プロスポーツ

改訂新版 世界大百科事典 「プロスポーツ」の意味・わかりやすい解説

プロスポーツ

プロフェショナルスポーツprofessional sportの略称。〈プロスポーツ〉の語は広い意味で使われるが,一般には職業として行われるスポーツを指す。アマチュアスポーツの対語でもある。日本では野球と相撲,ゴルフ,ボクシングに加え,新たにプロサッカーJリーグが93年5月にスタート,プロ化の波を迎えている。ヨーロッパではサッカー,テニス,自転車など,アメリカではゴルフ,野球,アメリカン・フットボールバスケットボールアイスホッケーなどのプロスポーツが人気を博しており,なかでもサッカーのワールドカップは最高のイベントになっている。

プロスポーツの歴史は古い。発生史的には祭祀の演技者あるいは曲芸師,見世物の興行師など特技によって金銭・物品を得る行為に起源をもつといえるだろう。古代ギリシア時代のオリュンピア祭では競技に賞金が賭けられたり,優勝者に金銭・物品や特典が贈与された。古代ローマでは剣闘士と呼ばれた奴隷が養成され,ローマ市民の快楽の一つとして猛獣や人間同士の殺し合いを演じさせられた。中・近世でも宮廷貴族や騎士の間では,槍競技などの試合に金品などが賭けられ,勝者はヒーローとして称えられた。近代をむかえ,産業革命と資本主義の発展が職業としてのスポーツを成立させる経済的基盤を準備した。アマチュアスポーツがブルジョアジーの子弟を教育する学校を中心に発展するのに対して,プロスポーツは都市を中心に職場や地域で発生していった。イギリスでは19世紀の前半にボクシングやクリケットのプロのクラブがロンドンにできた。しかしイギリスのスポーツはジェントルマン精神を重視し,アマチュアスポーツに比重を置いた。プロスポーツの発展を促したのは新興のアメリカであった。19世紀中葉に野球のプロ化が始まり,1871年にニューヨークで全国プロ野球選手協会が結成され,76年にナショナル・リーグが組織された。さらにゴルフ,テニス,フットボールなどにプロ組織が結成され,1920年代には現在のプロスポーツの基礎が確立した。

近代スポーツの歴史は,アマチュアスポーツとプロスポーツとの対立と論争の歴史でもあった。イギリス流のアマチュアリズムは品性や公正など徳目を優先し,スポーツを余暇行為としてとらえることにこだわり,肉体労働者のスポーツ参加やスポーツを職業とすることに反対し,初期のアマチュア規定ではこれらの人々は厳格に区別され排除されていた。オリンピック大会は世界のアマチュアスポーツの祭典と規定され,その参加規定や競技者資格をめぐってしばしば紛糾した。1912年の第5回ストックホルム・オリンピック大会の五種と十種競技の優勝者J.ソープ(アメリカ)は,プロ野球で一時期プレーをしていたことを理由に,また1920年代に世界の陸上競技界に君臨したP.J.ヌルミフィンランド)は不正な金銭を受け取ったという理由で,いずれもアマチュア選手資格を奪われた。72年の第11回冬季札幌オリンピック大会では,アルペンスキーのK.シュランツ(オーストリア)がプロスキーヤーと断定され大会から追放された。また,ブロークン・タイム・ペイメント(損失賃金補償)をめぐる論争も早くから起こり,競技者や国際競技連盟(IF)と国際オリンピック委員会(IOC)とが争い,1962年から緩和された。テニスとサッカーはアマチュアとプロがいっしょに競技できるオープン制を採用し,テニスはオリンピック競技から長い間除外されてきた。しかし,68年に全英テニス選手権(ウィンブルドン・テニス大会)がオープン化に踏み切り,さらに74年IOCはオリンピック憲章から〈アマチュア〉の用語を削除して以降,両者は急速に接近した。さらに84年の第23回ロサンゼルス・オリンピック大会ではプロのサッカー選手の参加を限定付きながらも認めた。その後,テニス,バスケットボール,アイスホッケー,フィギュアスケート,野球のプロ選手のオリンピック参加が認められている。

1982年にはアマチュアリズムのモデル団体といわれた国際陸上競技連盟IAAF)が選手の賞金競技出場を認めたため,各地で賞金レースが行われるようになるなど,スポーツのプロ化はますますすすんでいる。その背景には,スポーツ人口の急増と高度化による文化的な成熟,〈見るスポーツ〉の増大,スポーツの商業主義的な利用などがあげられる。93年のプロサッカーJリーグの創設は,〈地域に根ざしたスポーツ文化の振興〉という新しいスポーツ理念をかかげ,日本のスポーツの在り方にインパクトを与えた。しかしながら,スポーツの発展のうえでいくつかの問題もかかえている。スポーツの商品化は必然的に報酬や配当金の格差をつくり出し,一部への集中を促す。そのためにプロスポーツ競技者の生活はきわめて不安定であり,男女の格差も著しい。85年に労働組合として結成された日本プロ野球選手会は〈選手の権利と生活向上〉をめざし,最低年俸の引上げ,移籍の自由を求め,93年からは〈特別資格選手制度〉(フリーエージェント制度)の導入を実現した。一方でプロスポーツは営利を追求するあまりに,勝負にこだわってアンフェアなプレーなどでスポーツマン精神をゆがめたり,暴力行為など社会的な不祥事も起こし,そのあり方がしばしば問題化する。またプロスポーツは観客の存在と興行的性格を不可欠とすることから,〈見世物〉としてギャンブル性が助長され,ヨーロッパで社会的問題になっているサッカーのフーリガン(暴力的ファン集団)などの荒廃現象も発生している。〈プロ化の波〉を迎えている日本のスポーツ界は競技者や指導者の制度や組織が未発達であり,職業としても職場としても諸条件の確立が十分ではない。近年では,プロ野球での野茂英雄らの大リーグ移籍やマラソンの有森裕子の肖像権主張などが波紋を呼んだが,競技者・指導者の生活と人権の保障を充実していくことが,プロスポーツの発展のうえでたいせつである。
アマチュアリズム
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「プロスポーツ」の意味・わかりやすい解説

プロスポーツ
ぷろすぽーつ

プロフェッショナル・スポーツprofessional sportsの略で、金銭の報酬を目的とするスポーツのこと。スポーツを娯楽として見せる「競技プロ」としての面と、素人(しろうと)の愛好者にスポーツを指導して報酬を得る「指導プロ」としての面の二つがある。見せるプロはスポーツ・ショーであり、目で見る娯楽として存在意義がある。

 プロとアマチュアの違いは、報酬をもらうかどうかであるが、そのほかに、スポーツではアマチュアの側が厳重な規定を設けて、プロとの区別を明確にしている。イギリスでは、プロが強すぎるからこれを除くというのがアマチュアとプロを分けた最初の意図であった。現在もアマチュアとプロを区別しているのは、競技を公平にやろうというねらいが根本にあるからである。ただ、報酬を基準にして区別すると、いろいろ抜け道を考えるので種々の規定が必要になるわけである。大衆にスポーツを普及する方法としては、よいスポーツを見せるためにプロスポーツを盛んにすることもよい。スポーツも芸術のように専攻者が出てこないと発達もしなければ普及もしないものである。プロとアマチュアは関連するもので、アマチュアが盛んになるとプロも隆盛になるのである。

 日本のプロスポーツは、日本プロスポーツ協会がその発達を図っている。同協会は、各種団体の集合体であった日本プロスポーツ会議(1968年結成)を母体として1990年(平成2)12月に設立された財団法人で、2001年5月現在、財団法人日本相撲(すもう)協会、社団法人日本野球機構、日本プロボクシング協会、社団法人日本プロゴルフ協会、社団法人日本女子プロゴルフ協会、新日本プロレスリング(株)、全日本プロ・レスリング(株)、社団法人日本プロボウリング協会、社団法人日本プロサッカーリーグ、日本ダンス議会、(株)日本レースプロモーション、日本自転車振興会、日本中央競馬会、地方競馬全国協会、社団法人全国モーターボート競走会連合会、日本小型自動車振興会の、あわせて16団体が加盟している。

[神田順治]

その後の動き

2008年8月現在、日本プロスポーツ協会の加盟団体は、日本相撲協会、日本野球機構、日本プロボクシング協会、日本プロゴルフ協会、日本女子プロゴルフ協会、日本プロボウリング協会、日本プロサッカーリーグ、日本ダンス議会、日本レースプロモーション、日本中央競馬会、地方競馬全国協会、財団法人JKA(競輪、オートレース)、財団法人日本モーターボート競走会、新日本キックボクシング協会の14団体となっている。

[編集部]

『日本プロスポーツ協会編・刊『プロスポーツ年鑑2001』(2001)』

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