妊娠中に胎児の異常を調べる検査の総称で、妊婦の血液の成分を調べる母体血清マーカー検査と新出生前診断、針を刺すなどして検体を採取する羊水検査、
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胎児の状態を調べるために妊娠中に行われる検査とその結果に基づく診断(広義)。このうち、胎児の染色体や遺伝子の異常の有無についての検査および診断に限定して使われることも多い(狭義)。
[神里彩子 2020年9月17日]
検査方法としては、おもに羊水検査、絨毛(じゅうもう)検査、母体血清マーカー検査(トリプルマーカー、クアトロテストともいう)、無侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT:non-invasive prenatal genetic test)、超音波検査、コンバインド検査(母体血清マーカー検査+精密超音波検査)の6種類がある。各検査方法の特徴は以下の通りである(〔検出できる/認められている内容〕は後述の学会等のガイドラインに基づく。〔検査費用〕の金額は2020年時点の相場)。
〔A〕羊水検査
〔方法〕超音波診断装置を用いて胎児の位置や胎盤の位置を確認しながら妊婦の腹部に注射針を刺し(穿刺(せんし))、羊水を採取する。そこに含まれている胎児細胞を培養したうえで胎児の染色体や遺伝子を分析する。
〔リスク〕流産・死産のリスクは約0.1~0.3%(1000人中1~3人)。
〔検出できる/認められている内容〕染色体異常、疾患遺伝子の有無。
〔検査時期〕妊娠15週以降。
〔検査結果が出るまでの期間〕医療機関によって異なるが2~3週間程度。
〔検査費用〕全額自己負担。医療機関によって異なるが10万円から20万円程度。
〔B〕絨毛検査
〔方法〕絨毛の採取には経腹法と経腟(けいちつ)法(経頸管(けいけいかん)法)がある。超音波診断装置で胎児の位置や胎盤の位置を確認しながら、経腹法では妊婦の腹部に針を刺し(穿刺)、他方の経腟法では妊婦の腟内から鉗子(かんし)やカテーテルを挿入して、絨毛を採取する。絨毛細胞を培養したうえで胎児の染色体や遺伝子を分析する。
〔リスク〕流産・死産のリスクは約1~3%(100人中1~3人)。
〔検出できる/認められている内容〕染色体異常、疾患遺伝子の有無。
〔検査時期〕妊娠10~14週。
〔検査結果が出るまでの期間〕医療機関によって異なるが2~3週間程度。
〔検査費用〕全額自己負担。医療機関によって異なるが10万円から20万円程度。
〔C〕母体血清マーカー検査
〔方法〕妊婦から採取した血液中の3種類(トリプルマーカーの場合)または4種類(クアトロテストの場合)の成分を測定し、その測定値と妊婦の年齢その他の因子を用いて胎児が下記疾患に罹患(りかん)しているか否かについて、確率を算出する。
〔リスク〕流産・死産のリスクはなし。
〔検出できる/認められている内容〕21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、開放性神経管奇形。
〔検査時期〕妊娠15~18週。
〔検査結果が出るまでの期間〕医療機関によって異なるが1~2週間程度。
〔検査費用〕全額自己負担。医療機関によって異なるが2万円から3万円程度。
〔D〕無侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT)
〔方法〕妊婦から採取した血液(血漿(けっしょう))中に含まれる胎児のDNA断片のゲノム情報を読み取って染色体を分類し、各染色体に由来するDNA断片の量的な割合を正常群と比較することで、胎児が特定の染色体異常を有しているかを調べる。
〔リスク〕流産・死産のリスクはなし。
〔検出できる/認められている内容〕21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、13トリソミー(パトー症候群)。
〔検査時期〕妊娠10週以降。
〔検査結果が出るまでの期間〕医療機関によって異なるが1~2週間程度。
〔検査費用〕全額自己負担。医療機関によって異なるが15万円から20万円程度。
〔E〕超音波検査
〔方法〕一般超音波検査と精密超音波検査がある。前者は、妊婦健診の際に行うもので、超音波診断装置を用いて、胎児の数、胎児の発育や健康状態等を評価する。後者は、超音波診断装置を用いて、先天的な形態異常等の有無を胎児の部位ごとに確認する。
〔リスク〕なし。
〔検出できる内容〕胎児の形態からわかる疾患(無頭蓋(むとうがい)症、胎児胸水、横隔膜ヘルニア、口唇裂など)や所見(後頸部浮腫(ふしゅ)(NT:Nuchal Translucency))。
〔検査時期〕妊娠11週以降。
〔検査結果が出るまでの期間〕即時。
〔検査費用〕一般超音波検査は妊婦健診で実施。精密超音波検査は全額自己負担。医療機関によって異なるが1万円程度。
〔F〕コンバインド検査
〔方法〕妊娠初期に行う精密超音波検査による後頸部浮腫(NT)計測と母体血清マーカー計測を組み合わせて、胎児の21トリソミーと18トリソミーの確率を算出する。
〔リスク〕流産・死産のリスクはなし。
〔検出できる/認められている内容〕21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)。
〔検査時期〕妊娠11~13週。
〔検査結果が出るまでの期間〕医療機関によって異なるが約1~2週間。
〔検査費用〕全額自己負担。医療機関によって異なるが3~5万円程度。
胎児や母体への(軽微でない)侵襲の有無で区別すると、「有」がAとB、「無」がC~Fとなる。また、確定診断が可能か否かで区別すると、「可」がAとB、「否」がC~Fである。C~Fの方法で先天性異常がある可能性が高いと判断され、かつ、確定診断を望む場合には、AまたはBを改めて受けることになる。
[神里彩子 2020年9月17日]
出生児の約3~5%はなんらかの先天性疾患をもっており、その約25%が染色体異常による疾患、約20%が単一遺伝子変異による疾患、約40%が複数の遺伝子変異による疾患、約5%が環境や催奇形因子による疾患とされている(Thompson & Thompson Genetics in medicine, 8th Edition)。
このように、一定の確率で発生する先天性疾患について出生前診断を妊婦が受ける理由としては以下があげられる。(1)胎児の健康・発育状態が良好との診断を受けることで妊婦が安心感を得ることができる、反対に、胎児になんらかの異常が認められた場合には、(2)胎児に対する治療、その他妊娠中に医療処置を受けることができる、(3)出産時の最適な分娩(ぶんべん)方法や出産後の療育環境を事前に準備することができる、(4)人工妊娠中絶を受ける機会を得ることができる、というものである。(1)~(3)は出産することを前提としているが、(4)についてはその前提がなく、先天性疾患を理由とする「命の選別」に通じることから倫理的問題があるとされている。
この点、胎児の先天性疾患を理由とする人工妊娠中絶を一定の条件のもとで認めている国(イギリス、フランス等)もあるが、日本では、これを理由とした人工妊娠中絶は認められていない。しかし、実際には、胎児に先天性疾患がみつかった場合、母体保護法下で認められている「経済的事由」や「母体の健康への害」を理由に人工妊娠中絶が行われている。もっとも、出生前診断は無制約に行われているわけではなく、多くの医療機関では、学会や政府委員会が受検対象や実施要件等について定めたガイドラインに準拠する形で実施している(日本産科婦人科学会「出生前に行われる遺伝学的検査および診断に関する見解」(2011年6月改定)、厚生科学審議会先端医療技術評価部会・出生前診断に関する専門委員会「母体血清マーカー検査に関する見解」(1999年)など)。また、NIPTについては、日本産科婦人科学会による「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する指針」(2013年3月)、および、関連5団体(日本医師会、日本医学会、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本人類遺伝学会)による「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査についての共同声明」(2016年11月)にのっとり、日本医学会の認定が得られた医療機関にて実施されてきた。しかし、近年、認定外医療機関で、適切なカウンセリングの提供もなく実施している事例等が多くみられるようになり、現在(2020年6月時点)、厚生労働省においてその対応が検討されている。
[神里彩子 2020年9月17日]
妊娠中に胎児の状態を検査して診断することを、出生前診断といいます。出生前診断の分類としては、①
①の無侵襲的検査には、母体血清マーカー検査や
②のスクリーニング検査というのは、胎児が何らかの異常をもつ可能性が高いのか低いのかを調べる検査で、その結果によって確定診断検査に進むかどうかを決めることになります。母体血清マーカー検査やNIPT、コンバインド検査などが該当します。これらは確実な診断を行うものではなく、診断の確定には羊水検査などの確定診断検査が必要です。侵襲的検査は流産リスクのある検査で、絨毛検査や羊水検査が該当します。確定診断検査の多くは流産リスクのある侵襲的検査であるため、あらかじめスクリーニング検査でふるい分けを行うのです。
③については、超音波検査で胎児の染色体異常の可能性を検査することもあるので、画像検査であると同時に遺伝学的検査となる場合もあります。
一般的には出生前診断というと遺伝学的検査を意味することが多く、日本医学会の「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン(2011年)」によれば、「出生前診断には、広義には羊水、絨毛、その他の胎児試料などを用いた細胞遺伝学的、遺伝生化学的、分子遺伝学的、細胞・病理学的方法、着床前診断、および超音波検査などを用いた画像診断的方法などがある。しかしながら、出生前診断には、医学的にも社会的および倫理的にも留意すべき多くの課題があることから、検査、診断を行う場合は日本産科婦人科学会等の見解を遵守し、適宜遺伝カウンセリングを行った上で実施する。」とされています。絨毛検査は妊娠10~13週に、羊水検査は妊娠16~17週に採取するのが一般的です。
また、出生前診断とは異なり、体外受精に際して受精卵の一部の細胞を用いて行う遺伝学的検査・診断は、
遺伝学的出生前検査(診断)は、診断の目的が明らかで、かつ診断のための具体的な方法が確立されていることが必須で、表2のような疾患について行われることがあります。
すべての出生前診断は、胎児の生命倫理の点からは実施に慎重な意見もあります。出生前診断がもたらす意味をご夫婦が十分に理解し同意すること(十分なインフォームド・コンセント)および厳重な倫理的配慮が必須となり、検査の前には十分な遺伝カウンセリングを受ける必要があります。
澤井 英明
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
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(安達知子 愛育病院産婦人科部長 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
出典 母子衛生研究会「赤ちゃん&子育てインフォ」指導/妊娠編:中林正雄(母子愛育会総合母子保健センター所長)、子育て編:渡辺博(帝京大学医学部附属溝口病院小児科科長)妊娠・子育て用語辞典について 情報
…羊水診断法,子宮内診断(法),出生前診断(法)とも呼ばれる。出生前に原因を有し,またすでに胎生期に発症している先天異常の診断,胎児の成熟度判定など,胎児の状態について,より直接的,より正確な情報を得る方法である。…
※「出生前診断」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
各省の長である大臣,および内閣官房長官,特命大臣を助け,特定の政策や企画に参画し,政務を処理する国家公務員法上の特別職。政務官ともいう。2001年1月の中央省庁再編により政務次官が廃止されたのに伴い,...
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