日本大百科全書(ニッポニカ) 「塩化アンモニウム」の意味・わかりやすい解説
塩化アンモニウム
えんかあんもにうむ
ammonium chloride
代表的なアンモニウム塩の一つ。工業的には塩安とよばれる。
天然には火山噴出物や温泉の中にみいだされるが、工業的には、アンモニアソーダ法(塩安ソーダ法)で炭酸ナトリウム(ソーダ灰)を製造する際の副産物として生産される。
実験室ではアンモニアと塩酸の中和、硫酸アンモニウムと塩化ナトリウムの複分解などで得られる。無色の結晶性固体で、α(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)の3種の変態があり、転移温度は184.3℃、および零下30.3℃である。高温では安定なα形は塩化ナトリウム型構造であるが、βおよびγ形は塩化セシウム型構造である。熱すると昇華して気体となり、塩化水素とアンモニアとに分解する。苦味を帯びた辛味があり、幾分吸湿性で、水によく溶ける。水溶液はほとんど中性であるが、加熱するとアンモニアが分離するので酸性となる。窒素肥料として大量に使用されるが、工業的にははんだづけ、めっきの際の表面清浄剤(フラックス)、乾電池の合剤、電解液の調製などに用いられる。分析試薬、医薬(去痰(きょたん)薬、利尿薬)としての用途もある。
[鳥居泰男]