排ガス規制不正」の解説

VW排ガス規制不正

2015年9月に公になった、ドイツのフォルクスワーゲン社が、自動車エンジンに不正な制御ソフトを組み込んで行った排出ガス規制逃れのこと。企業ぐるみの不正行為の発覚により、同社のブランドイメージは大きく傷つき、CEO(最高経営責任者)が辞任するに至った。このソフトを組み込んだディーゼル車は世界で1千万台以上にも上り、今後同社は巨額の制裁金や補償金などの支払いを迫られる。
同社の前身はナチス時代の1937年に、国策の自動車製造会社として設立された。現在の社名は、当時開発された自動車名「国民の車」にちなむ。敗戦後も製造販売が続けられた、空冷リアエンジンの「ビートル」は1車種だけで2千万台を超える空前の大ヒットとなった。70年代には市場に「ゴルフ」を投入、フロントエンジン・前輪駆動の小型車の範形として、広く市場に受け入れられた。積極的な企業買収でアウディやポルシェ、ベントレーなど多数のブランドを傘下に収め、好調な中国市場の支えで年間販売台数は1千万台を超え、GMルノーを押さえてトヨタ自動車に迫る世界第2位の有力メーカーとなっている。
同社の行った不正は、ディーゼルエンジンを制御するコンピューターに、不正な動作をするプログラムを組み込んだこと。窒素酸化物NOx排出を減らす浄化システムを、管理当局が実施する排ガス試験の時にだけ十分に機能させて検査を免れ、通常の走行時には桁違いの量に及ぶNOxを垂れ流していた。ディーゼルエンジンのNOxを減らすには、排ガスをエンジンに再循環させたり、触媒で還元したりといった方法がある。前者はエンジンの劣化を促すし、後者では触媒の機能を維持するために燃量を多く消費したり、尿素水噴射装置を取り付ける費用がかさんだりする。試験時にだけ規制を回避し、実際の走行時にはこれらを無効にすることで、同社が売りにする「クリーン」なディーゼルエンジンの見かけ上の優位を保とうとしたものと見られる。
また、発覚当初、同社はディーゼル車のみの問題としていたが、11月には新たにアウディなどに搭載されたガソリンエンジンにも同様の不正が発覚した。
15年9月に米環境保護局(EPA)から大気汚染防止法違反の通知を受け、今後各国から課される巨額の制裁金や、リコール、補償など同社を揺るがす負担が発生する。イメージ低下による売り上げ減少なども相まって、ドイツ経済にも大きな影響があるのではないかとの懸念もなされている。

(金谷俊秀 ライター/2015年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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