硫化ニッケル(読み)りゅうかニッケル(英語表記)nickel sulfide

改訂新版 世界大百科事典 「硫化ニッケル」の意味・わかりやすい解説

硫化ニッケル (りゅうかニッケル)
nickel sulfide

ニッケルと硫黄の化合物の総称

化学式Ni3S2。ニッケルの微細粉末硫化水素気流中で190~280℃に加熱すると得られる。高温型(斜方晶系)と低温型の2変態がある。

化学式Ni7S6。海綿状ニッケルと硫黄とを石英管中に真空封入後500℃で長時間加熱すると得られる。高温型(α)と低温型(β)の2変態がある。α形は斜方晶系で400~573℃で安定。

化学式NiS。α,β,γの3変態がある。いずれも黒色の粉末あるいは結晶で,硝酸および王水に溶ける。α形は空気を断って塩化アンモニウムを加えた塩化ニッケル(Ⅱ)水溶液に硫化水素を通すと得られる。六方晶系。ヒ化ニッケル型構造。低温で反強磁性。塩酸に可溶。空気中で不安定でNi(OH)Sになる。347℃でβ形に移る。β形は最も安定な型で,空気を断って酢酸酸性塩化ニッケル(Ⅱ)水溶液に硫化水素を通すと得られる。斜方晶系。比重5.0~5.6。融点810℃。冷希塩酸に難溶,煮沸すると溶ける。γ形は弱硫酸酸性硫酸ニッケル(Ⅱ)水溶液に硫化水素を通すと得られる。天然に針ニッケル鉱として産し,ニッケル製錬の原料となる。六方晶系。比重5.34(30℃)。396℃でβ形に移る。希塩酸に難溶。

化学式Ni3S4。天然にポリジム鉱として産する。ニッケルを亜硫酸ナトリウムとともに封管中で200℃に加熱しても得られる。暗灰色結晶。比重4.81。立方晶系。スピネル型構造。塩酸に不溶。硝酸で分解。

化学式NiS2。炭酸ニッケル(Ⅱ)を炭酸カリウムおよび硫黄とともに強熱すると得られる。暗鉄灰色。立方晶系。黄鉄鉱型構造。Ni2⁺とS22⁻とから成る。比重4.31。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

化学辞典 第2版 「硫化ニッケル」の解説

硫化ニッケル
リュウカニッケル
nickel sulfide

】硫化ニッケル(Ⅱ):NiS(90.76).三つの形がある.(1)α形:黒色の無定形結晶.空気中では不安定で,Ni(OH)Sにかわる.396 ℃ でβ形に転移する.水に不溶,塩酸に可溶.(2)β形:黒色の結晶.酢酸酸性の酢酸ニッケル水溶液に硫化水素を通じると得られる.もっとも安定な形.融点810 ℃.密度5.0~5.6 g cm-3.水,塩酸に不溶.(3)γ形:黒色の結晶.天然には,針ニッケル鉱として産出する.密度5.34 g cm-3(30 ℃).融点777 ℃.水,塩酸に不溶,いずれも硝酸,王水に可溶.[CAS 16812-54-7]【】二硫化ニッケル:NiS2(122.82).炭酸ニッケル(Ⅱ)を炭酸カリウムおよび硫黄とともに強熱すると得られる.暗鉄灰色の結晶.密度4.31 g cm-3.CoS2,FeS2,MnS2と同じく黄鉄鉱型構造をもつ.[CAS 12035-51-7]【】四硫化三ニッケル:Ni3S4(304.34).天然には,ポリジム鉱として産出する.ニッケルを亜硫酸ナトリウムとともに封管中で200 ℃ に加熱すると得られる.暗灰色の結晶.密度4.7 g cm-3.水に不溶.硝酸によって分解し,硫黄を生じる.[CAS 12137-12-1]【】二硫化三ニッケル:Ni3S2(240.21).NiS上に水素を通じて360 ℃ 以上で加熱すると得られる.青銅色の三方晶系結晶.融点788 ℃.硫化ニッケル触媒として作用しているのはこのものと考えられている.ニッケルの硫化物は硫化ニッケル触媒として,重油の高圧水素添加分解,有機化合物脱水素脱硫触媒に用いられる.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

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