便失禁は便意をがまんできずに、または無意識のうちに便がもれることをいい、便秘と同様に病気ではなく排便障害の症状のひとつです。
一般に便失禁は、肛門をしめる筋肉(
また、加齢により骨盤底の筋肉全体が弱くなることや直腸の感覚が鈍くなること、さらに下剤の乱用が失禁の要因となることもあります。
便意を感じないままに自然に便がもれてしまうタイプ(
自然に便がもれてしまうタイプは、無意識での肛門のしまりが弱くなっており、高齢者や直腸脱の患者さんなどに多くみられます。がまんできずに失禁してしまうタイプは、意識的に力を入れた時のしまりが弱くなっており、分娩時の
また、直腸に固まった便が詰まっている時に下剤を飲むと、固まった便のまわりを下痢便がつたって失禁することがあります(オーバーフロー型便失禁)。
診断は症状から明らかです。肛門括約筋のはたらきを詳しく調べる検査としては、内圧カテーテルを用いて肛門括約筋の力を測定する肛門内圧検査と、肛門括約筋の形状を超音波画像として描き出す肛門管超音波検査があります。
対策は、まず失禁が減るように排便をコントロールすることです。特定の食べ物や飲料で下痢や軟便になりがちな人は、それらをひかえるように注意します。
また、便秘で刺激性下剤を服用している場合は、塩類下剤(酸化マグネシウムなど)に変更して下痢や軟便にならないようにコントロールします。普段から下痢や軟便が多い人は、便を固める作用のある止痢薬で有形便にコントロールすることも有効です。
排便後しばらくして失禁する場合は、排便のたびに坐薬や浣腸を使用し、直腸内の残便をなくすように試みることが有効な場合もあります。突然の失禁に対しては、一時的に便の排泄を抑える肛門用タンポン(アナルプラグ)を使用するのもひとつの方法です。
分娩時の会陰裂傷などで肛門括約筋に明らかな損傷がある場合には、括約筋を縫合する手術(括約筋形成術)を行うと失禁症状の改善が得られます。
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
便が不随意に排出する状態。日本で便失禁症状をもつ人はおよそ500万人と推計されている。加齢による肛門(こうもん)括約筋の働きの衰えや、脊髄(せきずい)の下端部にある仙髄の損傷により、排便を制御する仙骨神経が障害されることなどが原因である。症状から、便意を我慢できずに漏れる切迫性便失禁、切迫性はなく気づかないうちに少しずつ漏れ出る漏出性便失禁、その両方の混合性便失禁に大別される。原因別には、咳(せき)をしたときなどに漏れる腹圧性便失禁、便がたまっているのに便意を感じず、いつの間にかあふれ出る溢流(いつりゅう)性便失禁、認知症や運動障害などでトイレにまにあわない、あるいは排便動作がうまくいかないなどが原因で漏れる機能性便失禁などがある。
従来は、個別の排便習慣をとらえて時間ごとに排便を促す、括約筋の収縮訓練や修復を行う、薬物によってコントロールするなどの治療やケアが主流であったが、近年になって排便を制御する仙骨神経を電気的に刺激して症状を改善する機器(仙骨神経刺激装置)が開発された。機器を臀部(でんぶ)の皮膚の下に埋め込み、継続的に神経を刺激することで排便を調節するこの方法は、仙骨神経刺激療法(SNS:sacral nerve stimulation)とよばれ、2014年(平成26)から健康保険の適用となり慢性便失禁の治療の幅が広がった。
[編集部]
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