内科学 第10版 の解説
Epstein - Barr ウイルス (EBV)(ウイルス感染症)
概念
Epstein-Barrウイルスは,その多くが幼小児期に感染する一般的なウイルス感染症の1つである.そのほとんどは無症候の不顕性感染で経過するが,思春期以降の初感染で伝染性単核球症をしばしば起こすことが知られている.また,EBVは発癌に関与するウイルスであり,上咽頭癌,Burkittリンパ腫,Hodgkinリンパ腫,胃癌など,さまざまな悪性腫瘍の発生にもかかわっている.
病因
EBVはヘルペスウイルスγ亜科に属するウイルスであり,初感染後も潜伏感染として感染が持続しさまざまな腫瘍性疾患などを発症する.潜伏感染しているEBVは,EBNA,LMPなどの発現遺伝子の表出パターンによってlatencyⅠ,Ⅱ,Ⅲに分類されている.そして,そのパターンと発生する腫瘍性疾患については,ある程度の関連性が示されている.
疫学
EBVは,既感染者の唾液中に排泄され,健常例ではキス,飛沫など,唾液を介して感染する.幼少時期での感染が多く,わが国では2~3歳までに50~70%が感染を受け,20歳代で90%以上が抗体を保有している.しかし,近年は初感染の年齢が徐々に上昇傾向にあることも指摘されている.また,初感染は幼小児期に多いが,伝染性単核球症は思春期以降における発症頻度の高いことが知られている.
病態生理
EBVは,B細胞,上皮細胞,あるいはT細胞やNK細胞にも感染し,初感染,潜伏感染,再活性化などにより,さまざまな疾患を発生する.幼少時にEBVに感染しても,その多くは不顕性感染で経過するが,思春期以降の初感染では伝染性単核球症をしばしば起こす.これは,伝染性単核球症がEBVに対する細胞性免疫反応の過剰反応であり,成長によって細胞性免疫が発達してくることが影響しているのではないかと考えられている.そのほかにも,EBV関連血球貪食性リンパ組織球症,慢性活動性EBV感染症,X連鎖リンパ増殖症,移植後リンパ増殖症などを発症することがある.またEBVはさまざまな腫瘍発生にも関与し,Burkittリンパ腫,上咽頭癌,胃癌,Hodgkinリンパ腫,鼻性NKリンパ腫,胸腺癌などの原因となる.
臨床症状
1)伝染性単核球症(infectious mononucleosis):
EBVの初感染により,発熱,咽頭炎,扁桃炎,頸部リンパ節腫脹,肝脾腫などを発症する.ごく軽症から数週以上持続する例まで,その発症の程度はさまざまである.既感染者の唾液に排出されたEBVが,思春期以降に感染して発症することが多いため,kissing disease(キス病)とよばれることもある.血液検査では異型リンパ球の増加がよくみられる.【⇨14-10-17)】
2)EBV関連血球貪食性リンパ組織球症:
発熱,発疹,肝脾腫,血小板減少などで発症し,多臓器障害をきたすこともある.
3) 慢性活動性EBV感染症:
発熱,肝脾腫,リンパ節腫脹などが数カ月以上にわたり持続する.
4)EBV関連悪性腫瘍:
EBVは,Burkittリンパ腫,上咽頭癌,胃癌,Hodgkinリンパ腫,鼻性NKリンパ腫,胸腺癌,免疫不全に伴う非Hodgkinリンパ腫などの発生に関与する.
診断
EBVの感染を示す検査として,EBV関連抗体,遺伝子検査,感染細胞の同定などが有用である.伝染性単核球症の診断には,VCA,EA,EBNA抗原に対しての抗体価(IgM,IgG)測定が行われることが多い.VCA-IgM抗体は初感染急性期~回復期早期に陽性となるが,再活性化でも高度の活動性感染で陽性となることがある.EBNA抗体は感染数週~数カ月後に陽性となり既往感染を示す.しかし,乳幼児では感染後1年以上も陰性が持続する例がある.EBVはB細胞に潜伏感染し,感染後は血液,唾液などから排出されることがあり,これらの遺伝子検出による病的意義については慎重な判断が必要である.EBVの遺伝子量が増加する慢性活動性EBV感染症のように,EBV遺伝子量の測定が診断の目安となる疾患もある.
治療
伝染性単核球症については対症療法が中心となる.EBV関連血球貪食性リンパ組織球症は致死率の高い重症疾患であり,ガンマグロブリン,副腎皮質ステロイド薬,エトポシド,シクロスポリンなど,さまざまな治療が試みられている.慢性活動性EBV感染症では造血幹細胞移植も考慮される.[今村顕史]
■文献
Epstein-Barrウイルス感染症.感染症専門医テキスト 第I部解説編(日本感染症学会 編),pp785-790,南江堂, 東京,2011.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報