近藤芳美(読み)こんどうよしみ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「近藤芳美」の意味・わかりやすい解説

近藤芳美
こんどうよしみ
(1913―2006)

歌人。朝鮮、馬山(ばさん/マサン)の生まれ。東京工業大学建築科卒業。中学、高校時代を広島で過ごす。高校在学中に中村憲吉と会い、『アララギ』同人となる。上京後、土屋文明師事。第二次世界大戦後「新歌人集団」を結成し、戦後派のリーダーとして活躍。1951年(昭和26)に雑誌『未来』を創刊する。歌集に『早春歌』『埃(ほこり)吹く街』(ともに1948)、『喚声(かんせい)』(1960)、『黒豹(くろひょう)』(1968。迢空(ちょうくう)賞)などがある。一兵士としての戦争体験と、知識人の良心を核に、時代の証人として、歴史や現実の動きに鋭い視線を注いでいる。その後の歌集に『異邦者』(1969)、『遠く夏めぐりて』(1974)、『アカンサス月光』(1976)、『樹々(きぎ)のしぐれ』(1981)、『聖夜の列』(1982)、『祈念に』(1985。詩歌文学館賞)、『営為』(1990。現代短歌大賞)、『風のとよみ』(1992)、『希求』(1994。斎藤茂吉短歌文学賞)、『メタセコイアの庭』(1996)、『未明』(1999)、『命運』(2000)など。歌論集・歌人論などに『歌論集 新しき短歌の規定』(1952)、『土屋文明』(1961)、『歌論集 茂吉死後』(1972)、『短歌入門』『短歌思考』(ともに1979)、『中国感傷――一歌人の中国紀行』(1984)、『現代短歌指針――短歌のはじめに』『歌と生 歌と旅――歌人として生きて』(ともに1987)、『戦争と短歌』(1991)、『短歌と思想』『土屋文明論』(ともに1992)、アテネからメソポタミアに至る旅と歌の紀行文『人間の歴史と歌』(1993)などがある。また、小説的自伝として『青春の碑』第1~2部(1964)、『少年の詩 青春の碑序篇』(1980)、『歌い来しかた――わが短歌戦後史』(1986)がある。2000年(平成12)から01年にかけて『近藤芳美集』全10巻が刊行された。『朝日新聞歌壇』選者、現代歌人協会理事を務めた。1996年(平成8)文化功労者。

[菱川善夫]

 いつの間に夜の省線にはられたる軍のガリ版を青年が剥(は)ぐ

『『早春歌』(1948・四季書房)』『『埃吹く街』(1948・草木社)』『『静かなる意志』(1949・白玉書房)』『『歴史』(1951・白玉書房)』『『冬の銀河』(1954・白玉書房)』『『喚声』(1960・白玉書房)』『『土屋文明』(1961・桜楓社)』『『石川啄木における文学と生』(1964・垂水書房)』『『黒豹』(1968・短歌研究社)』『『異邦者』(1969・短歌研究社)』『『歌論集 茂吉死後』(1972・短歌新聞社)』『『遠く夏めぐりて』(1974・昭森社)』『『吾ら兵なりし日に』早春歌・補遺(1975・短歌新聞社)』『『現代短歌の世界――作歌と作法』(1976・古川書房)』『『アカンサス月光』(1976・短歌新聞社)』『『楽章――自選歌集』(1979・至芸出版社)』『『短歌入門』(1979・筑摩書房)』『『短歌思考』(1979・短歌新聞社)』『『定本近藤芳美歌集』(1979・短歌新聞社)』『『青春の碑』第1~2部(1979・筑摩書房)』『『少年の詩 青春の碑序篇』(1980・筑摩書房)』『『近藤芳美歌集』(1980・短歌研究社)』『『樹々のしぐれ』(1981・蒼土舎)』『『聖夜の列』(1982・蒼土舎)』『『中国感傷――一歌人の中国紀行』(1984・造形センター)』『『祈念に』(1985・不識書院)』『『現代短歌指針――短歌のはじめに』『歌と生 歌と旅――歌人として生きて』(1987・六法出版社)』『『磔刑 近藤芳美歌集』(1988・短歌新聞社)』『『戦争と短歌』(1991・岩波書店)』『『土屋文明論』(1992・六法出版社)』『『風のとよみ』(1992・砂子屋書房)』『『短歌と思想』(1992・砂子屋書房)』『『希求』(1994・砂子屋書房)』『『メタセコイアの庭』(1996・砂子屋書房)』『『未明』(1999・砂子屋書房)』『『命運』(2000・砂子屋書房)』『『近藤芳美集』全10巻(2000~01・岩波書店)』『『岐路』(2004・砂子屋書房)』『『「短歌と人生」語録』(2005・砂子屋書房)』『『新しき短歌の規定』(講談社学術文庫)』『『歌い来しかた』(岩波新書)』『田井安曇著『短歌シリーズ人と作品20 近藤芳美』(1980・桜楓社)』『岡井隆著『近藤芳美と戦後世界』(1981・蒼土舎)』『塚本邦雄著『先駆的詩歌論――詩歌は常に未来を予見する』(1987・花曜社)』『岩田正著『新版 現代の歌人』(1989・牧羊社)』『小高賢著『鑑賞・現代短歌6 近藤芳美』(1991・本阿弥書店)』『河村盛明著『河村盛明評論集 傷痕よりの出発』(1992・六法出版社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「近藤芳美」の意味・わかりやすい解説

近藤芳美
こんどうよしみ

[生]1913.5.5. 朝鮮,馬山浦
[没]2006.6.21. 東京,世田谷
歌人。本名芽美。 1938年東京工業大学建築学科卒業。第2次世界大戦中の 1940年に召集され,中国に送られた。旧制広島高等学校在学中からアララギ派の歌人中村憲吉土屋文明に師事,1947年新歌人集団を結成し,俳壇に刺激を与えた桑原武夫の「第二芸術論」に反論して評論「新しき短歌の規定」を発表,戦後歌壇に指針を示した。 1948年戦争下の暗い時代を生きるヒューマンな青春像をうたった第1歌集『早春歌』,敗戦直後の作品を収めた『埃吹く街』を発表して注目を浴びた。 1951年歌誌『未来』を創刊,主宰して道浦母都子ら多くの歌人を育て,戦後歌壇を代表する歌人として活躍。『朝日新聞』の歌壇選者をほぼ半世紀務めた。作品は叙情的な面をもつとともに戦争体験による反戦の姿勢が反映されている。 1973~84年神奈川大学教授。 1977~91年現代歌人協会理事長。 1969年『黒豹』で迢空賞,1991年『営為』で現代短歌大賞を受賞,1996年文化功労者に選ばれた。

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百科事典マイペディア 「近藤芳美」の意味・わかりやすい解説

近藤芳美【こんどうよしみ】

歌人。本名芽美(よしみ)。旧朝鮮馬山生れ。東京工大建築科卒業。1932年《アララギ》に入会。中村憲吉,次いで土屋文明に師事。1947年〈新歌人集団〉を結成。1951年歌誌《未来》創刊。1955年より〈朝日歌壇〉選者。現代歌人協会理事長。歌集に《早春賦》《埃吹く街》《黒豹》などがある。
→関連項目岡井隆宮柊二

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「近藤芳美」の解説

近藤芳美 こんどう-よしみ

1913-2006 昭和-平成時代の歌人。
大正2年5月5日朝鮮馬山生まれ。中村憲吉,土屋文明に師事。昭和23年社会性のつよい「埃吹く街」などを刊行,戦後派として注目される。26年「未来」を創刊,主宰。44年「黒豹」で迢空(ちょうくう)賞,平成3年「営為」で現代短歌大賞。8年文化功労者。平成18年6月21日死去。93歳。東京工業大卒。本名は芽美(よしみ)。

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