65歳以上の高齢者が住民の半数を超え、共同生活の維持が困難な集落。山村の調査を長年続けてきた
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社会学者の大野晃(あきら)(1940― )が高知大学教授だった1990年(平成2)前後に提唱した山村集落の区分の一つ。大野は人口の過半を占める年齢階層による量的規定と、生活の担い手の再生産可能性という質的規定によって山村集落を、(1)55歳未満が過半で、担い手が確保されている「存続集落」、(2)55歳以上が過半で、近い将来に担い手確保困難が予想される「準限界集落」、(3)65歳以上が過半で、担い手の確保と社会的共同生活の維持が困難となった「限界集落」、(4)人口・戸数がゼロとなった「消滅集落」、に静態的に区分し、高齢化に伴って(3)から(4)へ移行する危険性が山村集落に迫っているとの警鐘を動態的視点から鳴らした。
限界集落ということばが注目されたのは2007年(平成19)であった。民主党が大躍進した参議院選挙で地域格差問題が争点となり、過疎問題の象徴として限界集落が取り上げられたからである。背景としては、(1)2000年以降の構造改革によって地方経済が疲弊していたこと、(2)少子化のため日本の人口が2007年から減少局面に入り、高齢化社会の本格的到来が国民的な関心をよんだこと、(3)市町村合併に伴って周辺集落への行政サービスのあり方が問題となったこと、(4)2010年に期限を迎えた過疎地域自立促進特別措置法改正の議論が盛んになっていたこと、が指摘される。
2006年4月時点の国土交通省・総務省の調査では65歳以上が過半の集落は全国で7878あり、うち423は10年以内に、2220はいずれ消滅する可能性が高いとされた。しかし、(1)限界集落は山村だけでなく、農村、大都市中心部や郊外のニュータウンなどにも存在していること、(2)高齢化率が高まると限界集落となり、それがただちに集落消滅に直結するわけではないこと、から限界集落という呼び方には批判もある。また、京都府綾部(あやべ)市のように「水源の里条例」を制定して(2006)、限界集落の再生・克服に踏み出す自治体も現れるなど、限界集落ということばがもつ「宿命性」を打破する試みも広がりつつある。
[谷口信和]
過疎地の集落について同種の調査が国土交通省と総務省によって2010年と2015年にも実施されており、2006年から2010年の間に93集落、2010年から2015年の間に174集落(うち27集落は東日本大震災による津波被災地)が無居住化している。2010年までに消滅した93集落の内訳は、10年以内に消滅、いずれ消滅すると2006年に予測されていた集落、そして消滅の可能性がないとされていた集落、それぞれがほぼ3分の1ずつを占める。この割合は2010年と2015年の間に消滅した集落についても、津波被災による影響を除くと同様の傾向を示しており、かならずしも予測の通りに推移しているわけではないことがわかる。2010年調査における限界集落の数(カッコ内は過疎地にある集落全体に占める割合。以下同じ)は1万0091(15.5%)、10年以内に消滅と予測される集落454(0.7%)、いずれ消滅と予測される集落2342(3.6%)であった。同じく2015年調査の数値はそれぞれ、1万5568(20.6%)、570(0.8%)、3044(4.0%)。全体としては回を追うごとに数値が大きくなっており、過疎化、高齢化が進んでいることを示す一方、前回調査では消滅が予測されていた集落であっても、その後の調査では消滅の可能性はないと回答した集落も多い。また30代、40代の子育て世帯の転入が24.9%(2015年調査。過疎地の集落全体に対する割合)の集落で記録されており、それも新たなライフスタイルを希望して首都圏から転入した世帯が多く、またUターンよりもIターンがはるかに多い。
[編集部 2019年9月17日]
『大野晃著『山村環境社会学序説――現代山村の限界集落化と流域共同管理』(2005・農山漁村文化協会)』▽『山下祐介著『限界集落の真実――過疎の村は消えるか?』(ちくま新書)』
(池上甲一 近畿大学農学部教授 / 2008年)
(平井允 まちづくりプランナー / 2008年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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