1992年に登録された世界遺産(自然遺産)。九寨溝(チウチャイゴウ)は、中国四川省北部のアバ・チベット族チャン族自治州の九寨溝県に位置する。岷山(びんさん)山脈の秘境の渓谷で、自然保護区になっている。この一帯は標高3000mを超えるの急峻なV字谷に、大小100以上の湖沼が連なる面積720km2の湖水地帯である。石灰岩地層からの湧き水を水源とする豊富な水が棚田状の湖沼を滝となって次々と流れ落ちるという、美しい特異な景観を生み出している。この独特の景観は、一帯がカルスト台地になっており、水に溶け出した大量の石灰分が長い年月をかけて堆積し、流れを遮って湖沼と滝をつくり出したことによる。この九寨溝によく似た景観は、クロアチアの世界遺産、プリトヴィッチェ湖群国立公園にも見られる。湖沼は透明度の高い水を湛えている。湖底に沈殿・堆積した石灰分により、日中には青、夕方にはオレンジ色に輝く幻想的な湖面を見せる。こうした美しい湖沼と周囲の手つかずの自然環境は、中国国務院から第1回目の重点風景名勝地として指定されたこと(1982年)などをきっかけに広く知られるようになり、近年、人気の観光地として注目されるようになった。また、周囲はジャイアントパンダ、レッサーパンダ、金糸猴(ゴールデンモンキー)などの稀少動物が生息しており、1997年にユネスコの「人間と生物圏計画」(MAB)の生物圏保護区にも指定された。こうしたことから、現在は中国政府や四川省政府により、厳重な保護・管理が行われており、観光客の入場総数制限が行われている。また、この一帯は古くからのチベット人など少数民族の居住地であり、付近には彼らの信仰するチベット仏教やボン教の寺院などの宗教施設も点在している。◇英名はJiuzhaigou Valley Scenic and Historic Interest Area