仙田満(読み)せんだみつる

日本大百科全書(ニッポニカ) 「仙田満」の意味・わかりやすい解説

仙田満
せんだみつる
(1941― )

建築家。神奈川県横浜市生まれ。1964年(昭和39)東京工業大学工学部建築学科卒業後、1964~1968年菊竹清訓(きくたけきよのり)建築設計事務所に勤務し、1968年、環境デザイン研究所を設立、主宰する。

 事務所における設計活動、そして調査や計画といった活動とともに、早稲田大学理工学部、日本大学芸術学部の講師(1974~1984)を務め、1982年に東京工業大学より工学博士を授与される。琉球大学工学部建設工学科教授(1984~1987)、名古屋工業大学工学部社会開発工学科教授(1989~1992)などを歴任。1992年(平成4)より東京工業大学工学部建築学科教授(~2005)。

 仙田は1972年ごろから、子供の遊び環境の設計、研究調査を開始。野中保育園(1972、静岡県)や沖縄県石川少年自然の家(1975)などの設計を通じて、その体系的な理論構築を始める。その後の一連の建築作品は子供のための環境デザインを中心にした施設や環境、建築デザインが多い。長期にわたる研究と設計を通じた実践によって、子供の遊びと建築空間、あるいは遊具装置を総合的に研究、デザインし、理論的に整理、再構築した日本では数少ない建築家である。

 仙田は、「こどもはあそびの天才だといわれるが、あそび環境を奪って、こどもたちに遊べというのはおかしい」と述べ、現代の都市環境のなかで子供が「遊ぶ」ためには、まず環境を用意してやることが必要であるとし、その環境は「プライマリーストラクチャー」(基本構造)によって形成される、という。それは「あそび場」「あそび時間」「あそび友だち」「あそび方法」といった四つの遊び環境の要素であり、その環境に六つの遊び空間、すなわち「自然スペース」「オープンスペース」「道スペース」「アナーキースペース」「アジトスペース」「遊具スペース」を形成するのである。

 建築家としての仙田はこのような理論を用いて、博物館や科学館、公園などの設計や計画に「子供の遊び」を絡ませ組み立てていく。具体的な作品は、浜松科学館(1986)、つくば科学博こども広場(1985)、伊勢原市図書館・こども科学館(1988)、相模川ふれあい科学館(1986、神奈川県)、富山県こどもみらい館(1992)、愛知県児童総合センター(1996。日本建築学会賞)、海南市わんぱく公園(2000)、鳥取砂丘こどもの国(2000)、アクアワールド(2001、茨城県)、佐久市子ども未来館(2001)などである。そこには近代建築以降、合理性や機能性によっては見いだすことのできなかった空間や表情を建築に与えることになっていく。仙田が手がけた数々の子供の施設にはカラフルにペイントされた遊具が置かれていることが特徴である。しかし、たとえば茨城県自然博物館(1994)のように、ゆるやかなカーブと勾配をもった見学動線や流動的な空間構成などがつくられていることを見のがしてはならない。「子供」や「遊び」といった要素は、実は近代建築の合理性、機能性からはこぼれ落ちていたものである。それゆえ仙田の建築ではこれらの要素をきっかけとして、閉塞した計画論、建築論ではつくることのできなかった新しい空間を生み出しているのである。

 そのほかの主な作品としては、常滑(とこなめ)市体育館(1993)、多摩六都科学館(1993、東京都)、東京辰巳(たつみ)国際水泳場(1993)、兵庫県立但馬(たじま)ドーム(1998)などがある。

 おもな著書には、『こどものあそび環境』(1984)、『あそび環境のデザイン』(1987)、『こどもと住まい』(1990)、『子どもとあそび』(1992)、『美術館・博物館』(1995)、『プレイストラクチャー』(1998)などがある。

[鈴木 明]

『『こどものあそび環境』(1984・筑摩書房)』『『あそび環境のデザイン』(1987・鹿島出版会)』『『こどもと住まい』(1990・住まいの図書館出版局)』『『子どもとあそび』(1992・岩波書店)』『『美術館・博物館』(1995・新日本法規出版)』『『環境デザインの展開』(2002・鹿島出版会)』『仙田満著、藤塚光政撮影『プレイストラクチャー――こどものあそび環境デザイン』(1998・柏書房)』

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