知恵蔵 「CHIグループ」の解説
CHIグループ
社名の「CHI」が「知」から採られたように、当グループは「知は社会の礎である」という経営理念の下、書籍という「知」の生成・流通に革新をもたらす企業集団を目指している。統合以前からの書籍販売と図書館からの委託業務が事業の柱になるが、DNPが開発したICタグ、TRCが構築した書誌データベース(TRC MARC)、大学研究者からの信頼が厚い丸善のブランド力など、有形無形の資産や強みをもとに、「書籍販売の収益向上」「図書館業務受託の拡充」「コンテンツの電子化促進」などを図る。導入が遅れていたICタグは、低コスト生産の見通しが立ったもようで、販売・在庫管理と万引き対策に期待がかかる。図書館業務は、既に全国約200の公共図書館と約100の大学図書館の運営を受託しているが、統合によるサービス拡大によって、さらなる強化を図る。
最も注目されているのが、「返品のない書店」をビジョンとする流通・販売効率化への取り組みである。丸善では、販売数を予測する自動プログラムを作成するとともに、店舗ごとに特色を出し、来客者に商品を「提案する力」と適正に発注した書籍を「売り切る力」とを兼ね備えた書店づくりを推進するという。
書籍・雑誌の売上げは、1996年の2兆6千563億円をピークに減り続けている。2010年には2兆円を割り、下げ止まりの気配も見えない。社長に就任した小城武彦氏は、旧通産省でベンチャー支援に携わり、退職後はツタヤオンライン、産業再生機構、カネボウで腕を振るってきた。委託販売制度に守られた旧態依然とした出版業界で、約40%という新刊本の返品率をどう改善していくのか。低収益構造を脱却して、廃業がやまない書店の新しい経営モデルとなり得るのか。課題が山積する出版流通業界からの注目が集まっている。
(大迫秀樹 フリー編集者 / 2010年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報