鍵盤を操作して演奏する楽器の総称。しかし,これは鍵盤を有するという形態および演奏法による便宜的な分類で,発音体や発音原理に基づく厳密な楽器学上の分類用語ではない。
標準的な鍵盤の1オクターブは,幹音の白鍵7個と派生音の黒鍵5個からなり,これら12個の鍵は左から右に半音ずつ高くなるように配列されて,鍵の配列と音高の配列が視覚的に一致しているのが特徴である。鍵盤はこのオクターブを順次重ねたものだが,全体の幅,つまり鍵の数は楽器の種類や時代によって異なる。また鍵盤は一般に手の指で操作されるが(手鍵盤),オルガンや一部のハープシコードのように,足で奏される足(ペダル)鍵盤を備えた楽器もある。いずれにせよ,1個の鍵は一つの音高に対応し,ストップ(レジスター)装置によらない限り,演奏中にこの対応関係を変化させることはできない。つまり,鍵盤楽器は音高が固定した楽器であり,音律の合理化を推し進めた西洋音楽に固有の楽器である。また鍵盤上では,一般に単音だけでなく複数の音を同時に演奏できるので,西洋で特に発達したポリフォニー(多声音楽)や和声音楽の要求にもこたえることができる。
一口に鍵盤楽器といっても,発音原理からすると,空気の振動によって発音する気鳴楽器,弦の振動による弦鳴楽器,固体の弾性振動による体鳴楽器,電気的振動による電鳴楽器に大別される。気鳴鍵盤楽器の代表はパイプ・オルガンで,鍵の操作によってパイプへの空気の流入を開閉する(オルガン)。一方,リード・オルガンやアコーディオンは,鍵の操作によってフリー・リードを振動させる。弦鳴鍵盤楽器の中には,撥弦によるもの(ハープシコード属)と打弦によるもの(クラビコード,ピアノ)の2種類がある。体鳴鍵盤楽器は,鍵盤の操作によって鉄製の平板をフェルトハンマーで打つチェレスタによって代表される。電鳴鍵盤楽器の中には,機械的な回転を電気振動に変換する電気オルガンと,電子回路の振動を音響信号に変える電子オルガンがある。
最も古い鍵盤楽器はオルガンで,すでに古代ローマ時代の水圧オルガンが鍵盤を備えていた。西洋では8世紀にビザンティンから大型のふいご式オルガンが導入されて急速に広まり,やがて教会と結びついて,精神的にも技術的にも,西洋音楽の根幹を形成するようになる。14世紀には,オクターブに12鍵を有する半音階鍵盤も普及した。中世,ルネサンス時代を通じて,オルガンには多くの改良が加えられてしだいに大型化し,17,18世紀のバロック時代にオルガン音楽は黄金時代を迎える。一方,有弦の鍵盤楽器は14世紀のイタリアで始まり,鍵盤の操作によって金属片が弦を下からたたくクラビコードと,羽軸や皮製の爪が弦をはじくハープシコードが発達した。前者は単純な機構をもつ小型の楽器で,音量もきわめて小さかったが,演奏者のタッチに対して鋭敏に反応したので,内面的な表現を好むドイツ人のあいだで18世紀中ごろまで家庭楽器として特に愛好された。ハープシコードは形も大きく,いっそう華麗な響きをもっていたので,宮廷の演奏会などで独奏楽器として用いられただけでなく,協奏曲や室内楽の通奏低音を受けもつ楽器としても欠かすことができなかった。しかしその反面,打鍵によって強弱の変化を与えることが困難であった。そこで18世紀の初頭,イタリアの鍵盤楽器製作者クリストフォリB.Cristofori(1655-1731)が〈ピアノ(弱音)とフォルテ(強音)の出せるチェンバロ〉を考案し,ドイツでもジルバーマンが同様の楽器を試作して,ハンマーによって弦を打つピアノが誕生した。この変化は,音楽に強弱や音色の微妙な変化を求めるようになった時代の要求にこたえたもので,管楽器におけるリコーダーから横型フルートへの移行と並行する現象である。ピアノは種々の改良によって音量と性能を増し,1780年代から急速に普及して,創作の上でも教育の上でも,近代西洋音楽の最も基本的な楽器となった。その背後には,公開演奏会制度の発達に伴う音楽空間の拡大,和声音楽の発展に最もよく対応しえたピアノの性格という,社会的かつ音楽的要因が存在したのである。
→ピアノ
執筆者:角倉 一朗
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
ピアノやオルガンなど、鍵盤をもつ楽器の総称。鍵によって動かされる発音機構はさまざまであるため、楽器分類上の項目としては一面的である。鍵盤楽器は、発音機構を比較的自由に設計できるため、オルガンのように規模の大きな楽器を1人で演奏することも可能になる半面、楽器に対する身体のかかわりが密になりにくいという欠点ももつ。発音が間接的であるうえに、音律や、発音から消音までの音の変化が演奏者の自由にならない楽器がほとんどである。ただしアコーディオンのように、鍵操作以外の動作に演奏が大きく左右される楽器もある。一方、音の関係が視覚的にとらえやすいため、教育や理論研究への役割が大きい。また、自由な組合せの重音、和音を鳴らせることや、類似の演奏装置の楽器(クラビコード、チェンバロなど)を演奏できることも利点になっている。
[前川陽郁]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…諸外国でも表現は一部異なるが(たとえば管楽器に相当する英語はwind instruments〈風楽器〉である),これとほぼ同様の3分法がみられる。オルガン,ピアノなど鍵盤をもった楽器を区別して鍵盤楽器と称し,全部で4種類とする場合もある(さらに電子楽器を加えることもある)。この分類法はわかりやすいので,とくにヨーロッパ,およびその影響の強い音楽文化圏において広く使われているが,それ以外の諸民族の楽器に対しても,かなりの程度まで応用することが可能である。…
※「鍵盤楽器」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加