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趣味 しゅみtaste; Geschmack; goût

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

趣味
しゅみ
taste; Geschmack; goût

ヨーロッパでは元来,物の味を意味し,さらにこの意味が拡張され,快,不快を含む全感覚領域を含む趣向一般に及んだ。 17世紀後半から「趣味」の語は,これら本来の意味から,より特殊的,精神的,文化的に昇華され,一般に悟性によらずして直覚的に価値と非価値を弁別する能力とされた。 18世紀のカントは,趣味による判断は論理的 (すなわち客観的・普遍的) 判断から区別されるが,人類の共通感覚が趣味に普遍妥当的価値を与えるものとし,趣味判断を美的判断とみなした。また現在,社会学の分野では,時代の趣味と流行との関係を論じる試みがある。一般にはより広く教養や美的感受性を養うこと,それに役立つ活動をいい,読書,各種の芸術の鑑賞,職業としてでなく作品の製作を楽しむことなどが趣味の代表といえよう。単に知的な興味を満たすことや娯楽にとどまるものは趣味とはいえない。

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デジタル大辞泉の解説

しゅ‐み【趣味】

仕事・職業としてでなく、個人が楽しみとしてしている事柄。「趣味は読書です」「趣味と実益を兼ねる」「多趣味
どういうものに美しさやおもしろさを感じるかという、その人の感覚のあり方。好みの傾向。「趣味の悪い飾り付け」「少女趣味
物事のもっている味わい。おもむき。情趣。
「さびた眺望(ながめ)で、また一種の―が有る」〈二葉亭浮雲

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大辞林 第三版の解説

しゅみ【趣味】

専門としてではなく、楽しみにすること。余技。ホビー。 「 -は読書と音楽鑑賞です」
物のもつ味わい・おもむき。情趣。 「われは、この-多き十和田湖を去りぬ/十和田湖 桂月
物の美しさ・おもしろみを鑑賞しうる能力。好み。感覚。センス。 「持ち物一つにも-のよさが出ている」

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

趣味
しゅみ
taste英語
Geschmackドイツ語
gotフランス語

日本語での「趣味」は、ほぼ「好み」と等しく、そこから主たる二つの意味が分かれてくる。その第一は、特定の活動に対する個人的な嗜好(しこう)であり、「私の趣味は音楽鑑賞です」というような場合がこれにあたる。第二は、客観的に好ましいと判定されるようなものを現に好む審美眼のことで、とくに「よい趣味」と形容されることが多い。この二つの意味は西洋語では厳密に区別され、taste、got、Geschmackの3か国語の単語は第二の意味に対してだけ用いられ、第一の意味での趣味は、フランス語やドイツ語でも、英語のhobbyを用いて表すことが多い。ここで扱うのは第二の意味、すなわち審美的規範性としての趣味概念に限られる。それもとくに美的判断能力の意味で理解されることが、少なくとも美学のなかでは普通であるが、一般的な用語法のなかでみれば、「よい趣味の着物」というように、対象を形容することもある。この両義性は、趣味の原語がどれも本来は「味覚」と同時に「味」を意味する単語であることと、密接な関連がある。[佐々木健一]

その概念史

ラテン語に始まり近代諸語のなかに広まったことわざの一つに、「味覚については議論できない」という意味のものがある。これは食べ物に関する嗜好が個人的なものであることを語ったことばであるが、近世美学のなかで確立された趣味概念は、逆に普遍妥当な判断の能力として規定されるものであった。この美の判定能力としての趣味という概念は、18世紀に盛んな論議をよび、確立されたもので、その始まりは、17世紀スペインの思想家B・グラシアンに求められる。「慎み」のなかに人の理想像を認めた彼は(『有徳の人士』El Discrete・1645)、その完全な判断能力を趣味(スペイン語でgusto)ということばで表現した。この場合の趣味は、美や芸術に限らず、諸事万端に及ぶ判断力をさしていた。グラシアンの思想は全ヨーロッパに影響を与え、ラ・ロシュフコーをはじめとするフランスのモラリストたちは、やはり当時の理想的人間像であるオネットムhonnte homme(フランス語)と結び付けて趣味を論じた。判断力が味覚の隠喩(いんゆ)によって語られるのは、その判断の直接性や内発性に注目するからであるが、17世紀末のフランスでの議論を通して、さらに判断の正しさが強調され、正しい価値を見抜く能力がよい趣味であるとされた。したがって、よい趣味のなかには無意識的なものであれ理性的なものが含まれている、ということになる。
 このような考えの根底には、「よい趣味」とボン・サンスbon sens(フランス語、良識と訳され、理性と同義とみなされるが、文字どおりには「よい感覚」の意味)とのアナロジーがある。このような「よい趣味」は、一方で悪い趣味と対立しつつ、他方で時代の理想的人間像と結び付いているのであるから、サン・テブルモンのような人が、趣味の歴史的変化という事実を指摘したのも当然である。このような経緯を経て18世紀に入ると、趣味は時代の思潮のなかの主要概念の一つとなる。主たる論者としては、モンテスキュー、ボルテール、ヒューム、E・バークらがいるが、注目すべきことは、趣味が道徳や政治の領域から切り離されて、美と芸術の領域に限定されるようになったことである。そして趣味概念に決定的な哲学的規定を与えたのがカントである。彼は『判断力批判』(1793)において、趣味をもって美を判断する先天的能力とみなし、趣味判断が快・不快によって対象の美醜を識別する直感的な判断でありながら、普遍妥当性を要求しうるものであるとした。カントによって趣味は、美を判定する能力という資格を与えられ、いまだにこの意味での趣味を語る美学者もあるが、思想史的にみれば、19世紀に入ると主題的に論じられることがほとんどなくなった、過去の概念である。[佐々木健一]

その吟味

中世の価値体系が崩壊したあとのルネサンス―近世期において、直感的な価値判断はきわめて重要な意味をもっていた。準拠すべき価値の尺度がない以上、「感じる」ことによって価値を直接見分けるほかはなかったからである。そこに、趣味概念がこの時期に重んじられた理由がある。この判断は普遍妥当性を要求しつつ、その反面では趣味に固有の相対性をはらんでいる。たとえば18世紀においてよい趣味と目されたのは、ルイ14世の時代の様式であり、この意味での趣味はほとんど「様式」と同義であり、時と所により多様に変化する。そのような判断を絶対視することは、趣味の本質的なパラドックスである。とくにカントは、様式とはまったく無縁な自然美を分析の対象としつつ趣味を語っているが、これは不合理かつ逆説的である。その反面で彼はまた、共通感としての趣味という考えを示してもいるが、これは趣味=様式が時代の一般的傾向と結び付いていることを認めたものにほかならない。味覚の隠喩が適切か否かは別として、これらの逆説性や内的矛盾は、美の判断の本質に属するものといってよい。[佐々木健一]
『カント著、原佑訳『判断力批判』(1981・理想社) ▽ラ・ロシュフコオ著、内藤濯訳『箴言と考察』(岩波文庫) ▽E・バーク著、中野好之訳『崇高と美の観念の起源』(1973・みすず書房) ▽E・カッシーラー著、中野好之訳『啓蒙主義の哲学』(1962・紀伊國屋書店) ▽佐々木健一著「近世美学の展望」(『講座美学1 美学の歴史』所収・1984・東京大学出版会)』

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