内科学 第10版 の解説
Lesh-Nyhan症候群(プリン・ピリミジン代謝異常症)
臨床症状・病態
プリンのサルベージ回路(図13-6-11,13-6-12)の酵素であるhypoxanthin-guanine phosphoribosyltransferase(HPRT)の先天性の欠損によって起こる先天性代謝異常症の1つである.遺伝子はX染色体上にあり,X-連鎖性劣性遺伝形式をとる. 症状は,神経症状と高尿酸血症である.乳児期,おむつにオレンジ色の尿酸の結晶が多量に排泄されることに気づかれる.生後3~4カ月に筋緊張低下,定頸不全,反り返りが強いなどの発達の遅れに気づかれる.不随意運動が次第に顕在化する.脳性麻痺にみられるアテトーゼ運動に比べて動きが速く,舞踏病に比べて強い後弓反張を伴い粗大な動きを呈す.バリスムスに近い動きである.顔面のジストニアも認める.これらの運動は,精神的緊張で増強する.原始反射の残存,腱反射の亢進を認める.自傷行為は本疾患に特徴的で,2~3歳頃より出現する.自分の指や舌,口唇を噛みちぎったりする.精神遅滞も認められるが,不随意運動のための構音障害があるものの言葉の獲得や会話は可能である.神経病変の機序は,まだ明らかではない.脳MRIでは,軽度の脳萎縮を認めるが特徴的所見に乏しい.高尿酸血症は,HPRT欠損のため,サルベージ経路(図13-6-11,13-6-12)の基質であるホスホリボシルピロリン酸(PRPP)の利用が低下し,PRPPとヒポキサンチン(HYP)の細胞内濃度が上昇する.PRPP上昇は核酸のde novo合成を亢進し,HYPはキサンチンとなり酸化されて過剰な尿酸産生をきたす.高尿酸血症のため,腎結石,尿管結石が多発し,閉塞性の腎障害をきたす.また,痛風症状も伴う.大球性低色素性貧血を認める.
診断
臨床症状から診断に結びつく.赤血球,培養線維芽細胞でHPRT活性の測定,遺伝子診断により確定診断される.
治療・予後
神経症状に対する有効な治療法はない.筋緊張を取るために,ベンゾジアゼピン系薬剤,バクロフェンなど,自傷に対してリスペリドン,カルバマゼピン,ガバペンチンなどが用いられるが,満足な結果は得られていない.高尿酸血症に対しては,アロプリノールの投与が行われる.アロプリノールは,ヒポキサンチンが尿酸に変換されるのを阻害する.ヒポキサンチンは水溶性が高いので,尿中に排泄されやすい.結石による腎障害を抑制することが予後を左右する.強い後弓反張により気道軟骨の圧排,挫滅,頸椎損傷もある.
遺伝カウンセリング
約2/3について,母親が保因者である.遺伝子診断により確定できる.遺伝子診断による出生前診断も可能である.[田中あけみ]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報