内科学 第10版 「Valsalva試験」の解説
Valsalva試験(自律神経系の機能検査法)
いきみにより胸腔内圧を上昇させ,ついでもとに戻す際の心拍・血圧変化をみる試験である.以前は動脈内にカテーテルを留置する作業が必要であったが,現在は非観血的連続血圧測定装置により比較的簡便に検査できる(図15-4-25).
1)方法:
起坐位にて行う.深呼吸を行ったあと,水銀血圧計に接続したマウスピースにより,10~15秒間,40 mmHg以上の怒責(いきみ)を行う.その後,正常呼吸に戻し,その間の血圧と脈拍を連続的に記録する.以前は観血的にしか連続測定できなかったが,現在では装置の発達により簡便に測定可能である.
2)結果:
正常者では以下の4相が認められる(図15-4-25A).
a)1相:怒責開始直後の血圧の急激な上昇と心拍数の減少.血圧の上昇は胸腔内圧上昇による機械的機序,心拍数減少は圧受容体反射によると考えられる. b)2相:血圧の低下と心拍数の増加.胸腔内圧の上昇により静脈還流が減少し血圧が低下する.圧受容体を介し代償的に心拍数の増加する.
c)3相:一過性の血圧低下と心拍数の軽度増加.怒責解除による胸腔内圧の低下のため生じる.
d)4相:血圧上昇とそれに続く心拍数の減少.胸腔内圧低下により1回拍出量増加するが,2相から続いている末梢血管抵抗の増加は遅れて回復するため著しい血圧上昇(over-shoot)が生じる.これによる圧受容体反射の結果,心拍は次第に低下する.
3)判定:
異常所見は第4相における反跳性血圧上昇や徐脈の消失,第4相に比した2相における心拍数の増加低下(Valsalva ratio:2相の頻脈/第4相徐脈),前値より2相における血圧低下が50%以上の場合であり,特に4相の血圧反跳性上昇の欠如は交感神経遠心路障害を示す重要な徴候である(図15-4-25B).[平田幸一]
■文献
Longo D, Fauci A, et al eds: Harrison’s Principles of Internal Medicine, 18th ed, McGraw-Hill, New York, 2011.
Low PA, Benarroch EE, eds: Clinical Autonomic Disorders. 3rd ed, Lippincott Williams and Wilkins, Philadelphia, 2008.
日本自律神経学会編:自律神経機能検査法,第4版,文光堂,東京,2007.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報