リコール(読み)りこーる(英語表記)Philippe Ricord

日本大百科全書(ニッポニカ) 「リコール」の意味・わかりやすい解説

リコール(製品回収)
りこーる
recall

製品の欠陥や不具合で、消費者に対する安全上の問題が生じるおそれがある場合、製品を無償で回収・修理する制度。法令で定められた安全規制やメーカーなどの自主判断に基づき、危険を防止するために講じられる措置である。リコール制度は1969年(昭和44)に始まった自動車に対する制度が最初で、対象製品には、衣類や家庭用電気製品などの生活用製品、医薬品、食品などがある。それぞれの製品分野には品質や安全管理の基準を個別に定めた道路運送車両法、消費生活用製品安全法、医薬品医療機器等法(旧、薬事法)、食品衛生法などがあり、各法令に基づいてリコールが行われる。事故の発生や拡大を最小限に抑えるため、製造、輸入、流通、販売にかかわる事業者は、(1)製造や流通の停止と製品の回収、(2)消費者への適切な情報提供と類似事故防止のための注意喚起、(3)消費者が保有する製品の回収、交換、修理、などの措置を速やかに実施する必要がある。

 日本では自動車のリコール件数(国産車、輸入車の合計)は毎年300件以上にのぼっており、世界的な自動車部品の共通化のあおりを受け、いったん汎用(はんよう)部品に不具合が発生すると、リコール対象車両が世界の自動車メーカーに広がり、台数も何百万台にのぼるようになっている。また、日本のリコール制度は不具合や欠陥の原因がはっきりした後に届け出るのに対し、アメリカでは原因が不明でも、安全上問題があると判断した場合に行う調査リコール制度が整備されている。2014年(平成26)、自動車部品会社タカタ製のエアバッグの欠陥がアメリカで社会問題化した際には、アメリカ高速道路交通安全局(NHTSA:National Highway Traffic Safety Administration)からホンダなどが調査リコールの実施を求められたが、リコール制度の違いもあり、対応が後手に回って批判を浴びた。このため、日本国内でも、安全のための予防的措置として、調査リコール制度の整備を求める声があがっている。

 家庭用製品では、2005年の松下電器産業(現、パナソニック)製の石油温風機による一酸化炭素中毒死亡事故や、1985~2006年にかけて発生したパロマ工業(現、パロマ)製ガス湯沸かし器による死亡事故などの重大な事故も多発。これに対処するため2007年には消費生活用製品安全法が改正・施行され、製品事故情報報告・公表制度が始まった。2009年には消費者庁が発足し、事故情報の収集・公表にあたっている。ただし、リコール対象商品とわかっていても利用し続けるケースや、リコール情報に触れる機会のない消費者もおり、事業者の自主的な取り組みだけでは、完全に対処しきれないのが現状である。

[矢野 武 2015年7月21日]


リコール(国民罷免)
りこーる
recall

国民罷免あるいは国民解職ともいう。公職者(公務員)が国民や住民の信頼を裏切る行為をしたとき、任期満了前に国民または住民の発意によって呼び戻す(recall)方法である。レファレンダムイニシアティブと並んで、直接民主制の一つである。スイスで1852年にアールガウAargauおよびシャフハウゼンSchaffhausenの2州が採用したのが最初である。他の多くの州にも伝わったが、ほとんど活用されなかった。他方、この制度はアメリカ合衆国において広く普及し、かつ利用されている。連邦政府ではなく、州や都市に多い。1903年ロサンゼルス市がリコール制を創設し、州法に規定を設けたのは08年のオレゴン州が最初である。その手続は一定数以上の州民(有権者)が発議し、これが成立すると国民投票または住民投票に付して、リコールの可否を決定する。多くの州は判事に対して適用しない。旧ソビエト社会主義共和国連邦憲法では「すべて議員は、……法律の定める手続により、選挙人の多数決に基づき、随意に罷免されうる」(124条)と規定している。日本国憲法では「公務員を選し罷免することは国民固有の権利である」(15条1項)と規定し、リコールを制度化した。最高裁判所裁判官の国民審査(憲法79条2項)も一種の法定リコールである。また地方自治法では、長および議員の解職請求(131条2項・3項、80条~88条)が実現されている。リコールの長所としてあげられるのは、国民または住民は公務員を監督することができることである。したがって、公務員は責任感を喚起せられ、職務に忠実に、行動を慎むようになる。法律違反は裁判所が処理するが、政治的責任や道義的責任は、リコールによって問うほかはない。短所として、扇動家(デマゴーグ)の中傷、反感による攻撃によって事実が曲げられ、無責任な立場で、公務員を解職するようになることもある。そのため公務員はデマゴーグや世論に迎合するようになることが指摘される。

[伊藤 勲]


リコール(Philippe Ricord)
りこーる
Philippe Ricord
(1800―1889)

フランスで活躍した皮膚泌尿器科医。アメリカのボルティモアのフランス系家系に生まれる。1826年パリの医学校を卒業、ミディ病院の外科医となり、梅毒患者はじめ泌尿器患者の診療に専念した。1852年にはナポレオン3世(在位1852~1870)の侍医となった。梅毒と淋(りん)病とは別の病気であることを発見、これを立証したほか、泌尿器科の診療、治療技術に関してさまざまな新しいくふうを試みた。

[大鳥蘭三郎]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「リコール」の意味・わかりやすい解説

リコール[自動車]
リコール[じどうしゃ]
recall

自動車の構造,装置,性能に関して設計上または製造上の欠陥が発見された場合,製造会社が欠陥車両を回収し,修理など改善措置を行なうこと。日本では,国土交通省省令「道路運送車両の保安基準」の規定に適合しなくなるおそれがあると認められる場合に,対象となる。1969年5月,アメリカ合衆国の新聞が,日本車メーカーは欠陥を公表していないと指摘したことに端を発し,日本国内でも欠陥車が大きな社会問題として注目された。リコール制度は,アメリカでは 1966年の国家交通・自動車安全法に基づいて施行されており,日本では 1969年8月の運輸省令の改正で制度化された。1995年には,国土交通省によるリコール勧告や罰則などに関する規定が盛り込まれた改正道路運送車両法が施行された。また同法の改正により,2003年にリコール命令が導入され,罰則も強化,2004年流通量の多い後付装置であるタイヤチャイルドシートもリコールの対象となった。アメリカと日本のほか,カナダ,オーストラリア,ヨーロッパ連合 EUなどでも運用されている。(→製造物責任法

リコール[公職]
リコール[こうしょく]
recall

公務員国民または住民の発意で罷免する制度。国民解職,解職請求とも呼ばれる。人民投票の一つであり,直接民主制の一方法。日本国憲法15条1項は「公務員を選定し,及びこれを罷免することは,国民固有の権利である」と規定しており,理論上は国家公務員に適用することも可能だが,今日地方公共団体レベルで制度化されており,地方議会解散請求地方自治法13条1項,76~79)や長および議員などの解職請求(13条2,3項,80~88)がある。最高裁判所裁判官に対する国民審査(憲法79)も,一種のリコールとみることができる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報