ハープシコード [harpsicord]
英語でハープシコードと呼ばれるこの楽器は、ドイツ語ではチェンバロ(Cembalo)、フランス語ではクラブサン(Clavecin)と異なる呼称をもつ。ルネッサンスからバロックの時代に特に重用された鍵盤楽器の1つで、ピアノの基となった。その発音機構はピアノと異なり、打鍵すると、側面に爪の付いたジャックと呼ばれる部分が持ち上げられ、その爪が弦を引っかいて音を出す。そこから出される音は、独特の鋭さがある一方で、小さな音量、短い持続時間しかもたない。そのため、装飾音を多用した音楽が作曲された。また、タッチの違いが音量や音色にほとんど影響を与えないため、いくつかのストップを交替させたり、それらを組み合わせることによって変化をつける。鍵盤の規模は時代にもよるが、5オクターブ以上のものもあり、鍵盤の段数は2段が典型的である(1段・3段のものもある)。ハープシコードは、バロック時代には独自の語法を作り上げる一方で、通奏低音楽器としてあらゆるジャンルの音楽で、なくてはならない役割を演じた。しかし、18世紀にはピアノの発明と改良、そして音楽の趣味の変化によって、ハープシコード音楽は次第にその存在を弱めていくこととなった。その後、1世紀以上も沈黙を守っていたハープシコード音楽は、20世紀になって楽器の復興が行われ、その独特の音質に引かれて作品を作り出す作曲家も現れ始めた。
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