トールテール(英語表記)tall tale

翻訳|tall tale

改訂新版 世界大百科事典 「トールテール」の意味・わかりやすい解説

トール・テール
tall tale

アメリカの西部および南部の辺境地帯に伝わる民間伝承のほら話。1820年ころから盛んになり,20世紀になるまで人気があった。辺境地帯に住むきこりや牛飼いや開拓者たちが焚火を囲み酒を汲みかわしながら,冒険譚,逸話などをおもしろおかしく語り,自分の勇敢さを誇ったりした。話の内容の信憑性よりも,語りの巧みさが評価された。真実味を出すために〈わしがこの目で見たことだが〉とか,〈実際に聞いた話だが〉という始まりが多い。こと細かな情景描写で現実性を帯びさせ,事実と虚構のバランスをうまく保ちながらも,最終的には,事実を描写した物語というより奇想天外なつくり話であるために,聴く者を笑わせる。ユーモア話の一形態であるが,東部人の洗練されたユーモア感覚とは異なり,粗野で素朴なこっけい味が真髄である。主人公には実在人物ダニエル・ブーンやデービー・クロケット大佐も登場する。1835年から56年まで発行された《クロケット暦》に刷られたほら話を通して,クロケットのみならずブーンや,〈竜骨船の王者〉というあだ名のフィンクMike Fink(1770?-1823?)の名が西部一帯に広く知れ渡った。ソープThomas B.Thorpe(1815-78)による《アーカンソー大熊》(1841)は古典に入る。カールサンドバーグは伝説上の人物であるきこりのポール・バニヤンの話を書いた。文学ジャンルの一つとして位置を占めるようになり,M.トウェーンはこの伝統影響を強く受けた。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のトールテールの言及

【アメリカ文学】より

…最初の本格的リアリズム作家はクーパーのようなロマンス作家を敵視したマーク・トウェーンであった。彼のデビュー作《カラベラス郡の有名な跳び蛙》(1867)は西部開拓民の間に伝わる〈ほら話tall tale〉の語りの伝統を巧みに文学化した短編である。彼の最高傑作《ハックルベリー・フィンの冒険》(1885)は,自由と秩序,自然と文明などのアメリカ的テーマを集約しつつ無垢(むく)な少年の運命を語り,のちにヘミングウェーをして〈すべての現代アメリカ文学は《ハックルベリー・フィン》という1冊の本に由来する〉と言わしめた。…

※「トールテール」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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