内科学 第10版 「多尿」の解説
多尿(症候学)
①1日尿量が3Lをこえるとき多尿と定義される(厳密な定義ではない).②多尿と鑑別しなければならない症候に尿意切迫(尿意をおぼえると我慢できない),頻尿(排尿回数が多い),夜間尿(夜間に排尿回数が多くなる)がある.これらは,1回の尿量が少ない場合もあり,必ずしも多尿とはならない.
病態生理
①糸球体で濾過された原尿は尿細管を通過する間に99%再吸収される.この再吸収が障害されると多尿となる.したがって多尿の原因は尿細管における再吸収障害である.②多尿のメカニズムを理解するためには,尿細管の各セグメントにおける水とナトリウム(Na)の再吸収の過程を理解しなければならない(図2-40-1).近位尿細管ではNaが能動的に再吸収されると浸透圧勾配に従って水が再吸収される(a).Henleの下行脚でも水は浸透圧勾配に従って再吸収される(b).しかし,集合管では抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone:ADH)の存在下でのみ水が再吸収される(c)(ADHが存在すると,水を透過させる水チャネル(アクアポリン)が尿細管細胞の尿腔側に発現してくる.ADHが存在しないと,尿細管の管腔側に発現していたアクアポリンは細胞内に移行する).③浸透圧利尿(溶質利尿):図2-40-1のa,bおよびcの部分では浸透圧勾配に従って水が再吸収されている.したがって,糸球体で濾過された原尿の浸透圧が何らかの原因で異常に高い場合(尿中に溶質が負荷された場合)には水の再吸収が阻害されて多尿となる.これを浸透圧利尿という.④水利尿:集合管でADHの作用が働かないと,cの部分の水の再吸収が不十分で多尿となる.この場合,低浸透圧の尿が大量に排泄される.⑤過剰なNa喪失:近位尿細管でのNa再吸収(d)が低下するため水の再吸収が低下して多尿となる.囊胞性腎疾患や尿細管間質障害のときにみられる多尿の原因である.⑥妊娠中に発症する多尿がまれにみられる.胎盤で産生されるADH分解酵素が増加することが原因であるといわれている.分娩後直ちに軽快する.
鑑別診断
①尿浸透圧が150 mOsm/kg以下であれば水利尿が,300 mOsm/kg以上であれば浸透圧利尿が多尿の原因である.中間値を示す場合,両者が多尿に関与している場合がある.②浸透圧利尿をきたす疾患は限られており,原因は明らかなことが多い(表2-40-1).入院患者では浸透圧利尿の方が水利尿より多い.③浸透圧利尿に基づいた多尿であることが確定しているにもかかわらず,原因が不明な場合,浸透圧負荷に対する電解質と尿素の寄与を算定するとよい.2(Na++K+)×尿量として算出した電解質排泄量が600 mOsm/日をこえていれば,電解質が多尿に関与している.Na+,K+,Cl-などの通常の電解質と尿pHを測定すれば,多尿の原因がNaCl,NaHCO3,その他の電解質に起因するのか鑑別することができる.電解質排泄量が600 mOsm/日未満なら,電解質でない溶質が多尿に関与している.糖尿などの原因がはっきりしない場合,尿中への尿素排泄量を測定するとよい.④低張の多尿は水利尿を意味する.ADH分泌低下(中枢性尿崩症,多飲)かADHの作用不全(腎性尿崩症,低カリウム血症,高カルシウム血症)が原因である(表2-40-2)⑤尿崩症については【⇨12-3-3)】[木村健二郎]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報